以前、本ブログの「癌はこれで治る」という記事でご紹介した大浦孝秋さんは、1937年(昭和12年)に『癌の予防と治療法』という本を出版しましたが、実はその23年も前に、ユニークながんの治療薬を開発し、実際にがんの治療を行なっていた人がいたのでご紹介しましょう。
『医家用家庭用子宮癌胃癌及其最近療法』(通俗高梨医学叢書 第6編、高梨鎮:1920年刊)という本によると、牧野千代蔵氏が、自身が開発したヨード剤、「第三マキヨヂン」(0.4%のヨウ化カルシウムやケイ酸などを含有)を使って、胃がんや食道がんなどを患う多くのがん患者を治療したそうです。
著者の高梨鎮氏は医師で、第三マキヨヂンの効果に驚いてこの本を書いたそうで、がんが治った人の写真と実名を多数紹介して、第三マキヨヂンの素晴らしさを絶賛しています。
なお、『牧野沃度使用摘要』(牧野千代蔵:著、大日本牧野沃度研究所:1922年刊)によると、マキヨヂンには3種類あって、内用マキヨヂンは一般家庭向けの健康保全薬で、第二マキヨヂンは医療機関向け、第三マキヨヂンは注射薬だそうです。
マキヨヂンを開発した牧野千代蔵氏は、医師にして製薬業も営んでおり、1914年3月1日(大正3年、45歳?)に、東京市麹町区紀尾井町三番地に大日本牧野沃度研究所を開設し、ヨード療法をスタートさせたそうです。
そして、その後大いに成功・発展し、東京府中野町東中野八百八十五番地に2万坪を超える敷地を購入し、そのなかに病院や研究所、医師講習所、製薬所、営業所などを設けていたそうです。
また、マキヨヂンは、『新薬素人薬物学』(糸左近:著、金刺芳流堂:1923年刊)という本にも収録されているので、当時は有名な薬だったようです。
さて、第三マキヨヂンの特徴ですが、遊離ヨードを含有せず、デンプンに対してヨード反応を示さないと書かれています。また、
1.ヨードが、血管神経に作用して血管を拡張させること
2.ヨードが、各種病原体に作用して殺菌すること
3.ヨードが、人体の正常な細胞には無害で、それ以外の細胞を壊死させること
などが書かれています。どうやら、第三マキヨヂンには、がん細胞をアポトーシスに導くような働きがあったようです。しかも、殺菌力が高く、血管を拡張させる作用もあるため、結核や喘息、流行性感冒、心臓疾患などにも有効な万能薬だったそうです。
なお、ヨード剤を用いた治療法について同じ時代に書かれた、『沃度療法ニ就テ』(林熊男:著、帝国沃度研究所:1921年刊)という本には、0.45%のヨウ化カルシウム液を静脈注射しても、絶対に副作用がないと書かれているので、第三マキヨヂンが人体に無害であったことは確かなようです。
ただし、この本には、ヨード剤はがんには効果がないとも書かれているので、どうやら第三マキヨヂンには秘密の処方が加えられているようです。
その秘密が失われたのは残念なことですが、以前ご紹介した「ホクセイ療法」や「MMKヨード療法」でもヨードが使われており、ヨードをベースにした薬ががんに有効である可能性は無視できないと思われます。
ひょっとすると、この記事を読んだ人のなかから、将来、第三マキヨヂンを再現する研究者が現われるかもしれませんね。