tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

新時代の経済政策<怪談噺>

2010年08月31日 12時18分42秒 | 経済
新時代の経済政策<怪談噺>
 8月も今日で終わりです。夏は怪談噺の季節です。という事で、夏の終わりに「経済の怪談噺」は如何でしょうか。

<時は1980年前後>
 アメリカ、ヨーロッパ生産性は上がらず、労使関係不安定で賃金コストは上昇し、軒並みスタグフレーション。アメリカ病、イギリス病、ドイツ病、フランス病など各国はスタグフレーション病に苦しみました。ミザリーインデックス (インフレ率と失業率の合計)はドイツ以外は、政権交代を呼ぶといわれる20パーセント越えを記録していました。
 結果はデータに忠実で、アメリカはカーター大統領からレーガン大統領へ、イギリスは労働党が敗れて保守党のサッチャー首相が登場、フランスはドゴールを破ってミッテラン大統領が誕生。
 レーガン改革、サッチャー改革をご記憶の方も多いと思います。最低賃金大幅アップを公約して当選したミッテランも、最後には最低賃金を凍結してフランス病を治療。

 その中で日本は、賢明な労使の行動の結果、第2次オイルショックを乗り切り不快指数はわずか5~6パーセント、「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、欧米のスタグフレーションを尻目に、健全経済を謳歌していました。

 おさまらないのはアメリカ、日本の独走を何とか阻もうと考えたのが、日本に「円切り上げ」を迫ることでした。
 1985年、折しも、ニューヨークのプラザホテルでG5開催。この機を逃さじと日本に円切り上げを迫れば、日本はその気迫に押されて、「ハイ解りました」と言ったようです。

 OKを取ったからには押せ押せムード、国際投機資本の協力もあり、2年後には$1=¥240が$1=¥120に。 ゴルフのプライベートコンペで、「優勝したからハンデは5割カット」と24のハンデを12にされたようなもの。こうして日本は20年近くブービーメーカーに定着することになりました。

<時は2000年代に移ります>
  何とかこの苦境から脱出したいともがく日本は、工場の海外移転、国内では賃金切り下げ、学卒採用停止、非正規雇用増加、と言った苦肉の策でコストを切り下げ、失業の増加、離婚の増加、犯罪の増加などの社会的犠牲を払いつつ、$1=¥120でも何とかやれそうになってきたのが2002年でした。
 ブービーメーカーから少しずつ順位を上げていけるかなと思ったのがいわゆる「いざなぎ越え」の6年ほど、一方アメリカは、レーガン改革でIT産業の発展などある程度の成果は上げましたが、その浪費性は収まらず、双子の赤字の垂れ流しは続いたままです。
 ヨーロッパはどうかといいますと、サッチャー改革の成功で、イギリスはかなりの改善を見ましたが、大陸主要国は、労働組合は強く、賃金コストプッシュは収まらず、EUを拡大して低賃金国も取り込み、コストを下げようと努力しましたが、逆に東ヨーロッパへの工場脱出や、拡大EUの経済力への期待からユーロ高が起こり空洞化やコスト高で苦労の連続です。

<2008年から現在へ、日本は奈落への道> 
 双子の赤字の垂れ流しの中で「来るぞ、来るぞ」と言われていたアメリカ経済の破綻が、サブプライムローンという虚構に乗った住宅バブルの破裂で現実になってしまいました。世界中の銀行が、毒入り餃子ならぬ毒入り証券で、強烈な下痢を起こし、体力の回復には政府の支援しかないといった状況になりました。
 もともと証券価値の信用によって成り立っていたアメリカ経済は、アメリカ証券の信用失墜で、まさに窮地です。
 この時期までには、日本も病みあがりながら多少元気になり、新興の巨大中国が世界経済に大きな影響を与えるようになってきました。
 アメリカは傷ついた体で、なお経済覇権を維持しようと、アメリカに対して最大の債権国となった中国に、かつて日本に迫ったように「人民元の切り上げ」を迫りましした。しかし中国は日本とはまるで違います。「決めるのはアメリカではない、中国だ」といって譲りません。
 アメリカの象徴GMの倒産、リーマンショックによる金融界の混乱で、アメリカも、いよいよ強いドルを誇示することを諦めなければならなくなったようです。海外から資金を調達できないアメリカは、過剰消費を切り落とし、GMのように、ひと回り小ぶりにならないと再建は不可能です。
 こうしてアメリカはドル安容認に向かいつつあります。
 折しもEUに、ギリシャのソブリンリスクが言われることになりました。リーマンショック以来神経過敏になっている国際投資資本は、未経験の事態に慌てふためき(本当はこのチャンスに儲けようと?)ユーロ売りに走り、ユーロは大幅に下落することになりました。
 これは、ユーロ圏諸国にとっては干天の慈雨(コスト高の解消要因)でした。いまや、フォルクスワーゲンもベンツも、プジョーも、フィアットも、値下げや補助金で積極的な販売攻勢です。

<これからの恐ろしい怪談>
 アメリカはドル安を認める事で、アメリカ経済の防衛、アメリカ企業の防衛を計るでしょう。国際投機資本はそこにまた儲ける機会を見出そうとするでしょう。
 EUは大変重要な経験をしました。内部の小さな国のソブリンリスクで、ユーロを下落させ、積み上げてきたコスト高を帳消しにするという経済政策です。これを活用すれば、ホームメイドインフレ怖るるに足らずです。
 中国は「自国の為替レートは自分で決める」という政策を堅持する力の持ち主です。
 日本では真面目な国民が、さらに生活を切り詰め、貯金をして、経常赤字が出ないように国を支えるでしょう。円はとめどなく高くなる可能性がありますが、日本の政府も日銀もそれに対抗するすべを知りません。ただ右往左往するだけです。皺寄せは先ず日本企業にそして結局は日本国民全体にです。「失われた10年」は10年で終わらずいつまでも続く無間地獄ならぬ無限地獄・・・・・、こんな恐ろしい世の中になりつつあるのです。


口先介入の成果と日本経済

2010年08月29日 13時42分00秒 | 経済
口先介入の成果と日本経済
 政府の口先介入の段階で、円は$1=¥85台に戻したようです。もちろんこれで安心というようなものではありません。実体のないものはいずれ剥げ落ちます。

 日本経済、国民生活よりも、党内事情のほうを優先か、などとの批判がマスコミを賑わしたからでしょうか、菅総理も、円高に対して何らかの手を打つとの意思表示をしました。もちろん政府には金はないし、積極的な財政政策などは無理ですから、住宅関連を含むエコポイントの延長などが言われています。しかし、一方ではエコカーへの減税、補助金の廃止の見直しはないようで、そのマイナス効果は心配です。

 雇用対策への取り組みも報道されていますが、経済が良くならない中で雇用に対してどんな手を打っても、本格的に効果を期待するのはとても無理でしょう。雇用は経済成長の結果増えるものなのです。

 情勢から見ると、日銀の金融政策頼みのほうが大きいようですが、アメリカの方はすでに実質ゼロ金利です。量的緩和も、実体経済に悪い副作用のないような量的緩和、投機資本の動きも含めて国際金融情勢などを検討してみても、どの程度の効果があるのか、予測は困難でしょう。

 多分試行錯誤で、やってみながら修正していくより無いのでしょうが、矢張り、超巨大な政府の借金残高と超低金利の中で、財政・金融政策だけで現状打開というのは大変難しい問題でしょう。

 こんな状況の中でも、マスコミは日銀の独立性云々など言ったりしますが、国民生活の先行きそのものが心配される時に、国民生活と日銀の独立性と、どっちが大事かを考えるべきでしょう。本来、こうして時には、政府と日銀の判断が同じものになるのが当たり前という事ではないでしょうか。

 しかし本当の問題は、日本の経済社会が健全性を取り戻すためには、一体どの程度の円レートが、最低限望ましいかという本質論でしょう。今回の円高は、プラザ合意の時とは違い、それほどのものではないなどという解説もあるようですが、2~3年で30~40パーセントの円高は、世界各国の生産性と物価をどう分析してもまともなものではありません。

 日本企業の海外移転の激化、それによる雇用と賃金水準の劣化、生活水準の低下によって可能になるような円高対応策は、決してまともなものではありません。財政・金融政策のように、オカネの面ばかりに着目した経済政策から、小手先だけでないもっと本格的な「頭を使った経済政策」、社会と経済をひっくるめて考えるような 経済政策を、本気で頭を使って考えるときではないでしょうか。


新たなデフレ不況の入口に

2010年08月26日 18時01分15秒 | 経済
新たなデフレ不況の入口に
 円レートは、85円を割り込むのが常態になってしまったようです。総理が「90円台半ばが居心地がいい」といったのはなんだったのでしょうか。その後は何の意思表示もありません。
 一方、国際投機資本も、マーケットのあまりに急な動きに内心ビビッたのでしょうか、今は84円台に戻しています。
 
 政府、日銀の動きはと言いますと、結局は「注視する」という事に尽きるようです。かつて宮沢総理 が、回顧録の中で。プラザ合意後の円高について「あの時は毎日のように大幅な円高で大変困りました」と書いている「だけ」なのを思いだしてしまいます。

 今の日本産業の置かれている状況を見てみれば、「日本製は品質は高く信頼性は抜群だけれど、如何にせん、ちょっと値段が高すぎて」というのが実態でしょう。例えば、いよいよ輸出に本腰を入れ始めた「新幹線システム」などはその好例ではないでしょうか。
 
 今となっては「いざなぎ越え」の頃の$1=¥110~120なら、なんとでも出来たのに、と考える方も多いでしょう。再建に苦しんでいる日本航空などはその典型ではないでしょうか。

 今の85円前後は120円に比べれば40パーセント、110円に比べても29パーセントの円高です。ユーロは2008年には160円もしていましたからユーロ対比ではさらに大幅な円高です。

 円高になった分だけ、日本の国内コストは(物価も)上がったわけです。プラザ合意後の「失われた10年」の経験のように、この内外価格差が解消するまで日本はデフレ になります。
 日本が毎年1パーセントのデフレで、海外が平均で4パーセントのインフレとしても1年で格差縮小は5パーセント、30パーセントの内外価格差解消には6年かかります。

 これが、日本経済はこれから、デフレ不況が多少長期化すると考える理由です。日本経済の最大のコストである人件費中心のコストカットと企業の海外脱出が進まざるを得ないでしょう。

 しかしさらに問題があります。6年かけて内外価格差を解消できたとして、そのとき、「矢張り日本経済は強かった」ということで、$1=¥70になったら・・・・・。
 85円でも、経常黒字を出し続ける日本だったら、$1=¥70円になっても頑張って消費を切り詰め貯蓄をして経常黒字を出し続ける可能性はあります。そしてそのためには、企業は更なる海外脱出を進め、人件費を中心に、コストの切下げをするしかありません。

 そしてまたデフレ不況・・・・・。 日本人は、日本企業は、どこまで頑張ればいいのでしょうか。そこまでは行かないだろうという見方があれば、是非ご教示をいただきたいと思っています。


頑張るだけ円高になる日本

2010年08月23日 11時45分27秒 | 国際経済
頑張るだけ円高になる日本
 世界経済はサブプライム/リーマンショックを一応抜け出したように見られています。
 不良債権を高い格付けをし、世界に売って、挙句の果ては世界の多くの金融機関に巨額の穴があくという事態を演じたアメリカ発の世界金融危機は何とかなったのでしょうか。

 1929年の世界恐慌の研究者のバーナンキさんもおられて、政府の力で金融機関の救済をすれば何とかなると世界中が協力して「経済の血流」である金融を持ちこたえさせました。
 しかしこれは 当時指摘しましたように、いわば、火事の火を消し延焼を食い止めたに過ぎません。さてこれからなにをやるかです。

 さいわい実体経済は、アジアを中心に成長過程にはいっており、EUも一部にソブリンリスクといった問題をはらみつつも、そのためのユーロの下落を奇貨として好調です。

 問題はアメリカです。今回の金融危機まで、アメリカも、その代表的企業のGMも 、借金でやりくりをして、実力以上の規模を保っていました。
 GMは国有化され、年金負担などの負債を切り離して、「小ぶり」になって再上場を目指しています。アメリカ自体も、消費過剰のキリギリス生活 をやめれば、借金で遣り繰っていた部分は剥がれ落ち、「ひと回り小さくなって」健全な経済の国になるのではないでしょうか。

 アメリカ経済は、今そのプロセスに入りつつあると考えるべきでしょう。アメリカ経済の成長を待望する意見は多いのですが、相変わらずの経常赤字でキリギリス型の成長してもらっても、またどこかで世界に迷惑をかけるという繰り返しにかなりません。

 世界は、アメリカが一回り小さいが、健全な経済の国になることを望むべきでしょう。アメリカの借金による需要ではなくて、アジアの若い旺盛な需要を育てることに目を向けるべきでしょう。必要なのは頭の切り替えです。そして、健全になって戻って来るアメリカを歓迎すればいいでしょう。

 さて日本はどうかというと、アジアの中という好条件、日本企業は真面目に品質のいいものを作り続け、政府は赤字ですが、国としては万年黒字で健全という大変結構な評価です。

 これは大変結構なことですが、この万年黒字というのが国際投機資本に目をつけられ、何かというと円が買われ円高になります。
 私は、プラザ合意の円高を克服すれば、そこからは正常にやれると思っていましたが、今度はマネーゲームの世の中になり、巨大な投機資本のご意向で、「健全経済を目指して頑張れば、 頑張るだけ円高」という事になったようです。
 これに対して日本は何も対応策がありません。そこに日本の最大の問題があります。


具体的な経済政策を

2010年08月21日 10時21分56秒 | 経済
具体的な経済政策を
 総理が経済政策を指示したとのニュースがありました。財政困窮の折から、財源を必要としないように、政策の組み換えとか規制の緩和とかを中心にすべきだという意向のようです。

 確かに、消費税は当分封印されてしまいましたし、前3月決算はいくらかよかったものの、また景気は減速状態に入りそうです。 歳入が厳しければ、財政の基本原則は「入るを計って出ずるを制す」ですから、カネを使わずに頭を使えと言うのはその通りでしょう。

 しかし、具体的に、どう頭を使えば、どのくらいの経済効果があるといったことについて、何かしらの示唆があるかと期待しても、それ以上具体的な政策の説明はどこからもありません。

 担当大臣が、「財政再建と、経済成長を両立させなければならない」とテレビでいっていました。わたしもその通りだと思います。おそらく、担当大臣ならずとも、一般庶民誰でもそんな風に思っているでしょう。

 問題は、だからこんなことを考えなければならないとか、こんな方法も考えられるとか、こんなことをやってみたいが、国民の皆さんはどうだろうか、とか、何かないと、「確かに仰言るとおりです。わたしもそう思います」で終わってしまうのではないでしょうか。

 一方で、エコカー減税の廃止が決まりました。エコポイントも終わってしまうかもしれません。
 かつて「頭を使った経済政策 」で書かせて頂きましたが、ああした補助金制度は、政府がお金を1出せば、国民が5~10出す」という形で、予算規模の5~10倍ぐらいの内需拡大効果があるものです。

 予算が足りなくなったから、それを打ち切るというのは、ちょっと勿体無いと思うのは私だけでしょうか。それをやめて、政府が1使ったら、1だけの経済効果しかないようなことに振り向けるのはまことに残念です。

 本来、そうした政策は、景気回復まで続けて、もう大丈夫となったときにやめるものではないでしょうか。今やめたら、まさに景気の腰折れを促進することになりまねません。今の日本経済とって最も必要なことは、前回も指摘しましたが、内需の拡大、それも消費需要の拡大です。
 
 もし政府の頭の中に、景気は回復基調になっている、という認識があるとしたら、少し危険のような気がします。今、日本経済は新しいデフレ不況の入口にいるようにわたしには思えるのです。杞憂であればよそしいのですが、次回その辺を見てみたいと思います。


正しい円高対策

2010年08月17日 11時40分04秒 | 経済
正しい円高対策  
 8月13日には 円が1ドル85円を割り込みました。日本では、政府も日銀も、「これは多少気にしなければならない」といった趣旨を、控えめに発言しました。何か、「形だけでも発言しておかないと」といった雰囲気ですが、それでも円は少し戻りました。

 円高になっている原因は、アメリカが国際競争力強化のためにドル安を容認する気になったからなどと解説されています。それもあるでしょうが、もともとの原因は日本経済にあるというのが、日本として考えなければならないことでしょう。

 政府が口先介入しても、日銀がまたゼロ金利にして量的緩和を徹底しても、さらには日本が総力を挙げて円売り介入しても、また主要各国の政策当局の協力があったとしても、本格的な円安反転は至難でしょう。原因は日本経済の「万年経常黒字」という客観的事実にあるからです。

 日本の政策当局の政策や介入で、1円か3円今より円安に戻してみても、問題の根本解決には役に立つものではないでしょう。
 少したてば、あるいはまた何かあれば、すぐ円高に戻ってしまう可能性が大です。  日本の雇用や社会が安定と正常化を取り戻すには、現時点では少なくとも1割とか2割の円安が必要でしょう。ですから、日本の取るべき政策は、「口先介入」や「金融の小手先対策」ではなく、世界中誰が見ても、合理的で正しく、非難の仕様のないものでなければなりません。世界のためにも、日本のためにもなる政策、まさに「王道の政策」を考えるべきです。

 残念ながら、各政党の政策にも、経済学者の主張にも、評論家の言説にも、それらしいものは見当たりません。しかし、理論的に考えれば、決め手は「日本の内需拡大 」、「万年経常黒字の解消」であることは明らかでしょう。  今日、多くの人は、そんなことをいっても出来ないから困っているのだ、とか、そんなことは全く実現性がない、といった批判をするでしょう。それは、経済政策は財政政策と金融政策しかないと思い込んでいるからに過ぎません。

  正しい円高対策は、日本で最も金を持っている「家計」に、日本経済再建のためにと「消費拡大 」をお願いすることです。国民の将来は、「貯金」に頼るより、「経済の成長」に頼るほうが必ず正しい、という理念で、内需拡大、万年経常黒字解消、円高偏向是正、成長経済復帰、という道筋を、理論と政策を固めて、国民を説得するのです。 これを政権政党にやって欲しいですね。

 日本人は真面目です。納得すれば必ず期待に応えてくれると思います。

円高軽視は身を誤る

2010年08月11日 13時58分16秒 | 経済
円高軽視は身を誤る
 この所じりじりと円高が進んでいます。専門家筋は、$1=¥85 が当面の節目などといいますが、一体どうなるのか企業の心配は深刻です。
 しかし、どういうわけか、政府も日銀も、手を拱いて「静観の構え」のようです。

 ドルだけではありません。ユーロはギリシャやPIIGSのソブリンリスクをきっかけに大幅安になり、ヨーロッパ企業はユーロ安の恩恵 を満喫しているようです。
 かつては高かったフォルクスワーゲンなどが、最近日本車と変わらない価格になっていて、新聞のおり込みチラシを見て驚かれた方も多いと思います。

 世界景気はリーマンショックから回復してきました、金融危機によるものですから、金融を緩めれば回復するのは当然で、日本経済も多少の回復を見ました。
 日本の政策当局(政府・日銀)はこれを「経済が基調的に回復してきた」と誤認しているように思えてなりません。

 ショックからの回復は、金融危機でも、地震や台風の場合でも必ず見られます。問題はその後です。遮二無二頑張って復旧に頑張ったが・・・・・、問題はその後です。
 日本の円はリーマンショック前の$1=¥110~115に比べ、約3割の円高です。これはかなり恐ろしいことだと思われます。

 プラザ合意による円高を20年近くかけて、人員削減、採用抑制、非正規雇用の著増、福利厚生費も教育訓練費も削り、巷には生活不安の若者が、企業内には過労死予備軍とメンタルヘルス問題を抱えるといった極めて不健全な形 で乗り切ってきた日本企業です。

  「いざなぎ越え」という数年間のごく微弱な回復は、こうした社会的犠牲の上に成り立っていたのです。サブプライム・リーマンショックがなければ、こうした社会的問題も、その後、長い時間をかけて徐々に復旧されたかもしれません。

 しかし現実には、世界金融危機は起こり、そのはずみで、円は更に3割切り上げられました。日本の政策当局は、この日本の「国内コストの3割アップ」を、静観という形で、あっさり受け入れ、対策はすべて企業のとその従業員に「どうぞ宜しくお願いします」といっているわけです。

 日本企業と日本社会はまた何年か、「失われた10年」のような苦労を強いられる可能性があります。円高を軽視し、日本経済は強いと楽観するばかりで本当にいいのでしょうか。
 「円高軽視は、身を誤る」のではないでしょうか。すでに誤ってきたことからの学習 はないのでしょうか。


本気で内需の拡大を考えるときでは

2010年08月08日 11時27分37秒 | 経済
本気で内需の拡大を考えるときでは
 ねじれ国会の前哨戦は終わりましたが、いよいよ秋からは本番です。という事で、政府与党は日本経済が起死回生の一方を踏み出すために何をしようとしているのか、野党はそれぞれに、どうやって日本経済をまともな状態に回復できるか、何か秘策を持っているのか、少しでもヒントを得たいと思って注視しているのですが、まだ何もヒントになるようなものがありません。

 アメリカ経済も展望が暗いようです。失業率は上がって、消費需要も、思ったように伸びません。 もちろんアメリカはこれまで過剰消費社会ですから、そのまま順調に伸ばしていけば、またどこかで経常赤字を金融でヤリ繰るようなことになって、行き詰まるでしょうから、GDPの枠内で、控えめな生活をしたほうが、長い目で見れば世界に迷惑を掛けないことになるのでしょう。

 そんな事から今、日本のような経常黒字国への内需拡大の要請が強いのも当然です。日本自体も何とか内需拡大を目指し努力してきています。 その結果、金融緩和でバブルを招いたり、財政出動で世界に稀な国債残高を積み上げたりですが、一向に 内需は拡大しません。 病気に薬が効かないと同じで、多分、症状に対して処方や投薬が合わないのでしょう。間違った治療をいくら重ねても、副作用がひどくなるだけで、病気は回復しません。
 ここいらで、今まで、内需拡大のためにと、「ひとつ覚え」でやってきた、財政・金融政策の繰返 しはやめて、もっと違った方法も工夫し、国民に意見を聞きながら「内需拡大の新機軸 」を開発し実行してみたら、というのが、この所ずっと、このブログで書いてきた趣旨です。

 ところで、一方では、かつては「有事のドル」でしたが、最近は「有事の円」などといわれます。世界で最も財政赤字がひどく、最も成長しない国の代表のような日本の「円」が、国際資本にとって「最も信頼できる通貨」という、まことにおかしな事態が続いています。

 財政赤字がいくら大きくても円は信用されているのです。消費税率の引き上げが実現して日本財政が健全化したら、円はもっと信用され。もっと円高になるかもしれません

 こんなことを続けていたら、日本人がいくら真面目に過労死するまで働いても、日本経済は浮かばれないでしょう。現に$1=¥80割れも見えそうな状態です。その皺寄せを受けて苦しむのは企業とその従業員という結果になるのでしょう。

 すべての原因は内需不足でしょう。しかし、この内需不足には「国民にも責任がある 」ということを国民は知りません。それを国民に知らせる必要があるようです。


貿易依存度考

2010年08月04日 15時17分26秒 | 国際経済
貿易依存度考
 貿易依存度という指標があります。一国の輸出額と輸入額を足して、それをGDPで割ったものです。つまり輸入依存度と輸出依存度の合計で、その国の経済が、どのくらい国際的な経済関係に依存しているかの指標という事ができるでしょう。
 
 貿易依存度の数字は、その国の経済の状況、貿易先の国の経済状況などによってかなり変動します。
 日本でも従来の推移から見て、高い時は30パーセント低い時は20パーセント程度とかなり差がありますが、世界的に見れば、国際経済環境の整備が進み、貿易依存度は上昇というのが基本的なトレンドでしょうか。

 もちろん貿易依存度には、国によって大きな違いがあります。
 大変大雑把な数字ですが、ドイツやフランスが50~70パーセント程度、北欧諸国が60~70パーセント、オランダやベルギーになると100パーセントを越えるといったところでしょうか。
 一方、アメリカは25パーセント程度、ヨーロッパもEUを一国と見れば、20パーセント程度ですが、中国はそれより大変高くて60パーセント超となっています。

 かつて、戦後日本の高度経済成長について有名な下村理論を打ち立てた下村治博士が、「貿易依存度というのは、その国の人口規模に関係しているように感じている」と書いておられたのを記憶しています。当時私は、この考え方に共感し、第1次オイルショックによる日本経済へのショックをからの回復の目安の1つに、貿易依存度の復元を使ったことがありました。

 今でも、この下村博士の説は合理的だと思っています。例えば、EUの国々は、国別に見れば、数十パーセントから100パーセント以上の貿易依存度ですが、EUをひとつの国とすれば、貿易依存度は20パーセントと程度に下がります。
 極端なことをいえば、世界が1つの国になれば、貿易依存度はゼロです。

 これで説明できないのが、今日の中国の高い貿易依存度です。中国の研究者の中でも、研究はある様ですが、下村博士の仮説から考えてみると、中国の13億の人口のうち、国際経済に晒されているのはその1部で、その人口をベースにすれば、高い貿易依存度は説明可能という事になるのではないでしょうか。

 もしその見方が正しければ、中国全体が国際経済に晒されるようになったときの中国経済の規模は超巨大で、そのときは、いかに巨大な輸出入であっても、貿易依存度は10パーセントとかそれ以下になるのかもしれません。
 中国の経済発展の可能性は、今の常識をさらに大きく越えたものになるようにも感じます。