マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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南山城村北大河原春光寺の虫除け初祈祷会

2019年05月25日 08時34分57秒 | もっと遠くへ(京都編)
JA京都やましろのHPに月間やましろ記事がある。

月間の表記はあるが更新はしてなさそうに思えるが、その一つに“やましろ探訪”がある。

なかでも興味をもったのは民俗行事に関わる12情報である。

執筆者は城南郷土史研究会代表の中津川敬朗氏(元山城町教育委員会教育長)。

情報の一つに「南山城村に伝わる祈りの行事」として年頭の行事を紹介していた。

一つは田山の宮本座と中間座にあるオトナ衆によるオコナイ。

もう一つが本日取材させていただいた北大河原・春光寺の「乱杖(らんじょう)」行事である。

また、南大河原は山の神を紹介していた。

所在地を確かめたく訪れた京都府相楽郡南山城村北大河原の春光寺。

在所北垣内にある真言宗智山派春光寺である。

寺歴や有形文化財などはあるブログが詳しく紹介している。

春光寺に初めて訪れたのは平成28年11月7日

虫除け初祈祷会と称されるオコナイ行事は乱杖会である。

寺婦人に取材主旨を伝えてあらかたの行事内容を教えてもらった。

また、当日は鎮守社の国津神社総代がおられた。

そのときに聞いた北大河原の山の神行事は数カ月後の平成28年12月10日に取材したが、南大河原の山の神は実施状況に大きな変化があったことがわかった。

前年は1月7日に行われたが、この年は1月6日。

ご住職が兼務する野殿の福常寺の行事日などの兼ね合いがある関係で元々の行事日である1月6日に調整することが難しい。

だが、この日は本来の6日にあたった。

ありがたい日に寄せていただいた春光寺乱杖会である。

この日の行事にやってきた北大河原の子どもたち。

親たちも一緒になって所作するランジョー叩きの役を担う。

僧侶および寺檀家に氏子総代兼村神主にご挨拶してから本堂に上がらせてもらった。



平成10年、春光寺の本堂は、村をあげて平成の大修復が行われた。

ご本尊は奇麗になった本堂のお厨子に納められた薬師如来立像である。

御供は正月ならではの二段重ねの鏡餅。

その前、左右に乱杖会に祈祷される2種の祭具を立てている。



一つは5本の枝をつけたハゼウルシの木。

長さは全長2m50cmにもなるハゼウルシ。

5本の枝だけでも1mの長さである。

その長い1本のハゼウルシの木は、20本ずつ、長さが1mのハゼウルシの木の束中央に納めて崩れないようにpp紐で括っていた。



この二つのハゼウルシの木にごーさんともよばれる護符を挟んでいる。

尤も長い方のハゼウルシは股状になった5本の枝先に丸めた護符を付けている。

紅白の水引で括って落ちないようにしている。

短い方のハゼウルシは皮を剥いで切込みの細工をしている。



切込みはT字型。

幅のある切込みに護符を挟んで幅の短い方から外に出す。

その方法であれば護符は外れることはない。

護符はくるくる巻き付けて輪ゴム止めする。

長いハゼウルシは左右で2本。

短いハゼウルシは左右で40本(※以前は50本)にもなる。

北大河原の全戸数は120戸~130戸になるが、必要とする村の農家、檀家に配る初祈祷の本数は檀家総代の手によって作られた。

ちなみに行事を終えてから拝見したご祈祷の護符の文字は、住職曰くパソコン文字で出力した「牛玉 春光寺 宝命」だという。

一つ、一つの文字ごとにスタンプ型朱印がある。

かつてはおそらく「牛玉 春光寺 宝印」の墨書、或いは版木刷りの書であったと推測されるが、事実がわかる記録はないようだ。

副住職が動いた。



本堂外に吊っている鐘を打ってはじまりの合図をする。

カーン、カーンの音が村中に響いているようだ。



それから入道される住職と副住職。

内陣に座るのは住職たち。

その左横に置いた太鼓打ちは国津神社の祭主を務める氏子総代兼村神主。

本堂の両脇隅に座った人たちは6人の檀家総代に子供会の代表者。

ランジョウ所作に縁叩きをする子どもの親でもある。



もっと大勢の子どもたちが居たころ。

昔のことであるが・・と話す檀家総代ら。

その時代からみれば大減である。

この年は中学1年が2人。

小学生は5年生を筆頭に4年生、3年生、2年生が続く。

付き添う母親に子たちたちが手にした棒は青竹(篠竹)。

かつては青竹(篠竹)でなくウルシ(漆)棒のようだったという。

はじめにご真言を唱える。

金剛鈴を振ってシャンシャン・・ジャラジャラと鳴らす副住職。

壇を清めて、村の安穏、家内安全、五穀豊穣などをご祈祷する導師の住職。

次は、何々の大明神・・・日本全国におよぶ数々の神社名を詠みあげる神名帳詠み。

そのときだ。

大きな声で「ラーンジョー(※乱杖)」と発声された住職。



前に据えていた2mほどの長さの牛杖(ごーつえ)を取り出して、後ろに居る副住職に手渡した。

と、同時にドーン、ドーンと強く打ち鳴らす太鼓。

後方に廻った副住職が動いた。



それと同時にガタガタガタと音を鳴らして叩く竹の棒。

堂内に敷いた板を叩くランジョー所作。

檀家総代に子供会代表。

回廊に座っていた子どもたちに母親も揃ってガラガタガタと叩く竹の棒。

太鼓も鳴る。



竹も鳴る。

その間の副住職は本尊前と内陣の間をぬって右回り。

一周廻ってもとの席に戻る。

そして、牛杖は住職に戻される。

嵐のように打たれる鳴り物も静けさを取り戻す。

敬って申し不動坊修法を唱えて国家安全などを祈る。

そのときだ。

再び大きな声で「ラーンジョー」と発声された。

先ほどと同じように住職から牛杖(ごーつえ)を受け取った副住職が動く。



太鼓はドーン、ドーン。

竹叩きはガタガタガタ。

大きな音をたてることで村から悪霊を追い出す所作である。

牛杖(ごーつえ)を抱えるようにもった副住職は再び廻って位置に戻る。

この作法は「行道(ぎょうどう)」という。

法会の際に本尊仏、或いは本堂の縁周りを右回りに巡り歩く作法である。

再び静けさを取り戻して席に就く。

次の読経は観音経。

そして3度目も大きな声で「ラーンジョー」。



子どもたちも力強く竹を振り下ろしてカタカタカタカタ。

やや乾いた音のように聞こえたランジョー所作。

一般的に「乱声」の字を充てるが、当地では「乱杖」。

数日前に取材した奈良県榛原・萩原玉立(とうだち)に宇陀市榛原戒場(かいば)も同じくランジョーを充てる漢字は「難除」であったことを付記しておく。



おりんを打って始まった般若心経。

副住職が務める般若心経はドンドコ、ドコドコ・・、太鼓を打ちながら唱える。

ときには力強く、激しく太鼓を打つ般若心経である。

般若心経は三巻。

続いてご真言を唱えて退堂された。

その間、およそ20数分。

場を転じることなく氏子総代兼村神主が突然のごとく動いた。

ご祈祷法要を終えた次の所作は朱印を用いる牛玉捺し。

朱印の牛玉宝印を手にした氏子総代兼村神主は起立して、正面に向かって一礼する。

そして、天、地に四方の東、南、西、北に向けて判を捺す所作をする。

右を向いた東の方角。

印を突き出すような形で所作をする。

次もまた右を向いて南の方角。

印は突き出すのではなく、搗くような所作である。

次に西、北の方角。



四方を突いた次は天。

正面を向いて印を突く天の次は地。

天、地も突いて祓い清めた。

所作は慌てて撮ったものだから映像はかなりブレてしまった。



すべての所作を終えてから拝見した牛玉宝印。

護符は、この朱印の捺印でなくパソコン出力の印であった。



作法をしてくれた子どもたちをお礼に見送られた。



ちなみに子供会がこの日の行事を伝えた文書には“えんたたき”と表記していた。

まさに縁叩きである。

奈良県内にもランジョー所作は各地で見られるが、子どもの縁叩きはまず見ることがない。

かつては本堂回廊でしていた地域もあったが、今では語り草になりにけり。

ただ、内陣の縁を叩く地域があった。

大和郡山市小林町・真言宗豊山派新福寺のオコナイである。

本堂を建てなおすまでは築300年以上も経った観音堂。

内陣の板はフジの木で叩かれて、叩かれて薄く剥げていたことを思い出す。

子どもたちは解散されたが、檀家総代らは後片付けがある。

祈祷したハゼウルシ挟みのごーさんは40戸に配られるが、役目を終えた長いハゼウルシは2本ともとんど焼きで燃やすという。

焼かれる長い木の護符付きハゼウルシ。



いただけるならと住職、檀家総代にお願いしたら承諾してくださった。

我が家で一旦は預かるが、時機を見計らって京都府立山城郷土資料館に寄贈したいと思っている。

と、いうのも同館が平成11年10月30日に発刊した『特別展展示図録19 花と鬼と仏―春の民俗行事とオコナイ―』に報告されている「南山城村北大河原の―春光寺の虫除け初祈祷―」の頁に紹介されているごーさん挟みのウルシ棒である。

牛玉札とともに収蔵されているが、5本枝の長いハゼウルシは掲載されていないことから収蔵されていないとみた。

よろしければと、いつか訪れて寄贈したいと思っている。

お礼を伝えた一人の檀家総代。

うちでは味噌打ちに味噌壺を寝かすとき、雑菌に浸されないように、と蔵内部の暗所のところに立てたと話してくれた。

田山でも同じような話があったが、蔵ではなく味噌壺に、である。

味噌壺の蓋にごーさん札を置いとけば味噌が美味くなるという話であった。

奈良県内でも同じような話を聞いたことがある。

他にも苗代のときに立てるという人もいたようだ。

田んぼの苗代。

その苗代に水が入る水口のところに立てたという春の時季に行われるまじないの虫除けである。

ちなみに平成28年1月号に発行された『月刊むらびぃと』に、当時、春光寺の虫除け初祈祷会を取材されたウエブ記事がある。

発行は「道の駅 お茶の京都 みなみやましろ村」である。

そのウエブ記事に5股の枝があるハゼウルシのことが書いてあった。

たぶんに檀家総代の話だと思うが、5股の枝は「東、南、西、北に天」。

軸の部分は「地」を表していると・・・。

(H30. 1. 6 EOS40D撮影)