tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

政権と中央銀行:日本、アメリカ

2017年11月30日 15時34分56秒 | 経済
政権と中央銀行:日本、アメリカ
 アメリカの中央銀行であるFRBの議長は既に来年2月、イエレン女史からパウエル氏に交替することが決まりました。
 日本の中央銀行である日銀の黒田総裁の任期も来年3月一杯という事です。続投か、交代かは決まっていません。

 政権は財政政策を担いますが、中央銀行は金融政策を担います。経済政策としての2大政策である財政政策と金融政策は、勿論適切な関連を持って行われませんと、経済政策としてはうまく行かないのは当然ですが、制度としては中央銀行は政権から独立して金融政策を担当するといいうことになっています。

 しかし中央銀行のトップに任命を行うのは日本でもアメリカでも政権のトップです。これは、財政と金融との適切な組み合わせを考える上では良い制度のように思われますが、中央銀行の考え方と政権の考え方が違うような場合は、最終的には政権主導になるという事を認めているからでしょう。

 日本の場合、最近のアベノミクスに例をとれば、プラザ合意とリーマンショックによる異常な円高で疲弊しきった日本経済を救済すべく、金融政策を、従来の金融緩和といった視点を飛越え、金融緩和は「 為替レートの操作に使える手法」という、いわばアメリカ流の視点を導入、$1=¥80を2年で$1=¥120に大幅円安を実現したいわゆる「異次元金融緩和」は、政権と中央銀行のコラボレーションとして、抜群の力を発揮しました。

 政権サイドでは、「アベノミクス第1の矢」の大成功を謳い、金融面からは「2発の黒田バズーカ」などと言われ、日本経済に起死回生の転機をもたらしました。

 これは、アメリカのオバマ政権のもと、バーナンキFRB議長が選んだ、「金融危機は金融緩和で救済可能」という選択が、それなりの効果をもたらしたのと、いわば、軌を一にしものと言えるでしょう。

 その後、アメリカは、超金融緩和の弊害も考慮し、利上げ、テーパリングに歩を進めましたが、円高を恐れる日本は、政権、中央銀行共に金融緩和継続の方針です。

 政権と中央銀行の目指す方向が同じなら問題はありませんが、今回アメリカは、バーナンキ路線を継承しつつ金融正常化内移行したイエレン議長から、トランプさんの任命でパウエル氏にバトンタッチをします。
 このプロセスの中で、金融正常化では問題がない様ですが、金融規制の問題で、イエレン議長もパウエル氏も、行き過ぎたマネーゲームの世界はお嫌いなようで、トランプ政権とはニュアンスの違う様相が垣間見えるように思います。

 さて日本では、政権も中央銀行も、2%インフレ達成まで、異次元金融緩和を続けるとしながらも、日銀は国際等の買い入れを減らしているようですし、黒田総裁は11月26日に書きましたように、 リバーサル・レートなどにも触れています。

 異次元金融緩和を進言したと言われる浜田宏一氏も、「物価は2%まで上がらなくてもいいのではないか」と言っているようです。
 さて、今後、日本とアメリカの政権と中央銀行の金融政策の視点はどんな関係になるのでしょうか。

デフレの亡霊にサヨナラをしたいのですが!

2017年11月29日 16時16分50秒 | 経済
デフレの亡霊にサヨナラをしたいのですが!
 企業業績好調、労働需給は政府が自慢するほど逼迫、株価は根強い上昇基調・・・。どう考えてもデフレとは縁遠いことばかりですが、政府は未だに「デフレ脱却のために」などと言います。
 学者でも、未だ日本経済は、デフレから脱出していない、などと言う方もおられます。

 今、日本経済はデフレでしょうか。
 このブログでは、折に触れて、消費者物価の動向をみてきていますが、物価が傾向的に下落するような状況は全く見えていません。

 それなのになぜ、いまだに日本経済なデフレの中にあるように思う人たちがいるのでしょうか。
 恐らくそういう人たちは、政府も日銀もそうであるように、2パーセン・トインフレ・ターゲットが望ましいと考えている人たちで、物価上昇がなかなかそこまで行かず、0~1%未満辺りにあるものですから、感覚的にその程度の弱い物価上昇だと、「デフレだ!」と感じてしまうのでしょう。

 しかし、物価は微弱ですが上がっているのです。下がってはいません。
 4年ほど前まで、円レートが高すぎ($1=¥80)その結果日本の物価は国際的に異常に高く、日本はデフレ不況に苦しみました。しかし$1=¥110~120では、日本の物価は国際的に見て高くありまあせん、爆買いに見るように、低いぐらいです。国際的には日本の物価が下がる必然性はありません。

 しかも、今は、世界的に、物価が上がりにくい状況にあります。海外の著名な経済学者でも、なぜこんなに物価が上がらないのかわからない、なという方もおられます。

 この問題は別途論じる事にして、インフレ嫌いの日本人ですから、物価上昇率が低いのは自然ですし、ゼロ金利のもとで、物価が2%も上がって欲しいなどと考える消費者は居ないでしょう。今の日本経済では、この物価安定がベストなのです。

 然し、ニュースでも知られますように、今いろいろな消費関連業界で、製品・商品価格を引き上げたいという希望は強いようです。現に値上げを発表されているところも結構あります(ビール、ゆうパック、焼き鳥チェーン、宅急便、牛丼、ティッシュ、パン、豆腐、うどん、などなど)。

 今後、消費者物価はじりじり上がる可能性もあります。政府は喜ぶかもしれませんが、消費者には問題です。消費増税も待っています。消費者は益々財布のひもを締めるかもしれません。

 これが今の経済・物価の状況でしょう。いったい何がおかしいのでしょうか。
 これだけ景気が回復しても、物価が上がらない状態を演出しているのは、「消費不振」です。その背後にあるのは、「消費性向の低下(貯蓄率の上昇)」です。

 消費性向の低下をもたらしている原因は何でしょうか。これはもう定説ですが、「将来不安」です。これがある限り、消費者物価は低迷(下がってはいませんからデフレではありません)でしょう。デフレ脱出の条件はそろっているのに、デフレかと見まがうような消費者物価の安定状態の真因は「将来不安による消費不振」なのです。格差社会化もこれに一枚噛んでします。

 結局、消費者物価が政府の希望するように上がらない原因は、政府が国民の感じる将来不安を払しょくしないことにあるという事になるのです。
 国民にとって、全く不愉快は論議が、また繰り返されている国会ですが、これではデフレの亡霊はまだ当分消えないかもしれません。

マネー経済と勤労感謝:マネーにならない勤労にも感謝を

2017年11月28日 12時31分47秒 | 社会
マネー経済と勤労感謝:マネーにならない勤労にも感謝を
 先日、勤労感謝の日に、人類は発生以来豊穣を求めていて、豊穣(豊かさと快適さ)を実現するのは「勤労」だという事を経験から知り、勤労、働くことを大切にしてきたのだろう、そしてそれが勤労感謝の日につながっているのでしょうと書きました。

 あの時、書こうと思っていて、多少趣旨が違うのでまたの機会と思っていたのが、勤労とおカネの関係です。おカネにならない勤労も沢山あるからです。
 
 現政権の「一億層活躍」などと言うのもそうですが、勤労とか働くという事は収入につながらないと「経済計算」には乗ってきません。
 家事労働を経済価値に表したら、GDPはうんと大きくなるなどとは昔から言われますし、専業主婦でも財産は分与されますが、経済的な価格評価はされません。

 現実の社会では、出来るだけ報酬のある仕事について、家事、育児、介護などは、専門業者に外部委託という形が進んでいます。確かにその方がGDPは増えます。
 自分の家族の弁当を作っても「一億層活躍」には入らず、お弁当屋さんで働いて、他人の弁当を作れば「一応総活躍」の中に入るという事になっています。

 こういう計算になるのも、勤労という事をすべてカネで測るのがマネー経済だからでしょう。
 おカネ、マネーが一般的でなかったときには、物々交換で等価値と判断する物と物との交換をし、また「一宿一飯の恩義」ではありませんが、勤労と等価値と判断する「働きと物の交換」や「働きと働きの交換」などが一般的だったのでしょう。

 こういう世界は実は価値判断が曖昧で、等価値という判断はいい加減だったでしょうが、マネー経済では、市場で価格が決まるので、その点では大変便利です。

 そういう意味ではマネー経済は明らかにより合理的で、大変便利です。しかし人間というのは不思議なもので、合理的と判断しながらも、何かそれにプラスアルファの要素があると、何かほっとするという所があるようです。

 これは「取引と贈与」などという形で言われますが、マネーの合理性と、贈与という人間の気持ちに働き掛ける価値とを、どこかで、うまく組み合わせているのでしょう。

 ボランティアも英語ですが、欧米には「寄付」の文化があります。取引中心の世界に、何か人間の心を持ち込むためでしょうか。
 
 経済学ではマネーがすべての仕切り役ですが、現実の人間の経済社会にはそれでは計りきれない潜在的経済価値が沢山あります。

 「内助の功」などと言う言葉もありますが、こうした潜在的な経済価値の計測は難しいとしても、そうした価値も積極的に認めて、大事にするような雰囲気の社会の方が、マネー経済の価値判断すべて整理しようという社会よりも何か暖かく、良いような気がするのですが・・・。

動くか金融政策

2017年11月26日 15時03分20秒 | 経済
動くか金融政策
  マイナス金利の導入以降、金融政策の行き詰まりが次第に見えて来ましたが、インフレ目標2%を掲げて異次元金融緩和を続けると言ってきた黒田総裁が、海外で「リバーサル・レート」に言及し、日銀の金融政策が動くかと取り沙汰されています。

 アメリカのEUも、慎重ながらも利上げの方向に踏み切り、日本だけが金融緩和継続という事で、誰しも「何時かは」と考えるのが当然ですが、その意味で黒田総裁の発言は反響を呼んでいます。
 但し、アメリカやドイツという外国での発言で、しかもあまり使われない「リバーサル・レート」などと言う解り易くない言葉を使っているのが現状です。

 確かに「リバーサル・レート」などと言っても解りにくいですが、つまりは、金利を下げ過ぎると銀行の利ザヤがなくなり、収益が低下して動きが取れなくなる、低金利が長くなるほどひどくなる、折角金融を緩めているのに、銀行が収益低下で動けなくなって、預金・貸金という銀行本来の仕事(金融仲介業務)に支障をきたす。そうなるような低金利の水準が「リバーサル・レート」(逆転金利水準)という事でしょうか。

 「 利益減少、銀行どうする」と書きましたが、普通に考えれば誰でもわかることでしょう。安倍総理と黒田総裁がどこまで意見一致なのかわかりませんが、金融緩和さえすればいいというような異常な緩和論者が政策委員に入ってきて、黒田さんも、これ以上やったら副作用が怖い、と考えたのでしょうか。

 しかし、異次元金融緩和継続で円高を阻止し、その効果もあって株高が進んでいる状態に、もしかしたら、マイナスの影響があるかもしれないという観測もありうるでしょう。

 その辺りは現政権が最も恐れるところかもしれません。しかし、株価というのは無理してあげても、何時かは反動が来る(かつてのバブル崩壊の様に)ものですから、日本経済の実力にそって上がるのが一番いのでしょうから、いま日本の実体経済が健全に進んでいるところで、金融正常化に動くのにはいい時期と言えそうです。

 この辺りは、まったくこのtnlaboの判断ですから、日銀や安倍政権がどう動くかは全くわかりません。来年4月という黒田総裁の任期と関係があるかないかといった憶測もあるようですが、トランプさんとイエレンさんの関係の連想でしょうか。

 単なるマスコミ報道で終わるのか、現実の動きにつながるのか、今のところでは何ともわかりませんが、本来、金融は「実体経済に役立つためのもの」というのがその存在意義ですから、 物価でもなく
、株価でもなく 実態経済を最重視した金融政策をとることがベストでしょう。

 ただ、その場合、最も警戒すべきは円レートでしょう。円高は、日本の実体経済を直撃します。
 アメリカもEUも、金融正常化(金利引き上げ)に動き始めているところですから、舵取りは微妙でしょうが、大きな失敗の無いように日本丸の舵取りをお願いしたいところです。

技能実習制度を生かすには

2017年11月24日 08時49分46秒 | 国際関係
技能実習制度を生かすには 
 最近の我が国の人手不足は、特に生産性の上がりにくい分野、対個人サービスや農林漁業関連、手作業が必要な中小企業などで顕著です。 
 そうした中で、期待されているのが技能実習制度の拡大です。

 勿論この制度は、海外から労働力を受け入れる制度ではありません。日本に来て、日本語や日本の技能を学んでもらい、国に帰って、それをその国の産業の発展に役立ててもらおうという国際貢献を目指したものです。

 現状、在留期間は最長5年で、1年目の初めに講習を受け、現場に入って技能を習得、2、3年目は技能の習熟、4、5年目は技能の熟達の期間という事になっています。
 講習の期間は手当が支給され、実習に入ると賃金が支給されることになっています。
 
 賃金は正式な統計はないようですが、一般的には、月額12~15万円程度のようです。アジア諸国からの希望者は多いのは事実のようです。

 希望者が多いという事は、それだけ人気があるという事でしょうが、往々マスコミでも取り上げられているように、問題もないわけではありません。

 勿論、多くの受け入れ企業は、実習生よし・受け入れ企業よしのwin=winの関係のようですが、日本側にも、時にブラック企業あり、研修生側にも、脱走⇒不法滞在化などがあるようです。
 最近では、国に帰っても習得した技能を使わず、日本語教師などしていて、技能の移転が行われていないことが多いといった指摘もあります。

 ネットでも、随分批判的な意見もありますが、こうした制度を日本が持ち、アジアの若者の可能性を広げていることは、矢張り重要なことではないでしょうか。

 最も残念なのは受け入れ企業の中にブラック企業が存在することでしょう。希望をもって日本に来たアジアの若者に、日本は、日本人は、こんなものだったのかと反日感情を持たせるようなことは、日本人として日本を貶める行為以外の何物でもありません。

 多くの場合、受け入れ企業の経営者や担当者は「お父さん」などと呼ばれ、敬愛の的であるようですが、それでこそ、日本が、草の根でアジアから愛され尊敬される国になる礎ではないでしょうか。

 習熟した技能が伝わらないという問題も、残念ではありますが、最長5年の間に、日本で学ぶことは、技能だけではないでしょう。日本での経験が良いものであれば、そうした広い経験と、日本で学んだいろいろな事は、アジアの若者の自国での生活の中で、その国の社会に伝わっていくはずです。

 技能実習制度は、途上国の発展にとって重要な「技能」をその「コア」に置きながら、本質的には、日本という国の良さをアジア諸国の若者に知ってもらうという意義を持っているのではないでしょうか。

 そのためにも、日本における実習期間があらゆる面で実習生から評価されるようなものになるよう、政府、関係機関、関係者の一層の努力を期待したいと思いますし、多分その結果は、技能実習制度の評価を高め、その拡大の可能性を広げることになるのでしょう。

勤労感謝の日、今日は何をする日?

2017年11月23日 10時50分14秒 | 社会
勤労感謝の日、今日は何をする日?
 今日は11月23日、「勤労感謝の日」です。 政府によれば、「勤労感謝の日」は、「勤労を大切にし、生産を祝い。国民が互いに感謝しあう日」だそうです。

 なんだか良く解りませんが、働くことは良いことで、みんなが夫々に働いていることの意義を認め、自分も含め、みんなの働いていることに感謝しましょうという事でしょうか。

 折しも今日は朝から雨ですから、毎日よく働いている自分に感謝し、今日はゆっくりしようというのには丁度いいようです。

 もともと日本では、秋に収穫を祝う「秋祭り」があったわけで、その年の収穫を祝って神様に感謝すると同時に、お祭り(休日・レジャー)を楽しむという習慣がありました。
 こうした習慣は、世界の多くの国にも共通で、一般的には収穫祭とか感謝祭と言われています。本来は「豊穣は神様のお蔭」という人間の素朴な気持ちの表れでしょう。

 余計なことですが、何処の国でも、多雨や旱魃、台風やハリケーンが来ると大変で、気候が順調であるように、神様に願ったのでしょう。今の世界は、そういう行事をしながら、一方では気候変動を促進し、収穫にダメージを与えるようなことも多く困ったものです。

 ところで、思い出しますと、私が小学生(国民学校生)の頃は、秋になると「神嘗祭」10月17日と「新嘗祭」11月23日があり、神嘗祭は神様(天照大神)が新米を召し上がる日で、新嘗祭は、天皇陛下が新米を召し上がる日と教えられていました。

 勤労感謝の日は、新嘗祭を受け継いでいるようです。勤労感謝の日には宗教色は全くないのは政教分離から当然でしょうけれども、勤労感謝の日が、なぜ秋のこの時期なのかを考えれば当然気付くことですが、もともと人間は豊穣を願い、収穫を神(現象としての自然・気候)に感謝していた謙虚さに思いを致すことも大切でしょう。

 原始の農業から出発し、今日の複雑な産業社会に至っても、豊穣は「地球環境」と「人間の勤労の在り方」によるのでしょう。
 産業社会が複雑の度を増すにつれて、その中でいろいろな問題が発生してきていますが、働くことによって豊かで快適な社会を作り上げたいという気持ちは、昔の秋祭りでの人間の思いと同じなのでしょう。

 ならば、人間は、あまり思い上がらず、謙虚に、自然、地球環境と共存、共生し、自然そのものを豊かにし、それによって、自然の恩恵をより良く受け取れるような勤労の仕方を考えるべきなのでしょう。

 豊穣な(豊かで快適な)社会に向かって努力していくのが勤労の本来で、勤労感謝の日も、そうした意味合いの中での勤労に感謝する日と考えたいと思うところです。

消費税の利点・欠点

2017年11月22日 10時22分03秒 | 社会
消費税の利点・欠点
 日本政府の税収は圧倒的に不足しています。前回も書きましたが、今政府の収入となる「税と社会保険料の合計は、 国民所得の40%ほどで、実際に政府が使っているのは、それに国債発行で国民から借りる分を足してほぼ50%です。

 つまり、国民所得の1割ほど収入が不足しているわけで、今年度の政府経済見通しによりますと今年度の国民所得は377兆円ほどですから、38兆円ほど不足しているという事です。

 2019年に予定される消費増税で約6兆円税収が増えることになっていますが(消費支出300兆円×2%)、赤字財政脱出のためには12.7%ほど消費税を引き上げ、20.7%にしなければならない計算です。

 2%の消費増税をする・しないで、これだけ大変なのですから、日本の財政再建がいかに難しいかということが知られます。
 
 消費税というのはこういう具合に、個人消費が経済成長率と大体同じように増えますから、どれだけ増税すればいくら税収が増えるという見当がつきやすいのは利点で、国民にとっても、解り易いわけです。
 
 所得税や法人税は、景気の良し悪しで急激に伸びたり、伸びなかったりしますから(その関係を租税弾性値と言います)予測がしにくいのが欠点です。

 一方、消費税は、収入があっても、使わなければ払わないわけですから、収入の多い人でも、貯金した分にはかかりません。収入の多い人の方が貯蓄性向は高いですから、収入の多い人の負担率は軽くなります。消費税が逆進的と言われるのはそのためです。

 格差社会化阻止の効果は消費税にはありません。これは所得税などの方で累進税率を使って考えなければならない問題です。

 消費税でも、低所得者のために食料などの生活必需品の税率を下げるのがいいという公明党などの主張で、政府は複数税率導入を言っていますが、これは、正確な課税の困難性、行政手続きの複雑化のコストなども含め、疑問が多い考え方です。

 消費税の一番の利点(政府にとって)は、所得税のように、直接の負担感がなく、単に物価が上がったような感覚で、みんなが同じ8%、今度上がれば10%を、払ってくれるという所にあるのでしょう。

 そうした性質の消費税ですから、大事な事は、それを政府が使う時に、本当に困っている人に役立つような、つまり所得格差を是正し、格差社会化を防ぐような使い方をすることが大事でしょう。
 
 これからの社会を良くするためには(ピケティは、格差拡大は避けられないものだといいますが)、日本では、格差拡大を阻止して、中間層を出来るだけ厚くし、かつてのような「一億総中流」を自認するような社会を作ることが出来ますよ、と世界に見本を見せられるような実績を作るように、政府の舵取りをお願いしたいものです。

直接税と間接税(前回の続き)

2017年11月21日 12時46分58秒 | 経済
直接税と間接税(前回の続き)
 サラリーマンの所得税、企業の払う法人税などは「直接税」と言われ、付加価値税(日本では消費税)は間接税と言われ、区別されます。
 この両者は、ともに国民が稼ぎ出したGDPが原資ですが(一部例外:後述)、払い方が違うので、納税者の負担感が違います。という事から、税制上の政策的な使い分けが行われます。

 2019年に予定される消費税増税も、保育費、教育費の無償化原資に2兆円と言われますように、間接税は、目的を明確にする目的税が多いようです。
 直接税は、「収入があったのだから払うべきだ」という事で、国の運営一般の財源ですが、消費税は社会保障の財源というのが世界的な理解のようです。
 
 何故かという事ですが、消費税は、最終的には、消費者が払っているのですが、実は、その品物が、消費者の手に渡るまでの経済活動の各段階で払っているのです。
 例えば、資源の輸入業者が輸入価格にマージンを乗せて素材メーカに売り、素材メーカはマージンを乗せて、部品メーカーに売り、部品メーカーはマージンを乗せて完成品メーカーに売り、完成品メーカーはマージンを乗せて卸売業者に売り、卸売業者はマージンを乗せて小売業者に売り、小売業者はマージンを乗せて消費者に売ります。

 ここでマージンというのは、輸入業者では輸送コストをカバーするため、製造業者では加工コストをカバーするため、販売業者では、保管・物流コストをカバーするために費用な金額という事で、いいかえれば、これが各段階での「付加価値」です。輸入鉄鉱石が自動車になるために必要な「カネ」さらに言い換えれば、日本企業が生み出した付加価値という経済価値です。

 日本中のそうしたマージン(付加価値)の合計がGDPで、「消費税」は、この各段階のマージンに(現在は8%づつ)かかっているのです。その合計額、結局、商品価格の全体の8%は、各段階で上乗せされて、最終的に消費者の払う価格が8%高くなるのです。

 消費税が、本来は付加価値税(中国では増値税)と言われるのはこうした成り立ちからの名前です。

 消費税(付加価値税)は先ずこうしてGDPが発生するところで発生額の8%を政府が頂くという形の税金で、残った付加価値は、各段階の企業の中で、労使が、賃金と利益に分配して受け取ります。その賃金と利益にかかるのが、所得税、法人税といった直接税という事になります。

 付け加えますと、所得税や法人税は、その年に発生した付加価値の中から払われますが、消費税の場合は、高齢者所帯のように、貯金を取り崩して生活している場合は、過去の付加価値の蓄積分(貯蓄)からも政府は取ることが可能になります。

 消費税(付加価値税)が社会保障の目的税化しているという事は、GDPの発生する時点でその都度税金を取って行くという事ですから、個人とか、企業とかの色合いをなくして、GDPが増えたら、そこから一律に社会保障の財源を調達するという事であれば、誰が損して、誰が得するといったことがない分担方式だからという事でしょうか。

付加価値と税金

2017年11月20日 23時07分39秒 | 経済
付加価値と税金
 人間は付加価値で生きているのです。付加価値がないと人間は生きることが出来ません。このブログの基本テーマが付加価値ですが、付加価値という言葉は、最も重要な概念である割に、世の中ではあまり理解されていません。

 例えば、世界各国では一般的な「付加価値税」(中国では「増値税」)ですが、日本では「消費税」と言っています。付加価値と増値は意味は同じで言葉としても似ていますが、消費税は中身は同じでも言葉は全く違います。
 これも日本では、付加価値という言葉が一般的でないからでしょう。

 もともと「付加価値」はvalue addedの翻訳ですから、新たに増えた(付け加えられた)価値(経済的価値)という事です。
 単純に言いますと、土地と水という自然から与えられたもの(資産)の上で、人間が作物を栽培します。収穫物は、日本ではコメに換算して、米○○石などと言いますが、それが付加価値です。その年に増えた経済的価値です。

 その増えた価値を、当時の経営者は領主と武士ですから、これを「公」と言い農民の「民」と分けます。そして五公五民、つまり公と民で半分分けなどという考え方が生まれたわけです。
 
 今、付加価値はいろいろな産業が作っていますから、「米」でなくて、「¥」で評価してGDP(≒分配面では国民所得)などと言われます。そして武士はサラリーマン、つまり「民」になり、「公」は政府という事になりましたから、「民」がいくら「公」に払うかは、国民負担率(税金と社会保険料の合計が国民所得に占める比率)という事になっています。

 国民負担率は日本は40%弱で、国民が国債などの形で年々政府に貸している分も含めると約50%、昔の五公五民と似たようなものです。
 北欧では公が70%などという国もあります。そういう国は福祉国家などと言われます。が、これは高率の理由が、社会保障のために使う「付加価値税」の税率が高いのが一般的です。

 世界で一般的なのは、社会保障、社会福祉の財源として「付加価値税」を使うというやり方で、日本でも、安倍内閣が、保育や教育費の無料化のために、消費税率を引き上げようと言っているのは皆様ご承知の通りです。

 特に付加価値税でなくても、所得税や法人税を引き上げて、それを使ってもいいわけですが、付加価値税を使うという事には、それなりの理由があります。

 もともとは所得税や法人税(直接税)も、付加価値税(間接税:日本では消費税)も、国民が創り出した不加価値の中から、政府(「公」)に払うことには変わりはないのです。
税金の払い方が違うのは大きな理由なのです。

 税金というのは、つまりは、政府がその年の国民所得の中からどれだけ政府に納めさせるかで、支払原資はすべて国民所得(付加価値の所得面)です。
 では、所得税や法人税と、消費税(付加価値税)では、何が違うのでしょうか。
 長くなるので次回にします。

減税で賃上げや設備投資ご褒美?

2017年11月18日 11時45分19秒 | 政治
減税で賃上げや設備投資ご褒美?
 新たに出発した安倍政権が、かつて自ら名付けた「アベノミクス」が竜頭蛇尾の状況の中で、何とか「経済重視」の成果を上げようと躍起のようです。

 政府の気持ちも良く解ります。世界から信任の厚い日本経済ですが、その資産の厚さの割に成長率が高まらないという現状に不満で、何とか成長率を(ついでにインフレも)高めたいと思っているのでしょう。

 確かに家計の貯蓄1800兆円(含自営業者)、企業の内部留保400兆円と言われ、日本経済自体の年々の収支である経常黒字が20兆円を超えると言われながら、今や痼疾のような消費不振に悩まされ、経済成長率が高まらないのは現実です。

 こうした現状が問題であることはその通りでしょう。経常黒字の20兆円を、何かの形で企業や家計に使ってもらえれば、GDPは4%ほど高まり、日本経済に成長の弾みがつくというのは、理論的にはその通りでしょう。

 しかし、そのための「政府の」政策として、「3%の賃上げをしましょう」とか、今回のように「賃上げ、設備投資をした企業には減税をしましょう」といった減税を餌に、賃上げや設備等異を釣り上げるような姑息な政策ばかりでいいのでしょうか。

 政府はもっと骨太の、国民の意識や認識を変え、国全体が、縮み指向から、より良い明日を目指して積極的な行動をとる気になるような、スケールの大きな、根本的、基本的な視点で、政策を打ち出すべきではないのでしょうか。

 もともと、家計が貯蓄に励み、先憂後楽思向で消費を抑えているのは、人手不足になり、株価は暴騰するようになっても、多くの国民は将来不安に駆られているからです。
 多分この原因は、雇用の不安定は増し、年金財政は保たないといった情報が広く行き渡り、最近の好況も、「格差拡大」を促進するような形で進行しているからでしょう。

 政府の方針に従って、賃上げ率を高め、設備投資を積極化することが出来、減税の恩恵を受けられる企業は限られ、取り残されるところも多いでしょう
 「決める政治」も、広く、多くの国民の声を聞かない「勝手に決める政治」では、まぐれ当たりもあるかもしれませんが、多くは国民の希望を満たすものにはならないように思います

 経済というのは、経済理論で動くのではありません。経済活動のプレーヤーは家計(消費者)であり、企業です。分解すれば、個々の国民です。つまり経済は国民の気持ちで動くのです。
 政府が、その辺りを十分に理解しない限り、経済政策はうまくはいかないでしょう。

 私自身は、今、国民の気持ちが、国際的なまた国内の経済環境の好転もあり、少し前向きなものに動き始めているように、何となく感じています。
 変な形でそれにアゲインストの風を吹かせないように、政府に期待します。

現在と将来の両立

2017年11月17日 17時13分46秒 | 社会
現在と将来の両立
 人間は、過去という記憶を蓄積して現在に生きています。そして必ず将来を持っています。現在は、過去の時点では将来でしたが、現在はそれが現実になって確定しています。

 現在は多種多様な要因の影響を受けながら、かなりの部分、自らの過去の行動によって規定されてきているようです。

 例えば、安倍総理の現在は、日本の総理大臣として、日本という国をリードする立場に立っています。これは多くの偶然に影響されながらも、自らの過去の中で、いつかこの地位に就くことを夢見て積み上げてきた行動に大きく依存しているでしょう。

 勿論同じような行動を積み上げて来ても、そうならない場合もあります。結果は多様な偶然にも大きく影響されるからです。しかし、本人が失敗しなければ、目指す所に近い、これでもまあいいかといった所までは達する可能性が高いようです。

 逆に、今は過去である当時の現在において、何らかの原因で、将来を考えない行動をとったことによって、それまで考えていた将来が全く実現不可能なるという場合も非常に多いのが人生でしょう。
 最も極端は場合は、現在の衝動に駆られて、自殺をすれば、その時点で将来は無くなります。

 動物は、その発生以来、本能に従って、生き延びることを次第の目的にしてきました。人間も、A.マズローの欲求5段階説ではありませんが、先ずは生理的欲求、安全欲求、つまり生存欲求から出発するのでしょう。具体的に言えば、食べるものがない、何かに襲われないかという不安から逃れる欲求です。それが可能になって、はじめて将来がある事になります。

 こう考えてみると、将来において過去となる現在の生活において、常に将来のことを考えて行動(生活)することが必要なことは当然です。
 しかし、困ったことに、あるいは不思議なことに、人間は、往々にして、現在にばかリを重視し、将来のことを考えない行動をとるのです。

 怒りに任せて人を傷つけたり、今、カネがないからと盗みをしたり、先ほどの自殺の例もそうです。
 確かに現在は重要です。人間の生きているのは現在です。しかし、将来は、何時か現在になるのです。そしてその将来は、現在の行動に大きく依存しているのです。

 という事になると、将来を破壊するような現在の行動は、将来の有ることを忘れた行動、結局は、長期的視野を欠く思慮深さのない行動ということになります。
 やはり人間は、どんな場合でも、現在と将来を両方見ながら、行動が出来ないといけないのでしょう。

 人間は長く生きるのです、今の政府は100年と言っています。その中の各時点である現在において、人間は常に「現在と将来の両立」を意識していないといけないのでしょう。

 その上で、問題は、現在において、「現在と将来のバランス」をどう考えるかです。刹那主義や享楽主義も、極端な先憂後楽も、良いバランスではないようですが、このバランスはまさに個々人の人生観、生活設計の在り方によるのでしょう。

 この問題意識は、個人の人生だけでなく、企業の行動から国際関係まで、多くの場面に共通のような気がしています。

格差社会化を防ぐ所得税改革を

2017年11月16日 13時29分09秒 | 社会
格差社会化を防ぐ所得税改革を
 政府与党は来年度の税制改正で、サラリーマンの給与から一定の金額を控除する「所得税控除」について、収入の高い人に適用される控除額を見直し、高所得層の控除を縮小することの検討に入ったようです。

 併せて、収入のある人すべてに適用される「基礎控除」を増額するという方針とのことです。
 
 給与所得税控除は最低65万円から、所得に応じて増加し1000万円以上は220万円という事になっています。これを一律(一定額?)引き下げて、それで浮いた財源を基礎控除の増額に充てようという事と報道されています。

 給与所得控除の最低額65万円がいくら減額になり、基礎控除がいくら増額になるかはわかりませんが、基本的には低所得者にはプラス、高所得者にはマイナスの効果を重視し、格差社会化の傾向の出ている近年の日本社会の進行方向の是正措置の一環という事でしょう。

 政府がこうしたことも含めて、格差社会化阻止に動くことは極めて歓迎すべきことです。もともと、日本社会は、地域においても、企業においても人間集団としての在り方を重視し、人間同士の相互理解、その基礎にもなる共通の意識を大事にしてきた伝統があります。

 現政権も、格差社会化にはかなり気を使っているようですが、世界の傾向が、広く格差社会化に向かっているような状況の中で、迷いもあるのでしょうか。
 本来ならば、 所得税の累進課税の上限(昭和45年75%、現在45%)を、昔ほどとは言わないまでも、もう少し引き上げるような英断も必要なのかもしれません。

 もともと、この上限を引き下げについては、アメリカのレーガン税制改革で、税率のフラット化などという意見があったことにも影響されてのことだったと記憶しますが、アメリカ社会の成り立ちと日本社会とは違います。

 付け加えますと、企業の賃金制度においても、本来、日本企業は 企業内の賃金格差が無暗に拡大しないことを重視してきましたが、結果重視、成果主義、などという欧米方式を見習い、また経営者の巨大報酬などに影響され、格差拡大に、少しづつ無頓着になる傾向がみられるように思えてなりません。

 格差社会の進展は、人間社会の融和を阻害し、社会を不安定にして、歴史上の結果を見ますと、社会構造の混乱、多様な争いの源になっています。
 標記税制改革でも、国民に政府の格差拡大阻止についての明確な意図を浸透させるものにしてほしいと思う所です。

決算好調、株価下落、アベノミクス

2017年11月14日 15時59分11秒 | 経済
決算好調、株価下落、アベノミクス
 前々回、今年度上期決算が好調なことについて書きましたが、銀行の決算は別として、この好調は、来年3月期決算にもつながっていくという見方が多いようです。
 そうした中で、日経平均は大分下げました。今日は見直し気分も多少出ているようですが、実体経済と株式市場は、短期的にはあまり関係ないようです。

 前々回も触れましたように、経済統計で見ても、法人企業の売り上げや付加価値はあまり伸びていません。これらの指標は経験的にGDPと強い相関があります。つまり、日本の経済成長率もあまり高くならないという事で、経済成長の数字はその通りです。

 背後にある事情はこんなことでしょう。日本企業は収益が回復し積極的な経営活動をしていますが、諸種の事情から、海外展開が多くなっています。
 海外展開という事は、海外で人を雇い、海外でコストを払って、その結果、収益が高まるわけです。

 海外で支払った人件費やコストは、進出先の国のGDPを増やしますが、日本のGDPは増えません。ただし企業の利益は、連結決算に反映されますから、企業収益は好調です。
 その結果の海外からの受取利息や配当は、GDP(DはDomesticで国内のみ)には入らず、 GNI(国民総所得)には入っていきます。

 つまり、日本企業の活発な活動はその多くがGDPに関係ない海外で行われているという事になります。例えば、トヨタは 国内生産300万台死守と言っていますが、アメリカは「輸出せずにアメリカで作れ」と言います。

 勿論、海外市場に生産を立地するのは有利な面が多いですし、東南アジア諸国の賃金水準は日本より低いので、その点でも企業にとっては有利です。
 結果的に、国際収支の統計で見るように、GDP成長は弱いが、 第一次所得収支(海外進出企業の利子配当収入)が大幅黒字という事になるわけです。

 これは日本経済が発展することに伴い必然的に起きる問題で、避けることは不可能でしょう。出来ることは、海外展開をしつつ、国内経済もある程度の拡大(GDPの成長)を、いかに確保するかということです。失敗すると国内の生産体制が衰え、消費の方は衰えないで、アメリカのような万年赤字国になるのでしょう。

 日本は、現状、生産体制はまず大丈夫でしょう。問題は、アメリカと正反対で、それを購買する国内消費の力が弱く、個人消費が伸びず、訪日外国人の爆買いに頼るような状態です。
 問題は、このブログでいつも指摘しますように、国内需要の不振をいかにして活性化するかです。

 原因は、将来不安に根差す、貯蓄志向、 消費性向の低下であることも明らかになっています。
 この点が、政府、企業、消費者(労働組合)の情報共有と相互信頼、相互理解の中でいかに進められるかが最も重要で、こうした経済の主要プレーヤーが、腹を割って、十分話し合わないところに、アベノミクスの成果が上がらない原因があるのでしょう。

金融機関の整理統合と人員削減

2017年11月13日 23時22分22秒 | 労働
金融機関の整理統合と人員削減
 史上最高水準と言われる有効求人倍率が続く中で、金融機関の整理統合、雇用人員削減のニュースがマスコミに取り上げられています。

 嘗ては、銀行の数も多く、都市のメインストリートの四つ角の三方は銀行が当たり前、などと言われた時代もありました。
 しかし、今ではメガバンクは3行に集約され、地方銀行、中小金融機関も統合再編の真っ最中です。

 そうした中で、メガバンクの人員削減計画のニュースが飛び込んできました。
 さきに三菱UFJが10年ほどかけて1万人の削減と報道されましたが、今度はみずほも数年かけて1.9万人削減と報道されています。

 ゼロ・マイナス金利、の長期化で、銀行の収益は逓減傾向にあり、銀行だけが、デフレの後遺症から抜けられないような状態(「 デフレ3悪」参照)が続く中で、銀行としても苦渋の決断でしょう。

 しかし、問題は金利だけではないようです。金融は益々ネットの世界の仕事になり、金利に代わる収入源の手数料収入も減ることが確実視されています。まさにネットが人間に代わって仕事をこなすフィンテックの時代に入りつつあるのです。

 前書きが長くなりましたが、ここで論じようとしたのは「雇用問題」です。
 こうした産業構造の変化による雇用問題は、かつてもありました、典型的なのは「石炭から石油へ」の転換の時でした。

 産炭地の急激な衰退、炭鉱労働者の離職、この問題対応のため政府は雇用促進事業団を作り雇用の安定、労働移動のための雇用促進住宅を始め多様な対策をしています。
 当時は日本経済の高度成長期だったことが幸いし、「炭鉱からガソリンスタンドへ来たけれど、こちらの方が仕事は楽でいい」などと言う話もあったようです。

 雇用促進事業団の活動は今も雇用保険2事業として残っていますし、同時にその後労使の発案により「失業無き労働移動」を目的に「産業雇用安定センター」も設立され活動しています。

 金融機関は従来から取引先企業との関連が密で、そうしてところへの人材供給が多くみられますし、今回の人員削減も、メガバンクでは、退職者不補充などで、直接の人員削減しない方針とのことです。今は高度成長期ではありませんが、幸運なことに、人手不足の時期です。

 金融機関の自助能力に加えて、こうした政府、労使の用意した「失業なき労働移動を促進する機関」との協力も加え、もともと優れた人材を集めている金融機関です、日本の雇用配置のより高度化に役立つような、人材供給に巧くつなげていってほしいものだと思うところです。

2017上期決算好調、企業は?

2017年11月12日 12時05分02秒 | 経営
2017上期決算好調、企業は?
 今年9月期の上場企業の決算が好調のようです。アメリカが金融正常化を目指して金利引き上げに動く一方、日銀は異次元金融緩和を続けるという事で、円安傾向が続くことの効果もあるようです。

 トヨタの決算発表では、上期の純利益が1兆円を超え、来年3月期の年間純利益は2兆2500億円を予想しているようです。決算発表での「これは実力ではありません、予想より円安に振れた結果です」といったコメントが印象的でした。

 2008年、2009年とリーマンショックによって大打撃を受けた日本企業の業績も着実に向上、リーマンショック前、「いざなぎ越え」のピークを回復してきています。
 財務省の「法人企業統計年報」で見ますと全産業(除金融保険)の純利益は

 ・2006年度:28.1兆円 2008年度:7.4兆円 2015年度:41.8兆円
と急激な落ち込みから次第に回復しています。
 その後は速報性のある法人企業統計季報で「経常利益」見ますと
 ・2015年度第4四半期:17.4兆円 2017年度第1四半期:22.4兆円
と29%増加しています。
 純利益も同率で伸びるとは限りませんが、利益の順調な回復の傾向は明らかです。

 以下、法人企業統計年報の確定値で2006年度と2015年度の経営指標を比較してみますと、こんな状況です。
・売上高:1566兆円 ⇒ 1432兆円
・総資本:1390兆円 ⇒ 1592兆円
・自己資本:453兆円 ⇒ 636兆円
・現金預金:147兆円 ⇒ 200兆円
・付加価値:291兆円 ⇒ 294兆円 
・人件費:201兆円 ⇒ 198兆円

 特徴的なのは、売上高は2015年度段階では、リーマン前の水準に回復していないのです。しかし総資本は202兆円増加し、その太宗は自己資本の183兆円の増加です。そして最も流動性の高い現金預金が53兆円増えています。

 リーマンショックで資金繰りの苦労を骨身にしみて味わった企業は、こうしたショック対応に注力したのでしょう。

 しかし、2015年度まででは、付加価値はほとんど増えていません。そして人件費の総額は減っています。異常なまでの企業の防衛志向、その皺寄せを受けた人件費(賃金)といった構図が明らかです。非正規従業員の増加もその結果でしょう。

 こうした極端までの企業のショック対応力強化(企業防衛指向)はいつまで続くのでしょうか。2015年度以降の1年半で、経営数字はさらに改善しているでしょう。

 この所の国際政治情勢を見ていますと、米中始め、アジア太平洋諸国も、勿論ヨーロッパも経済の安定を熱望しているように思われます。アメリカの自国中心は目立ちますが、日本企業の企業防衛指向も、そろそろ落ち着いてくるのではないかと感じるこの所の企業決算です。

 日本企業が、「これ以上防衛的になる必要もないのでは」と考えたとき、日本経済の進み方に、変化が起きるのではないでしょうか。
 何か、そろそろかな、という感じもするのですが、企業心理はどうなのでしょうか。