がんに克つ

父のがんを治すためにがんを研究しました。がんは意外と簡単に治ることを知ってもらえたら、亡き父も喜んでくれると思います。

脊椎カリエス

2020-06-20 09:09:22 | 健康・病気

『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は最終回です。

◆脊椎カリエス

脊椎カリエスは、非常に悲惨な病気なので、まずはその説明から始めたいと思います。

『療養教本 下巻 第一編 肺臓以外の結核性諸疾患』(亀井玆常:編、黎明会:1934年刊)という本によると、「脊椎カリエスとは、脊椎骨に結核性病変をおこし、為に骨質の融解を来たす疾患である。」と書かれています。そして、胸椎に病変があれば、脊柱が湾曲して突出するそうです。

治療法は、身体をギブス等で固定し、半年から2、3年程度絶対安静を守り、自然に治癒するのを待つしかなかったようです。また、患部が化膿した場合は、針を刺したり切開して排膿したそうです。

俳人・歌人の正岡子規は、1896年(明治29年)に脊椎カリエスを発症し、手術を受けたのですが、その様子が『子規の回想』(河東碧梧桐:著、昭南書房:1944年刊)という本に描かれているのでご紹介しましょう。なお、子規は自身の脊椎カリエスについて、周囲の人に「背中へ大山が出来てナ」と笑いながら話していたそうです。

「其の三月ニ十七日、佐藤三吉博士の手術があるというので、立合人に私が立たせられた。成程脊髄の中央部に腫物でもなければ、筋肉の膨脹でもないエタイの知れない大きな隆起がある。大山が出来たというのも、感覚ばかりでもない、驚くべき贅瘤(ぜいりゅう=こぶ)なのだ。当時天下無二の国手(こくしゅ=名医)の手術というのが、鋭く長い漏斗状をした銀色の管を、力に任せて贅瘤の肉へ突き刺す、無造作なものであった。局部麻酔など進歩した方法も無かったのか、患者は身を震わして痛みを堪えていた。 突き刺した管をそのまま、さぐりを入れて、中の膿をさそい出すのであるが、刺し込み場所がよくないとかで、二度び管を刺し替えた。」

どうやら、この手術は排膿のための処置だったようですが、患者の苦痛が伝わってきて、脊椎カリエスの悲惨さがよく理解できますね。結局、このときできた2つの穴の一方は、いつまでも癒着しないで、絶えず膿を拭きとらなければならなかったそうです。

なお、本ブログの「日光浴と空気浴」でご紹介したように、脊椎カリエスには日光浴が著しい効果を示すそうで、『綜合日光療法』(正木不如丘:著、三光書院:1930年刊)という本には、下の写真の少女の脊椎カリエスが、15か月の日光浴で完治したことが書かれています。

脊椎カリエスの少女
【脊椎カリエスの少女】(正木不如丘:著『綜合日光療法』より)

ここからは『漢方の味』に戻りますが、鮎川氏によると、脊椎カリエスは主に背骨の病気ですが、股関節や肋骨に病変が現われることもあるそうで、この本では股関節カリエスの例が紹介されています。

それによると、以前、鮎川氏は肋膜炎の少年を治療したことがあったそうです。その少年は、当時中学3年生だったのですが、その2、3年後、今度は股関節カリエスにかかり、病院では手の施しようがないので鮎川氏に往診の依頼が来たそうです。

そこで詳しく話を聞いたところ、この少年は、股関節が痛くなって近所の医者に診てもらったところ、股関節カリエスと診断され、大学病院に入院したのですが、膿が溜まって切開排膿した後も少しも治る様子がなく、この先10年かかるか20年かかるか見当がつかないと言われて別の病院に転院し、そこでも進展がなかったため1週間前に現在の病院に入院したものの、結局ここでもいつ治るか見当がつかないと言われたのだそうです。

往診した鮎川氏は、彼を退院させ、小柴胡湯と桂枝茯苓丸の合方に大黄を加えて投与し、さらに伯州散(はくしゅうさん)を兼用するとともにその軟膏を塗布したところ、約2週間で排膿が止まり、その後も服薬を続けた結果、股関節カリエスは約1年で完治し、彼は杖なしで歩けるようになったそうです。

一方、前述の正岡子規は、手術後も病気が進行して2、3年後には病変が尾てい骨にまで及び、寝返り一つできない状態となったそうです。子規は1902年に34歳で亡くなったそうですが、もし彼が漢方医の治療を受けていたら、もっと長生きして、日本文学の歴史を変えていたかもしれませんね。

今回登場した伯州散は、『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本によると、他の漢方煎薬と兼用されることが多く、主として興奮・強壮作用があり、他には鎮痙・鎮痛・去痰・排膿・止血・止瀉作用があるそうです。

また、結核性の骨や皮膚の病気に神効があるそうで、脊椎カリエスとは相性がいいようです。ただし、内臓に急性の炎症がある場合には絶対に使用してはならないそうです。

なお、小柴胡湯は本ブログの「蓄膿症」で、桂枝茯苓丸は「呼吸器病」でそれぞれ解説していますので、よかったら参考にしてください。

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腎臟炎

2020-06-06 15:46:43 | 健康・病気

『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第13回目です。

◆腎臟炎

鮎川氏によると、腎臟炎を治療する際には、急性と慢性を区別すれば充分なのだそうです。

なお、『簡易家庭療法薬の志るべ』(宮城県薬剤師会:1932年刊)という本によると、急性腎臟炎は、感冒やその他の急性伝染病、または中毒症などが原因で起こり、慢性腎臟炎は、急性より移行する場合と、慢性伝染病、リウマチ、アルコール中毒など様々な原因で起こる場合があるそうです。

そして、急性腎臟炎の症状は、普通は悪寒発熱、頭痛、腎臓部疼痛を訴え、嘔吐することがあり、四肢や顔面がむくみ、尿は減少し混濁して赤色となり、尿毒症・肋膜炎等を併発することがあるそうです。一方、慢性腎臟炎は、その経過が緩慢で、眼の障害をきたすことがあるそうです。

ここからは再び『漢方の味』に戻りますが、急性の腎臓炎は、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)や大青竜湯(だいせいりゅうとう)を用いれば大概すぐに治るそうです。

また、慢性の腎臓炎は、大柴胡湯(だいさいことう)と大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の合方、少し重症の場合は大承気湯(だいじょうきとう)の兼用で治ってしまうのが普通だそうです。

ところで、病気を治療する上で何に着目すべきかということについて、当時の西洋医学の専門家は心臓や肺に重きを置いていたそうですが、鮎川氏は、大事なことは昔から言われている「肝、腎、要」(かん、じん、かなめ)という言葉であり、

「昔の医者は着眼が異(ちが)っていた、流石(さすが)に偉かったと感服させられる。」

と語っています。

鮎川氏によると、肺病(肺尖、肋膜、気管の病気や肺炎)、頸腺結核(るいれき)、扁桃腺の病気、関節炎、胃腸病などは、水毒が直接の原因であり、腎臓を調整することによって解決がつくそうです。

また、腎臓の状態を診断する際に、尿を検査して蛋白があるから腎臓が悪い、ないから腎臓は大丈夫だなどという考え方が問題であり、尿所見一つぐらいを頼りにするのでははなはだ心細く、身体を診て腎臓の診察をしなくてはいけないのだそうです。

したがって、西洋医学の専門家は腎臓の問題を見逃してしまう可能性が高いわけですが、腎臓機能の不調に気づかずにいると、今度は肝臓に異変が起こってきて神経系の病気が現われるそうです。

それで、婦人のヒステリーなどは肝臓の異変であるから肝臓部に手を触れると直ちに診断がつくし、癲癇(てんかん)の患者には、肝臓肥大症に効果のある大柴胡湯を主方とした薬を用いると治るように思われる、と鮎川氏は語っています。

今回最初に登場した小青竜湯は、『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本によると、太陽病で、症状が去らず、胃内停水し、吐き気と発熱と咳があり、或(あるい)は渇き、或は下痢し、或はむせび、或は小便が出ず、下腹がふくれ、或は喘ぐ者に対する特効薬だそうです。

なお、太陽病というのは、有熱病の初期のことです。太陽の「太」ははなはだしいという意味で、「陽」の気が表位に盛んなるものを「太陽」といいます。気盛んにして血が行き詰まってふさがるため、頭とうなじが強く痛み、悪寒がする状態です。

この薬は、花粉症の薬として有名ですが、本来は胃内停水を目標に処方され、発熱と咳がみられる様々な病気(百日咳、インフルエンザ、感冒、気管支炎、喘息、麻疹、腸チフスなど)に有効だそうです。

また、大柴胡湯は本ブログの「高血圧と糖尿病」で、大黄牡丹皮湯は「盲腸炎」でそれぞれ解説していますので、よかったら参考にしてください。

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【追記】 2020年8月14日

小青竜湯に関する記述が不正確でしたので、訂正させていただきます。

『皇漢医学第壹巻』(湯本求真:著、湯本四郎右衛門:1933年刊)という本によると、傷寒論には小青竜湯について次のように書かれています。

「傷寒、表解セズ、心下水気有リ、乾嘔発熱シテ咳シ、或ハ渇シ或ハ利シ或ハ噎シ、或ハ小便不利、少腹満シ,或ハ喘スル者ハ小青竜湯之ヲ主ル」

なお、『漢法医学講演集 第1輯』(森田幸門:述、木曜会:1940年刊)という本によると、「傷寒」とは伝染病で、腸チフスやインフルエンザをひっくるめて言ったものだそうです。

したがって、本来は「太陽病」ではなく「伝染病」と書くべきでした。

ただし、「表解セズ」は、発熱等が去らないことで、病邪がまだ体表にあることを意味しているので、「太陽病」の状態であることは間違いありません。

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