tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

製造業の付加価値率の推移と春闘展望

2023年12月26日 14時47分16秒 | 経営

来春闘に向けて、金属労協や基幹労連が本気でこれまでの停滞した春闘の殻を破るような賃上げの要求基準を打ち出したことは、日本経済の沈滞からの脱出を、賃金決定の面から牽引しようという意気込みと読んで応援するところです。

しかし、本気の賃上げ要求に応える企業の方の状況はどうかという事で企業経営に関連する統計指標を見てみました。

重要なものを1つだけグラフにしましたが、それは「付加価値率」です。

付加価値率というのは「付加価値/売上高」(%表示)で企業がより効率的に付加価値を作り出しているかを示す数字です。

日本中で生産された付加価値の合計がGDP ですから経済成長のためには、まず企業の売上高が増えること、そして付加価値率が向上することが大事です。

付加価値率の向上は、基本的には技術革新を始めとした多様な新機軸の開発が支えます。企業社会は競争社会ですから、同じものを同じように作って売っていれば付加価値率は下がります。

ですから、付加価値率向上は、企業の創造力、元気度、活性化度などの指標であると言われることが多いわけです。

魅力ある新製品をどんどん市場に出すような企業は付加価値率が高くなります。

そして、大事なことは、生産された付加価値は、その企業の労使に分配されることです。

支出項目でいえば、人件費と資本費、資本費は通常支払金利と利益です。利益の中から法人税と株主配当が支払われます。

という事で、賃上げをするには企業としては付加価値を増やす必要があり、量的な増加が売上増、質的な増加が付加価値率向上によると言えます。

法人企業統計年報で春闘を主導する製造業の2021年度までの10年間の付加価値率の動きを見たのが下図です。青い線の製造業を見ますと、コロナの影響での低下がありますが、回復して来ました。

    製造業と好調産業の付加価値率の推移(%)

                資料:財務省「法人企業統計年報」

花形の自動車産業(紫)は実はあまり付加価値率が上がりません。EVの出現で今後は変化が起きるかもしれませんが、完成し成熟した製品で付加価値率を上げるのは大変です。当然販売台数を伸ばすことが重要になります。

一方電気機械(赤)と情報通信機械(緑)は、新技術、新分野が活発な広がりを見せている分野ですから、付加価値率が上がって来ているように見受けられます。このほか産業用機械の分野でも、日本の製品の評価が上がり、付加価値率の上がっている分野もあるようです。

法人企業年報は21年度までですが、その後のニュースや決算の様子を見ても、こうした傾向はこの2年ほど続いているように思われます。

勿論、法人企業統計だけでは限界がありその後の種々の情報を加えての予測もふくめてですが、発表されている統計データの動きを見ても来春闘には追い風ではないかとった状況が見られるように思われるところです。

元気な産業、元気な労使が日本経済の明日を切り開いてくれるのではないかと思っているところです。


日銀短観(2023年12月)企業好調、問題は今後

2023年12月13日 14時38分25秒 | 経営
ブログの枕は毎日「政治」です。今日は:
岸田派のキックバックは金額が少ない。(単に集金能力がないだけ)
政治家は悪いことだと思っていない。(みんなやってりゃ悪くない)
民間人と違った倫理観に洗脳されている人たちに真面な政治が出来るわけはない。

民間人は真面な感覚を持っているので、企業活動はまともに動いているというのが今回の日銀短観に現れているという事でしょうか、マスコミが指摘していますように、この所、連続3四半期改善です。

主要な原因はコロナの終息、欧米のインフレ気味の好景気、円安で輸出もインバウンドも好調という所でしょうか。勿論日本企業の懸命な努力あってのことです。

さて、「日銀短観」ですが、製造業だけでなく、非製造業も好調な部門が目立ちます。
一寸数字を見てみますと、

「現在」とありますが、調査の時点は11月が中心という事になるでしょう。
因みに企業の回答では2023年の平均円レートは132円になっています。

先行きはいつも厳しく見ることが多いので、その辺は斟酌が必要ですが、上の表では、製造業、非製造業ともに、しかも、大企業、中堅企業、中小企業のいずれを見ても、それぞれに好転、好調を維持し、中の何業種かは、絶好調と言えそうな所もあるようです。



製造業大企業の「現在」で、DIの高いのは、業務用機械と自動車の28、鉄鋼の23、窯業土石の21、汎用機械の21、食料品17などです。

非製造業大企業でDIの高いのは、宿泊・飲食サービスの51、不動産の47、情報サ-ビスの43、卸売りの34、小売り・物品賃貸・対個人サービスの28などです。

今回の業況回復は非製造業が先行し、DIの高さが目立ちますが、コロナの終息、インバウンドの盛況、消費者物価の上昇に関連するところが多いようです。

こうした状況についての背景にある、売り上げや収益の計画について見ますと、2023年度下期にかけても、製造業は比較的強気の計画になっている一方、非製造業は下期は伸び率の鈍化、あるいはマイナス転換の予想もあって、明暗が分かれているようです。

毎回見ています整備投資については、設備拡張型にはあまり動きがなく、ソフトウエア投資についてはコンスタントな投資継続の様子が見られるという所です。

国際情勢も先行き不透明、国内政治も、この先どうなるかは見当がつかいという状況もあってでしょうか、企業は些か慎重になっているようにも見えます。

法人企業統計、製造業の付加価値分配の推移

2023年11月22日 18時43分16秒 | 経営
法人企業統計、製造業の付加価値分配の推移
財務省の法人企業統計は企業経営の状況を見るのに大変優れた統計で、私の好きな統計です。

最近は日本経済の不振の原因である個人消費が伸びないという問題との関係で、GDP統計消費者物価統計などマクロ経済の分析が中心になっていますが、昨年・今年は、特に企業の賃上げの問題が主要な話題になっています。

企業が賃上げをするかどうかといった問題になりますと、企業の生み出す付加価値、それを企業が利益と人件費にどう分配しているかが当然問題になります。この点は、法人企業統計が最も役に立つわけです。

そこで今回は、法人企業統計から付加価値の分配の状況を見てみました。
付加価値はこのブログのメインテーマですが、我々は企業の作る付加価値で生計を維持している事がその前提です。

日本経済の主役はやはり製造業で、製造業のが景気のリード役と言われますから、分析したのは、法人企業統計の製造業の数字です。
バブルの崩壊と円高による「ダブル不況」が、何とか底入れしたと言われる2002年度から、統計の取れる最近時点2021年度までの動きです。

法人企業製造業の付加価値の分配の推移

                 資料:財務省「法人企業統計年報」
(グラフが見にくくて申し訳ありません)
ダブル不況」からの回復は「減収増益」スタイルで可能になったのです。売り上げは伸びず、人件費とその他のコストカットで利益を出すのです。それでも利益が増えれば、企業は元気が出ます。

2002年度以降もコストカットで人件費の割合(労働分配率)はじりじり減っています。そして2008~9年度と急上昇しています。
残念ながら、これは賃金が上がったのではなくて、リーマンショックで付加価値が減り(マイナス成長)人件費より利益が大幅に減ったためです。

企業は頑張りましたが1ドル75~80円の円高で、どうにもなりません。
それから抜け出したのは2013-4年の日銀のゼロ金利政策で、円レートが120円という円安の実現です。利益は順調に回復しました。
しかし賃金は上がらずで人件費の割合(労働分配率)は下がったままになってしまっています。利益は増えたが賃金を上げなかったアベノミクスの失敗の主要因です。

そしてそこにコロナがやって来ます。2019年度20年度とコロナの最盛期が続き、経済は再び落ち込みます。
この時の労働分配率の上昇も、賃上げはなく、コロナ禍により利益の減少によるものです。

最後の2021年度になって、コロナ禍の先も見え、円安が進み、企業経営は急回復、しかし、矢張り賃上げはなく人件費への分配は減少です。この後は「法人企業統計季報で利益上昇傾向はう事が出来ますが「年報」はまだ出ていません。

ここで気づくことは、「円安になると利益は急拡大する」という事です。製造業は輸出関連が多いですから、日本経済としては当然ですが、アベノミクスの初期も、今回の円安の進行でも、付加価値は増えますが、その分増えるのは利益だけで、人件費は増えないところに問題があるのです。

円安で日本経済が回復に転じる時、利益も、人件費も同じように増えれば、消費需要も順調に増え、消費と投資が共に増える均衡成長が成立するのです。それがないと、消費不振で経済は成長しません。

法人企業統計で見ても、円安の時、人件費への分配をどう増やすか、労働分配率が下がり過ぎないようにする方法が日本経済に欠落しているという事実がはっきり見えてきます。
来春闘で、その是正が可能になるでしょうか。労使の知恵が問われるところです。

2023年9月度「日銀短観」上昇から安定へ

2023年10月03日 13時25分16秒 | 経営
2023年9月度「日銀短観」上昇から安定へ
昨日、日本銀行から9月度の「全国企業短期経済観測調査」、通称「短観」(年4回、3月、6月、9月、12月調査)が発表になりました。

すでにマスコミも報じていて、日本経済の状況を示す代表的な「製造業大企業」が前回に続き今回の調査でも好調を維持しているという点が強調されています。

このブログでは前回の調査で、一足先に回復した非製造業をに続いて、製造業も業況回復で、製造業、非製造業の揃い踏みになって来た事を報告いましたが、今回もそのペースは変わらずです。

これは日経平均が高値を維持している事からも感じられるところですが、今回の調査では、大企業の業況回復に続いて、中堅企業、中小企業にも次第に均霑して来たようです。

DI(良い企業の%から悪い企業の%を引いた数字)の数値を見ますと、前6月、今9月、来12月の3期のDIは大企業が5-9-10と改善、中堅企業が0-0-2と水面浮上、中小企業が▲5-▲5-▲2と水面浮上直前という所です。

円安で、原材料価格が上がっているのを自社製品に価格転嫁することは従来大変難しかったようですが、政府の政策、それに世論の後押しもあり製品価格に多少は上乗せしやすくなったこともあるのでしょうか。

国際商品の値上がり、円安による日本だけの輸入価格値上がりで、いわゆる中小下請けのコスト上昇は大変でしょうが、これは皆で分担負担するしかないのでしょう。

短観の回答企業が前提にしている円レートは130円台ですが、今は150円近いといった問題も、政府・日銀は放置ですが、その分は円高になった時、取り返せるのでしょうか。

余計なことを書きましたが、短観では「売上高経常利益率(%)」も調査していて、調査は、上期、下期の「計画値」ですが、今年度の上期、下期の製造業企業の数字は次のようです。
大企業 上期11.22%、下期8.46%
中堅企業 上期5.23%、下期5.26%
中小企業 上期3.88%、下期4.20%
大企業は、上昇期から安定期に、中堅企業は、もう少し改善期待、中小企業は、もうひと頑張りといった感じでしょうか。

設備投資につて、特にソフトウェア投資について見ますと、これは2022年度と2023年度の実績・計画値の対前年度比ですが、次のようです。
製造業大企業 16.8%、18.5%
   中堅企業19.8%、30.0%
   中小企業 4.8%、30.9%
中小企業の意欲が特に目立ちます。

非製造業は、高原状態を続けるのではないかと思われる状態ですが、消費者物価の上昇が異常なまでにエスカレートしているといった意見もあり、一部にこのままでは、再び買い控えから消費不振が経済成長を阻害するのではなどとも言われます。

政府は従来と同じ赤字国債で補助金バラマキの補正予算を検討中のようですが、矢張り弥縫策でない、本格的な経済政策で、活発な企業の状態が続くような日本経済の再建策を期待したいところです。

「持続的賃上げ」:企業は利益追求だけでいいのか

2023年09月28日 14時19分32秒 | 経営
前回は連合への期待でしたが、今回は企業のサイドの意識について考えてみましょう。ここでの分析は統計的に日本企業がとってきた行動という状況証拠が中心ですので、個々の企業では、行動は多様でしょう。

プラザ合意による円高は、$1=240円が120円になるという大幅でした。もしこれが日本以外の国で起きたら、経済は大混乱に陥り破綻するのではないかと思うような円高です。

日本の企業はこれを徹底したコスト切り下げで乗り切り、2002年には、当時の言葉で「好況感なき上昇」という段階に入りました。2007-8年の就活は売り手市場になるまでに良くなっています。

しかしこの努力の成果は「リーマンショック」の際のバーナンキFRBのゼロ金利政策による$1=75~80円という円高によって壊滅、新たなコストカットに呻吟します。
日本は政府も企業も「研究開発から人材育成まで」あらゆるコストカットをしましたが、それでは却ってジリ貧で結果は出ません。

結局この窮地を脱出したのは2発の黒田バズーカです。バーナンキ理論を借用した「異次元金融緩和」という円安政策による$1=120円という円安の実現です。

これで日本経済は完全復活可能という事で、「アベノミクス」は船出しました。政府・日銀は「2%インフレ目標」達成は2~3年の内と考え、企業は、円安のお蔭で、これまでのコストカットの成果を満喫、忽ち「収益性の高い日本企業」に変身しました。

そしてここから新しい問題が発生したのです。
円高に耐えた日本企業ですが、円安にどう対処するかの知恵を発揮する前に、チャンスとばかり収益性を高め、資本蓄積に専念したようです。

その典型的な行動は、円高対応の時に使った禁じ手「賃金の安い非正規社員の活用」です。
円高不況の下では、雇用第一で、非正規雇用で失業抑制も合理性を持ったでしょう。
しかし、円安になってからも、非正規社員の比率は減らず、逆に増えているのです。

当時、非正規の正規化の動きもありました、しかし、残念ながら、それは統計に影響が出るほどのものではありませんでした。

企業にとっては、それまでの長期不況、特にリーマンショック後の企業の惨状からの復活志向、更にはアメリカ流の、企業の目的は「利益」、「時価総額の極大化」といった経営理念の変化もあったのでしょう。

こうした中で忘れ去られたのが、円高の時のコストカット策で大幅に減らした人件費回復への配慮だったようです。賃下げの難しい正規従業員を削減、補充は非正規従業員、それによって総額人件費をおおはばに下げたという事実です。

円安による利益増には人件費の削減が最も大きく効いているのです。円安になった時、企業は、先ず非正規の「正規化」で日本の雇用構造を安定したものに復元する形で、日本の労働市場にカットした人件費のお返しをするべきだったのです。

つまり、円安の利得は、労働市場にも適切に配分されなければならないのではないです。なのに円安になってからも非正規を増やすといったことは、従業員の技能と努力が企業を支えているという、人間中心の日本的経営からは考えられないことでしょう。

この労働市場への分配、日本経済の総額人件費の見直しは、具体的には、先ず非正規の正規化という雇用構造の見直し、従業員全体への賃金水準の回復という形で行われるべきでした。
この、円安の利得の人件費への配分が「忘れられていた」ことが、家計の衰弱、消費不振による日本経済の低成長の最大の原因だったのでしょう。

政府は「持続的賃上げ」ですが、その中身は、雇用構造の復元(教育訓練費注入が必要)、賃上げによる円安利得の賃上げによる家計への還元、そしてそれによる消費需要の活性化が当面の必須事項です。
そして、それによる消費活性化で、日本経済が正常に回り始め、経済成長が始まって、初めて「持続的賃金上げ」が可能になるという順序でしょう。

単に「持続的賃上げ」では、賃上げの中身も幅も解りません。持続的賃上げには、持続的成長が必要です。企業は実践部隊ですからその中身を分析し、それぞれに的確に対応する必要があるのでしょう。

経済団体もいろいろありますが、足並みを揃えて、日本経済の再建に協力してほしいものです。

PBR狂騒曲:株価が上ればそれでいいのか

2023年09月04日 14時49分25秒 | 経営
事の起こりは、今年3月に東京証券取引所が「日本の株価はもっと高くあるべきだ」という趣旨でしょう、「日本の多く企業ではPBRをもっと高めることが望ましい」という意向を示したことです。

さてPBRとは何でしょうという事になります。 
これは証券用語で「Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」で、Priceは株価、Book-valueは1株当たり純資産額で、解り易く言えば、「今、この企業を解散して、残った純資産を株主で分けると株価より多くもらえる(PBR1以下)、少なくなる(1以上)という事です。

東京証券取引所の発言は、純資産の価値よりも、企業の将来性が評価されて、その期待が、株価に反映されるような企業になってくださいという事なのでしょう。

欧米ではPBR1以上の企業が多いようですが、日本では1以下の企業が上場企業の半分以上(今年3月現在)でそんな状態は異常とみられているとのことです。

そういう事で、その後日本の上場企業では「自社株買い」が増えたようです。
自社株を買えば、市場に流通する株がそれだけ減ります。当然自社株買いの分は消却が前提ですから、配当が増えると判断されて株価が上がり、PBRが上がります。

企業経営でいえば、本来の趣旨は、やっている仕事の割に持っている資金量が多い状態ですから、その資金を生かして、もっと経営を積極化し、その企業の株を買う人が増えて、株価が上りPBRが高くなるというのが望ましいという事なのでしょう

確かに、アベノミクスの第一弾で円安が実現し、企業収益の水準は大きく回復しましたが、その後が上手く行かず、日本経済は低成長を続け、企業はビジネスチャンスの発掘・発見が難しく、企業収益改善の割に、企業活動の不振が続いた事の影響もあったでしょう。

その意味では、これから、日本経済の雰囲気が少し変わってくれば、PBRが高くなる可能性もあるように思います。

しかし、BPRが高ければいいかといいますと、それも問題でしょう。
企業にとって株価が何を表すかを考えてみれば、明らかですが、株価というのは人気投票に似たところもあり、常に会社の実態を適切に反映するものではありません。

乱高下する事もあります。積極経営、リスクテイクに積極的な企業に多いようです。
日本の場合には、「積極経営」も大事でしょうが「健全経営」がより大事という意識が強いという意見もあります。

経営の神様と言われたピーター・ドラッカーが、かつて日本に来て、日本には100年以上も続いている会社がいくらでもあることに驚き、経営の永続性が彼の経営学の柱にもなっていると言われます。

日本では戦後の経済成長期、経営者自身から「企業は公器」という言葉が聞かれました。私企業であっても、社会に役立つ公器で、安定して存続し、社会に貢献し続ける存在でなければならないという意識です。

リスクテイクの精神も発展のためには重要でしょう。しかし、儲けるためにやったのだから自分の都合で売却しても廃業しても自由というのは、日本本では通らないでしょう。

証券業界が、株は高い方がいいという気持ちは解りますが、企業経営者としては、社会的責任を自覚した適切なバランス感覚が大切でしょう。

AIを使いこなすために必要なこと

2023年07月01日 14時07分09秒 | 経営
企業で生成AIを使い始めているところも増えてきているようです。

会議の記録や、集めた資料の整理などに使うと驚異的な効率化が可能になるという点が第一です。
午前中の議論百出、喧々諤々の企画会議について、何とか今日中に議事録に纏めるようにと言われて、担当者は昼飯もそこそこ、残業をしてもというのが常識でしたが、生成AI が昼休みの内に立派な議事録を作ってくれた。といったことになるようです。

担当者は自分メモを片手に早速目を通して、一寸気に入らない所を訂正して「生成AI を使いその上で、確りチェックしました。これでいかがでしょか」と上司に提出します。
上司も目を通して「いいだろう。関係者にメールで送ってOKだな。」「午後は、明日予定だった仕事に入ってくれ。」 こんなのは最も適切な活用法です。

担当者も上司も、会議に出ていますから、生成AI の仕事の中に不適切なところがあれば、チェック出来るからです。生成AI を有能な部下として使いこなすという形です。


問題は、自分たちが解らない事についての答えを生成AI に出させる際に起きるのでしょう。
解らないから迷って生成AI に答えを聞いてみるという場合、生成AI はまことしやかに素晴らしい答えを出してくれるかもしれません。
「確かに一見素晴らしいが、自分が考ええいた可能性から考えて、やはり違和感もある。」「ただしこの点は、自分では気が付かなかったが、言われてみれば確かにそうだ。」「なんとか手直しして早く纏めてしまおう。」

といった場合は、自分にもそれなりの知見があって、自分の判断能力の中でそれなりの処理できるというところでしょうか。
生成AI を部下に見立て、叩き台、試案などを、部下に出させるという形での活用です。

本当の問題は、自分に判断する知見のない事について、生成AI にお伺いを立てて、それを単純に信じたり、自分の意見の様に振る舞う事でしょう。

生成AI の知識は、総て、人間の手によって入れられたものです。つまり誰かの意見なのです。今の生成AI では、出てきたものは生成AI の意見ということになるのですが、もともと生成AI のオリジナルの意見というのはないのです。

然し、生成AI の回答に、この部分は誰々の意見、この分は誰々の意見を使って作成しましたという資料出所はついていないようです。

特定の作家や、特定の画家、特定の作曲家などの作品だけを全てインプットして、生成AI にその人の新作を作らせようという試みもあるようで、大変興味ある試みですが、著作権とか何とか問題も多いでしょう。
それをどうするかを生成AI に聞いてみようという意見もあるようですが、最後は人間が決めるしかないのでしょう。

結局生成AI というのは教えたことは全て覚えて忘れず、それを使って命令に従った超高速な情報処理と作業をし、結果を報告する、「優秀な部下」というのが現状ではないでしょうか。

仕事効率的に進み生産性は上がっても、法律的な権利義務関係は、結局は人間が決めることになるので、いろいろ大変のような気がします。

2023年3月日銀短観:製造業慎重、非製造業順調

2023年04月03日 13時53分21秒 | 経営
日本銀行は今日、3か月ごとの「全国企業短期経済観測」、いわゆる「日銀短観」を発表しました。マスコミの報道は、製造業は5四半期連続悪化などという見しもありますが、感じとしては内外情勢を見つつ慎重な判断を、といった状況でしょうか。

先ず、大企業の状況を見ますと、製造業はDI(良い-悪い)が1で、前回12月の7から6ポイントの悪化、非製造業は前回の19から1ポイント改善20で、製造業慎重、非製造業順調といった状況です。

中堅企業、中小企業はともに前期よりして悪化でマイナスになっています(「悪い」方が多い)製造業は大企業の状況が多少増幅されて中堅・中小に影響という状況は変わっていない様です。

一方非製造業は上に見ましたように大企業は順調、中堅企業は11から14に改善中小企業も6から9に改善という事で好況感が継続ようです。

長い間不振をかこっていた非製造業がコロナの鎮静化、平均消費性向の上昇などの結果、この所、漸く浮上してきたという所でしょうか。

日本経済としては、製造業が特に国際情勢の影響を受けて見通しの難しい一方で、非製造業の活況、これは内需の拡大が救いというところではないでしょうか。

問題は先行きですが、3か月ほどの先の見通しで、製造業大企業は多少の好転、中堅、中小は、マイナスは変わりませんが、マイナスが減るという形ですが、多少の好転です。

逆に非製造業の方は各規模ともに、プラスの幅が少し縮まるという形の多少慎重な見通しとなっています

ウクライナの問題に加えて、米中関係が、アメリカの中国敵視政策が多少露骨になって、日本にも半導体製造装置の輸出の制限などを言ってくることもあり、心配の種は尽きませんが、製造業にとっては、円安が130円台で当面定着しそうなことはプラスでしょう。

コロナの鎮静化がさらに進み、円安が続けば、インバウンドの需要も大きくなることが見通されますので、製造業、非製造業ともに、今後についての明るい面はあるのですが、そを帳消しにするような面倒な国際情勢、国際紛争、突然の金融危機など懸念されます。

状況が読みにくい中で、企業な慎重にならざるを得えないのでしょう。少し先の将来まで見通さなければならない設備投資、研究開発などについても、大企業の態度にも、調査していますが、何か慎重さが目立つような気がする「日銀短観」です。

平穏を望みながら国際関係に振り回されるのが各国経済ですが、なるべく平穏の中で、経済の安定発展を考えられるよう国際政治情勢を期待したいところです。

PBRと日本の経営・経済

2023年03月07日 20時44分20秒 | 経営
PBRというのは、Price Book-value Ratio(株価純資産比率)、つまりPrice(株価)をBook-value(=1株当たり純資産)で割ったものです。

これは1株あたりにした比較ですが、純資産というのは自己資本の事で、資産総額から負債を引いたもの、「解散価値」(今解散すれば借金を払っていくら資産が残るか)です。
一方株価の総額(株価×発行済み株式数)は「時価総額」です。
つまり、「時価総額」を「解散価値」で割っても同じです。 

解散価値の方が、時価総額より大きければ、解散すれば株主は株価より多い分け前をもらえます。時価総額が足りなければその分は株主の損になります。

つまり、PBRが1より小さければ、倒産しても安心、1より大きければ倒産したら損になります。株価が資産価値より上がり過ぎているという事です。

さて、ところがです、今問題になっているのは、日本の主要企業のPBRは、1を割っているところも多くて、株価が低すぎる、もっとPBRが高くなるような経営をすべきだという指摘が最近多くなっているのです。

考えてみれば、日本企業はプラザ合意とバブル崩壊以降2012年までは円高というコストアップに対応すための苦労を重ね、身を縮めてコストカットに邁進。リーマンショック以降は、更に瀕死の円高に耐えて、さらなるコストカットの努力をしてきました。

そして2013~4年の異次元禁輸緩和で突如コストカットの必要のない経済環境(円レート120円)になり、何もしなくてもそれまでのコストカットの成果が円安差益で入ってくるといったことになったわけです。

正に円レートの80円から120円への転換は輸出産業を中心に予想外に収益好転を齎し一挙に縮小均衡路線を脱しました。
しかし25年以上にわたるコストかったに疲れ果てた日本企業は、円安による円建て利益の増加でホッとし、当面そこに安住してしまったようです。

円安で収益は好転し、内部留保で自己資本(純資産)は増え、経営は安定しましたが、些かゆっくりし過ぎたようです。コロナもそれに追い打ちをかけました。

そうした10年を経て、漸くこのところ「さて、もうひと頑張り」という気持ちになったのでしょうか、技術革新の波に乗った積極的な企業行動が見え始めたように思います。

そういう経済活動のムードの変化が、最近のPBR議論になり、蓄積資本を今後の企業発展に使うべきで、資産内容より、企業の将来性への期待から株価が上るような経営をすべきではないか、といった積極経営への注目が生まれたのではないでしょうか。

かつての日本の高度成長期は、それぞれの企業が成長するので、結果的に、その合計である経済成長が急速に進んでいるというのが実感でした。
そしてそういう時は、成長を牽引する経営、経済理論が盛んになるのです。

もしこの仮説が正しければ、政府の政策がどうあろうと、日本経済は経済成長期に入ることになります。今年はその気配が感じられる年になりそうな気配です。

そうであれば、そこで政府のなすべき役割は何でしょうか。
多分それは、そうした折角の日本経済・社会の新たな変化を、戦争に巻きこまれることで潰してしまわないようにするという事になるのではないでしょうか。

「企業は多目的組織」経営者の自覚

2023年01月25日 13時26分02秒 | 経営
企業、今は典型的には株式会社ですが、これは,人間に役に立つようにと人間が考え出したものです。

では企業は何をしているのかと言いますと、人間が資本を使って「付加価値」を生み出しているのです。
付加価値というと解りにくいかもしれません。ご承知の方には不要な説明ですが、日本中の企業や個人が生み出した付加価値の合計がGDPだと言えば一番はっきりすると思います。

企業がそれぞれに付加価値を増やせばそれだけ経済成長するのですから、企業は国のため社会のために付加価値を作って貢献しているのです。
そのために必要な人と資本は、広く社会全体から集めることが出来るのです。

広く社会から生産要素(=生産手段=人間・資本)を調達して社会のために付加価値を創る企業は、前回指摘しましたように「公器」と考えられ、欧米ではCSR(企業の社会的責任)という概念が生まれています。

こうして、企業は付加価値の生産だけでなく付加価値の分配についても広く社会全体に対して責任を負うという考え方が、今日の企業についての基本的な見方になっているのです。

これは単に労使間の賃金・利益の分配だけではなく、製品価格を引き下げれば、それは企業の生産した付加価値の一部を消費者さに配分したことになります。

こうして企業の存在は社会で高く評価され、同時にその一方で広い範囲の責任を果たし配慮をしなければならない存在に成長してきたのです。

そこで、企業というものの関係する分野や役割を一覧表にと思って以前作ったトータル・マネジメント・システムの図を下に載せます。



左の箱は生産要素である人間と資本で、これとの協力(配慮)の内容が人事管理以下の項目です。
真ん中の縦長の箱は企業で、経営者と従業員が協力してVA(付加価値=富)を生産するシステムです。
右の箱は外部の関係者(ステイクホルダーズ)と。それらにたいする企業の行うべき配慮・対応・責任などです。

「公器」である企業は、生産要素と外部のステイクホルダーに、適切に対応しつつ永続的に、より大きな付加価値を生産し続ける社会的な役割(責任)を持っているという図です。

その活動を支えるのが経営計画で、それぞれの4つの角にあるPLANーDOーCHECKーACTIONのサイクルという事になっています。

単純な図ですが、これだけ見ても、企業は内部、外部の関係者、更に社会全体に対して果たすべき多くの役割を持つ「多目的」は組織である事がはっきりします。

経営者は、それらを統括し総合的配慮のもとに、企業というシステムが最も効率的に社会全体に役立つように運営(経営)するのが役割だという事になるのです。

何に重点を置くかは環境変化の中で多様に変化するでしょう。例えば。今年の春闘では特に「賃上げ」という期待が企業にかけられているようです。これをどう判断するかはそれぞれの経営者の当面する重要課題でしょう。

「多目的の存在」である企業を預かる経営者としての行動の選択は容易ではありません。前回も触れましたように、松下幸之助や桜田武をはじめとした日本の経営者は、企業を預かって果たすべき役割の重要性を「公器」という言葉に込めたのではないでしょうか。

「企業は公器」日本的経営の思想

2023年01月24日 15時55分16秒 | 経営
最近改めて「企業は公器」といった経営についての高次元の発言か聞かれます。おそらく、最近の企業経営についての反省の気持ちが、日本社会の中に出てきたからではないかと思われます。

戦後の日本の経営者の日本経済の再建、より良い日本社会の建設に努力した姿への想いがこうした言葉になっているのではないかなどと感じているところです。

「公器」というのは「社会の役に立つためのシステム(組織)」という意味でしょう。昔から日本の企業の社是社訓には「社会の役に立つ」という一行が必ずと言っていいほど入っています。

「企業は公器」という言葉と共に紹介されるのは松下幸之助の言行録や、桜田武の「桜田武論集」などです。

松下幸之助は「誰でも公園の水道の水を飲める」ように、良いものを安く十分供給するのが企業の役割と言っています。
桜田武は、経営者というものは社会に役立つ企業という組織を「預かる」のが経営者の役割だと言っています。まさに私心のなさが滲んでいます。

その背景には、企業というのもは、だからみんなで力を合わせてやっていかなければならないと考え「全員経営」、みんなが参加して経営をやっていくという日本的経営の在り方の原点を示していると言われます。

このブログでは、企業の役割は、「人間が資本を使ってより豊かで快適な社会を創るためのシステム(組織)と定義しています。
経営者はその任を果たすために経営資源(人、モノ、カネ、技術、等々)を最も効率的に活用してより大きな付加価値を創りだし、それを適切に社会や労使等に分配するという高度なアーツで社会に貢献する人間という事になるのでしょう。

アメリカでは、1941年にJ.バーナムがその著『経営者革命』でこうした経営者の役割を明確にしています。

このすべては人間によってなされますから、企業は人間集団であり、経営は人間中心であり、望ましいのは全員経営というのが、日本的経営の原点でしょう。

この日本的経営は、プラザ合意、バブル経済の時期から財政・金融政策といった国家の行動によって(アメリカの対日政策の影響も大きく)政府主導の動きとともに次第に自主性を失い、更に、長期不況という、いわば経営のサバイバルゲームのような環境の中で苦しみ、更に、今世紀に入っての、マネー資本主義の世界的流行の洗礼を受け、経営本来の自主性を守れないままに、日本的経営から逸脱していく道を辿ることになったようです。

長期不況が長すぎたため、日銀の政策転換の異次元金融緩和で、円レートが正常に復し、日本的経営の理念を取り戻すチャンスはありましたが、その時はすでに日本的経営の下での企業経営の経験を持つ経営者、経営候補者は、殆どが退場していたようです。

全員経営は、雇用削減、非正規雇用の中で消滅、付加価値の分配は利益重視のサバイバル重視の偏重となり、マネー資本主義の盛行は「時価総額経営」の目標化といった状況になって来たようです。

今、気が付いた経営者の中には大幅な賃金の引き上げを率先する企業も出始めました。経営の、経営者の本来の在り方への回帰でしょう。
非正規従業員の正規化による教育訓練の徹底、全員経営への回帰も早晩、あちこちの企業で見られるのではないかと思われます。

全ては、わが国の経営者の、本来の経営者の在り方への回帰がカギになるのでしょう。
今春闘を取り巻く世論や労使の論争を契機に、より多くの経営者が、経営者の本来の機能に覚醒することを願うところです。

経済混乱の中の「短観」を見る(2022年12月)

2022年12月15日 17時08分42秒 | 経営

高齢者の就業問題を中断して、昨日発表の日銀「全国企業短期経済観測」を取り上げます。

マスコミでは4期連続の景況悪化、非製造業は順調などと出ています。まさにその通りですが、決して全国企業の景況が悪化を続けているというものではないようです。

最初に出ている全体的な業況判断のDI(良い-悪い:%ポイントと)を見ますと、業種別に大企業、中堅企業、中小企業です。
先ず製造業から見ますと大企業が前9月調査の8から7に低下、中堅企業は0から1に上昇、中小企業は-4から-2に改善です。そんなに悪くはありません。

悪くなっている製造業大企業の中を見ますと、紙・パルプが-22(前回-14)、石油・石炭製品-33(前回7)、自動車-14(前回-15)などで、ロシアの材木輸出停止、原油・LNG価格の高騰+円安、半導体・部品の供給不足といった特殊要因の影響が感じられます。

中堅・中小企業は、こうした大企業の影響を陰に陽に受けている気配はありますが、特に悪化しているわけではありません。
中堅企業の石油・石炭製品は-10から5に大幅改善しています。

非製造業大企業を見ますと、前回の9月の14から19に改善その中身では、情報サービスの40、対事業所サービスの35、不動産、物品賃貸、卸売りの27などが目立ちます。宿泊飲食サービスは0ですがこれは前回の-28からの大幅改善です。

という事でコロナに対する規制の緩和が大きく影響しているようです。
結果的に、国際関係で環境悪化の製造業、コロナへの規制緩和で回復するサービス業という、それぞれ特殊要因による変化がマイナス効果、プラス効果を生んでいる様子が明瞭です。

所で企業の収益状況の項を見ます。
売上高経常利益率という解り易い指標が2021年度と2022年度(上期、下期)という形で調査されています。

製造業大企業は2021年度が10.48%で、2022年度計画が10.20%で、おおきな低下は見込まれておりません。中堅企業は6.21%から5.65%に低下の計画、中小企業は4.87から4.13にという事で、収益支払能力大幅低下の計画ではないようです。

一方非製造業は大企業が6.31から6.70に計画引き上げ、中堅企業は3.73から3.75に、中小企業は3.70から3.48に計画引き下げという事ですが、それぞれ安定的の範囲でしょう。利益率に大きな変動が見られるような状況ではないようです。

次に設備投資につて見てみます。
設備投資は全産業で2022年度は前年度に比し大幅増額を計画しています。全産業規模計で、対前年度の伸び率が、2021年度の-0.8から2022年度は15.1%です。
大企業では、製造業も非製造業も20%前後増加の計画で、先行きを睨んでいます。

特筆すべきは、設備投資の海外と国内の比率ですがが、対前年の増額が、製造業で海外20.9%、国内26.7%と、従来の海外重視が逆転している事です。

国際情勢や円レートの乱高下で、企業が国内投資を見直してきている事をうかがわせる数字ではないでしょうか。

企業の収益構造の変化、今昔の感ですが

2022年11月30日 19時19分27秒 | 経営

大分以前から企業統計を見て感じていた事ですが、この所アベノミクス問題点も指摘され、コロナもあって、企業収益も冴えないなと思いながら、今年9月に発表になった法人企業統計年報で現状を確かめてみました。

この統計は、企業統計としてかなり良く出来た統計だと思っています。年報と季報があって、季報は時々、最近の状況を見るのにこのブログでも使いますが、年報は企業経営の長期のトレンドを見るのに最適です。

拾ってみたのは2つの利益率、売上高営業利益率と売上高経常利益率です。

     営業利益と経常利益(製造業)

              資料:財務省「法人企業統計年報」
     営業利益と経常利益(非製造業)

              資料:上に同じ

ご承知のように、営業利益はその企業が本業としている仕事から生まれる利益で、経常利益は営業利益から金融関連の支出を差し引き、金融関係の収入を加えたものです。
(さらに特別損益を加除したのが純利益です)

思い出せば、日本経済も元気よく、企業経営もぐんぐん伸びていた高度成長期の日本企業は、成長に追いつく資本蓄積が出来ず、いわゆる借金経営が一般的でした.

勿論金利も高く、今のゼロ金利とは違いますから、営業利益で稼いでも金利負担が重く、経常収支は何処も赤字で、その結果、経常利益は営業利益よりずっと少ないというのが一般的な企業の姿でした。

東京電力の経営分析をしたら、人件費総額よりも支払金利の方が大きいのでびっくりしたこともありました。

ところで最近5年間の数字を法人企業年報で見たのが上の2つの図です。製造業と非製造業に分けて取ってみました。

ご覧頂きますように、青の営業利益の柱より茶色の経常利益の柱の方が高いのが明らかです。
これは、経常収支のが必ず黒字であることを示しています。
経常収支の支出は殆どが借入金や社債の支払金利で、収入の方は、受取金利、受取配当、為替差益といったところです。

中身は企業によって異なるでしょうが、企業の自己資本比率は高まり有利子負債は減り、おまけに金利は史上最低です。支払金利は極小でしょう。
一方余裕資金は、多様な資金運用が可能なマネー資本主義の時代、株式投資で配当は金利の何倍も高いのが今の金融情勢です。
更に製造業の場合を見て頂きますと、非製造業の場合よりも茶色の柱が高めです、これは海外への企業進出による利子配当の増加によるものでしょう。輸出が多ければ、円安の時期には為替差益も貢献してくれます。

こうして、経常収支(金融収支)で、企業経営は安定の度を増しているのです。前述のように、これにはゼロ金利政策も大きなプラスになっているわけですら、今後ゼロ金利政策が終わればその分はマイナスですが、企業の財務体質の強化による分は変わりません。

そういった意味で、高度成長の昔と企業の収益構造は(財務体質の健全化によって)大きく変わってきているのです。

ただこれを単純に善しと見るか、成長への積極性、国内経済活動の活発化につながらない、収益志向、安定指向の結果とみるかは、議論のあるところでしょう。

折しも日本経済の再活性化が言われていますが、これからの企業の選択が注目されるところです。

2022年9月度「日銀短観」企業気迷いか

2022年10月03日 14時59分18秒 | 経営

今日、日銀から標記短観が発表になりました。マスコミの見出しにありますように製造業大企業の業況が下降で、非製造業が上向きというのは大幅な円安が進む中で何か奇妙な動きと言った感じを受ける方も多いと思います。

短観の全体を見ますと、まあそうかなという事になりますが、調査企業が想定している為替レートが上期125円、下期126円と本日のレート144円とは20円近く違いますし、今後の予想は極めて困難という事も考えておかなければならないでしょう。

9月の業況判断(DI)は製造業大企業が6月調査で9で、9月には10になるという予想が8になったということで、おおきな下降ではありません。中堅は6月が0、予想は‐3でしたが9月は0、中小は6月も9月予想も-4、9月は-5という程度です。

非製造業のDIは、大企業は6月の現状も予想も13でしたが14と好転、中堅は6月が6で予想は0でしたが7と好転、中小は同-1と-5が9月は2と好転で非製造業の好調は確かに目立ちます。

業況判断を変化幅でなく総合的な感じで答える業況判断を「良い」「さほど悪くない」「悪い」と答えている形で、「良い」と答えた企業の割合を見ますと、
製造業:  大企業21、中堅企業20、中小企業18
非製造業: 大企業24、中堅企業21、中小企業19 (いずれも%)
という事で、円安は非製造業にも有利に働いていることが解ります。

日銀短観の数字はこんな状態の動きをしています、現実の経済は、コロナ禍がオミクロンの段階で終息を迎えるのか、円安が続くのかどうか、それに直接影響する政府と日銀の金融政策のねじれ問題や、アメリカヨーロッパのおインフレ退治の金融政策の効果はどうか、更には、ロシアのウクライナ侵攻の行方、加えて、習近平の三選があるか、などなど多様な問題が、直接間接に関係し影響してきます。

こんな時期には、こうした調査に答える企業も、特別に大変ですね。

高額役員報酬2つの見方、さてどちらが?

2022年07月28日 16時34分37秒 | 経営
今朝の朝日新聞で「増える役員報酬、増えない賃金」という見出しで役員報酬が増加している問題を取り上げていました。

高額役員報酬に先鞭をつけたのはアメリカで、「ラストベルト」などという言葉が日本でも有名になったことに象徴されますように、実物資本主義が衰退してマネー資本主義が盛行するようになったリーマンショック前から議論の対象になってきたように思います。

日本では伝統的に役員報酬は、大卒初任給の20倍程度などと言われていましたが、アメリカでは1ケタ違うなどと言われていて、なぜそんなことになるのかが研究対象だと言う学者先生もおられました。

その後、リーマンショックにめげず、この傾向はますます強まり、何年か前から日本でも年収1億円を超える経営者が増え、1億円以上の開示が義務となったのがもう10年程前でしょうか。
何年か前、開示の数が200人を超えたという新聞記事がありましたが、この3月期には600人を超え、昨年より100人以上増えたようです。(1億円でも30倍程度)

アメリカでは、全国労働組合組織のAFL=CIOの調査があって、大企業の役員の平均報酬は平均で日本円にして25億円、従業員の平均給与の300倍以上という事だそうですから、まさに桁違いもいいところで、近年この格差への批判は強いようです

しかし、そうした批判はあっても、役員報酬の上昇は止まらないようで、そこで主張されている高額報酬が当然という考え方の中心は、基本的には「業績連動」というところにあるようです。

会社の利益が増えた、株価が上がった、という場合に、それを実現した経営者、役員の報酬をそれに連動してあげるのは当然という考え方でしょう。

業績の向上は従業員が良く働いたからという点がどう考慮されているのかはわかりませんが、従業員の給料は、基本的にジョブ型ですから、職種別マーケットか労使交渉で決まっているという事でしょう。

ここで問題になるのが、賃金や報酬は、その人の働きによって決めるのが本当にいい制度かという問題でしょう。

確かに、能力主義とか成果主義という考え方は、能力や、成果によって賃金報酬が増えるから、それが刺激になって人は良く働き企業の発展や経済成長が起き、社会は豊かになるのであって、働いても、働かなくても収入が同じようだったら、働く意欲は失われ、社会は進歩しなくなるという考え方があります。

しかし、能力主義、成果主義を徹底ていくと、どうなるかといった問題が必ず出て来るのです。

人間の能力には人それぞれ大きな差があります。成果が上がるかどうかには運もあります。それによって賃金報酬が決まると、格差が異常に大きいという結果になります。格差が大きくなると社会は不安定になります。

つまり、「何でも平等」という社会も「能力と成果次第という社会」もサステイナブルではないのです。

本当に必要なことは、企業の付加価値、国のGDPという「みんなで稼いだ富」の配分を、「能力や成果による配分」という要素と同時に「より良い明日の社会のために必要な配分」という要素(教育、研究開発、格差縮小)も確り織り込んだ形にすることなのです。

この、後者への配分を確保するために、日本の企業では昔から「2倍働いて給料2割増し、3倍働いて給料3割増し」などと言われる賃金制度を作って来ているように思います。

社長の給料が新入社員の20倍という日本の企業の現実は、そうした知恵の結果だったのではないでしょうか。