『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第2回目です。
なお、前回ご紹介しましたが、著者の鮎川氏は、産婦人科医から漢方医になった人物です。
◆卵巣機能不全
鮎川氏のところには、婦人科で卵巣機能不全(月経の周期が不規則だったり、無月経となる症状)と診断されて、ホルモン注射を打ってもらったものの、その後の経過が思わしくない人が時おり訪ねてきたそうです。
そういう人に対して、鮎川氏は次のように話して聞かせたそうです。(旧仮名遣いを修正してあります。)
「貴女(あなた)は卵巣の作用(はたらき)が足らないと診断されたら、何故(なぜ)私の卵巣の作用(はたらき)は足らないようになったのでしょうか?と専門家に尋ねなくてはいけない。それに明答(おこたえ)の出来(でき)る幾人の婦人科の専門家が有るかは知らないが、その原因の解らない専門家に何(ど)うしてその治療が出来(でき)ましょうか?」
そして、身体の状態を井戸に例えて、水が不足している井戸に他(よそ)から水を補給しても問題は解決しないように、卵巣機能不全の人に卵巣ホルモンを注射しても、それは一時的なごまかしに過ぎないと説明したそうです。
鮎川氏は、こうしたことが西洋医学の専門家の進んだ治療法であることを「悲惨」であると嘆き、卵巣機能不全は「漢方では比較的治し易い。」と結んでいます。
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この井戸の例えは、私にも似たような経験があるのでよく理解できます。
今から十数年前のことですが、私は、のどのあたりが気持ち悪くなる状態が長く続いたので、近所の耳鼻咽喉科を受診したところ、医師から、のどが乾燥しているので水分をこまめに補給するように言われました。
これはまさに、水が不足している井戸に他から水を補給する考え方で、西洋医学の専門家は原因を治療する気がまったくないことが、この本のおかげで今更ながら身に染みて分かりました。