何をしてもむなしい時にこの本を開いてくださいと帯にあります。しかも、
芭蕉の「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」に対して、
兜太氏は「よく眠る夢の枯野が青むまで」と豪快に詠うのです。
まさに悩むことないとばかりに。91歳の時の本です。
あまたある兜太氏の著作の中で、痛快な面と、戦争体験に裏打ちされた平和への思いにあふれている本でもありました。
俳人のみならず、多くの人々に親しまれた氏の堂々とした生き方に感嘆します。
本の中からいくつかの言葉。
・人間は偏っていること、そしてそれが魅力である。
・貧乏は悪である、いたわりの心を奪い、戦争にもつながる。
・殺戮行為の残酷さを痛感したのはトラック島での経験。
・(俳句は)生々しいことが大切で人間を書かなければだめ。
・即物と言うのは抱き合う関係(受容)
・自分自身が俳句である。
このような、経験と研究、実作に基づいた言葉にうなずくことしきりです。
戦争は許せないが戦場でも句会をし、句会では上官も二等兵も身分の差がなくできたことなど、
辺見じゅん氏の作品の「収容所から来た遺書」にあったシベリアで捕虜たちが句作に励んでいたことを思い出させてくれます。
金子氏はまた、「アベ政治を許さない」という揮毫を書き、平和を願う人々への力強いメッセージを発してくれました。
それは、戦場体験はもとよりですが、田舎の人々も戦争を望んでいたという、報道統制や教育の恐ろしさを知っていたからと分かります。
次の句はトラック島を去る時の者。
「水脈の果 炎天の墓碑を 置きて去る」
また、糞尿愛好と称して、水木しげる氏との対談があり、痛快。小林一茶の屁好きも指摘!
率直に自分を見つめ人間を見つめこんな句も。
「男根は落ち鮎のごと垂にけり」
2018年2月兜太氏は98歳で逝去。その死を惜しみ、その足跡の大きさを表すかのように、
俳句誌や文学誌では特集記事が相次いで発行されました。合掌。
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