前回は、山豆根(さんずこん)によって脳腫瘍が完治した症例をご紹介したので、今回はその特色を詳しくご紹介します。
まず、『新薬植物栽培』(松田秀雄:著、文学社:1920年刊)という本によると、山豆根は、和名を「みやまとべら」といい、根を煎用すれば諸薬の毒を消し、喉の腫毒を解し、胃がんにも効があると言われていたそうです。
次に、山豆根を科学的に研究したのは、大沢実験治療研究所の新田五一博士で、『日本博士録 昭和34年集』(教育行政研究所:1959年刊)という本によると、新田氏は「山豆根の悪性腫瘍抑制に関する研究」という論文によって東北大学から学位を授与されています。
さて、ここからは『長生き随談』(大沢勝:著、東洋経済新報社:1968年刊)という本に書かれている内容のご紹介です。
著者の大沢勝氏は、1917年(大正6年)に東京帝国大学医学部を卒業し、1926年(大正15年)に京城帝国大学教授となった人物で、1948年(昭和23年)に大沢実験治療研究所を設立したそうです。
大沢氏は、戦前からがんの研究をしていたようですが、戦後、頼山陽の『名家秘剤抜萃』という手記や、薬学の古典として有名な『本草綱目』を新田氏とともに調査して、山豆根に抗がん作用があることを確信したそうです。
そして、新田氏が動物実験によって山豆根の抗がん作用を証明し(平均治癒率約60%)、以下のような知見を得たそうです。
1.最小致死量は、マウスの体重1kg当たり15.5gで、毒性は非常に低い。
2.山豆根を投与すると、白血球は、増加することはあっても減少することはない。
3.山豆根で治癒した動物は、がんに対して免疫を獲得する。
この結果、山豆根の安全性が確認できたので、がん患者に対する投与を開始し、以下のような治療成績を得たそうです。
【治験例1】
37歳の男性。組織学的に確かめられた胆道がんで、激しい疼痛をモルヒネ注射でしのいでいたが、山豆根を毎日3グラム投与して約1か月後、疼痛が薄らぎはじめてモルヒネ注射の回数も減り、約3か月後にはモルヒネ注射を必要としなくなり、食欲も増し、栄養の著しい回復をみせた。そして1年後には前の職業(観光バスの運転手)に復帰することができ、8年後の現在も健康を享受している。
【治験例2】
大沢氏の門下の小児科の某博士で東北某市の病院長をしている男性。東北大学で喉頭がんと断定された患者で、本人が医師なので、治療の実施は本人に一任した。経過はきわめてよく、だんだんに痛みもとれ、しゃがれた声ももとにもどり、約3年後には医師として発病前と同様の活躍をしていた。8年後も、元気に大病院を経営しており、今もなお山豆根の服用を続けているが、なんらの障害をみない。
【治験例3】
28歳の婦人。胞状鬼胎で外科的に妊娠子宮を剔去したとき、すでに両肺に転移をきたした患者で、制がん剤テスパミンの注射を行なって白血球の減少をきたし約2000を数えるくらいだったが、治療開始後約3か月で自覚的症状および栄養の改善が顕著となり、6か月後のレントゲンにおいて著明な治癒の傾向が認められ、1年後には肺の陰影は断層撮影によっても認められなくなり、9年後の今日なんらの異常なく日々を過ごしている。
次に、山豆根が他の薬剤と顕著に異なる特色としては、患部に直接塗布したり噴霧することによっても良効を示すことです。
例えば、大沢氏門下の上原豊博士は、子宮頸部がんで特有な帯下のある婦人に、山豆根の微粉を直接腟口から吹き込んでみたところ、次の日には悪臭はほとんどなくなり、帯下も激減し、2、3回の連用によって悪臭は消え、局所の症状は著しくよくなったことを報告しています。この婦人は、内服と外用により、臨床的にはほぼ完全な治癒をかちとるにいたったそうです。
また、喉頭がんの場合は、山豆根の吸入によって、疼痛が緩和して炎症が改善し、食物の通過も容易になり、特有のしゃがれた声も回復して発声も楽になるし、肺がんの場合でも、吸入によってセキが減って楽になり、タンも少なくなってくるそうです。
さらに、舌がん、喉頭がんの場合は、山豆根をウガイ薬として用いることもできるそうです。
したがって、山豆根はまさにがんの万能薬と言えそうですが、平均治癒率は約60%ですから、やはり油断は禁物です。
もしこの薬を使用する場合は、本ブログの「癌はこれで治る」でご紹介したがん治療の五原則にしたがい、山豆根も使うべき生薬の一つに過ぎないということを認識すべきだと思います。
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【追記】 2023年10月8日
『内外植物原色大図鑑 第六巻 再版』(村越三千男:編並画、植物原色大図鑑刊行会:1934年刊)という本に、「みやまとべら」の絵があったのでご紹介します。
【みやまとべら】(村越三千男:編並画『内外植物原色大図鑑 第六巻 再版』より)
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