tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

付加価値と生産性

2008年04月30日 12時32分38秒 | 経営
付加価値と生産性
 付加価値とは、人間が資本を活用して作り出す「人間生活に役立つ価値(物やサービス)」のことです(「 付加価値の正確な理解を」2008年3月など参照)。活用する資本とは、土地であったり、機械であったり、ソフトウエアであったりするわけですが、今は貨幣経済の世の中ですから、こうした資本はお金に換算して表されますし創出された付加価値も、同じように金額であらわされます。日本全体で創出された付加価値の1年間の総額を表したものがGDPであることは、前記ブログでも触れてきたとおりです。

 ところで、1人より2人で働けば、創出される付加価値も大きくなりますが、2人がかりで2倍の付加価値を創出しても、誰も特に感心しません。しかし、たとえば、1人で5割増しの付加価値を生産したら、人を感心させることが出来ます。この「1人あたりどれだけか」という数字(数字で表される概念)が「生産性」です。正式には働く人間1人当たりですから「労働生産性」、もっと正式に言えば、一人当たりでどれだけ付加価値を生産したかですから「付加価値労働生産性」  ということになります。

 このように、「生産」に「性」がつくと、1ヘクタールで小麦が何トン(土地の生産性)、100万円の資本設備でいくらの付加価値(資本生産性)、1本の生産ラインで何台の自動車(ラインの生産性)というように、使用した(投入した)生産要素当たりの生産を示すことになって、いろいろな形で、生産の効率を示す指標になります。

 もちろん、生産されたモノや付加価値は、人間が活用するわけですから、「人間1人当たり」、つまり「労働生産性」が、通常は最大の関心事項で、これを日本経済全体でいえば「国民経済生産性」、働く人(就業者)1人が1年間にどれだけのGDPを生み出したか、という数字になります。

 最近、資源価格の値上がりで、物価が上がり、それにつれてGDPが増える様相ですが、物価が上がってGDPが増えても、正味の生産(付加価値)が増えたわけではありません。そこで物価の値上がりを含んだものを「名目生産性」、物価値上がり分を差し引いた正味の生産性を「実質生産性」といって区別します。そういう意味では、日本人の生活が良くなる源は「実質国民経済生産性」だということになります。

 生産性論議も、論じる生産性の定義をはっきりしておかないと、話がかみ合わなかったりして面倒ですから、生産性の議論をするときは、先ず、われわれの目指す「生産性向上」とは何かを明確にしておくことが大切なようです。

「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」

2008年04月25日 11時20分39秒 | 経営
「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」
 キャピタルゲインは資本利得などと訳されています。株や土地、商品など、投機対象になるものを買って、値上がりして売った時の儲けのことです。損すればキャピタルロスといいます。
 インカムゲインは和製英語のようで、適切な訳語が見つかりません。こちらは投資対象の値上がりではなくて、投資の見返りとしての金利、配当、地代、家賃などの所得をさします。不労所得(unearned income)というのはこれらの所得のことですが、不労所得は、時にキャピタルゲインも含んで使われるので、適切な訳語になりません。

 この2つのゲイン(gain=利得/所得)の基本的な違いは、次のようなところにあります。
  ・キャピタルゲインでいくら儲けても「実質の生産」(実質GDPなどの「実質付加価値生産」=人間が活用出来る「富」、「豊かさ」)の量には関係ありません。儲けた人のところに富/豊かさが「移転」するだけです。
  ・インカムゲインの方は、付加価値(当ブログ「付加価値の正確な理解を 」2008年3月参照)の分配ですから、その投資によって得られた「実質の生産の増加」(GDP,付加価値の増加)の分け前、つまり人間が活用できる「豊かさ」が投資によって増えた分の中からの分配です。

 たとえば、今、原油が値上がりしています。儲けているのは投機資本や産油国だとすれば、「実質世界総生産」は変わらないのですから、石油を消費する人の富(実質購買力)が「値上がり」という形で、儲けている人たちの懐に移転しているだけということです。

 日本でもかつて「土地バブル」がありました。地価上昇で儲かったお金はキャピタルゲインです。地価が上がっても日本の実質GDPが増えるわけではありません。つまりあの時は、サラリーマンが汗水たらして働いた月給の実質価値が、土地や住宅の取得の際に都市近郊農家など土地所有者ににどんどん移転して行ったということです。「道理で給料は上がっても俺の生活は苦しくて、地主はお金持ちだったよな」と実感される方は多いでしょう。

 お金の働きによって、キャピタルゲインもインカムゲインも生まれます。懐に入れば、どちらのお金も同じに使えます。
 ところで、最近、アメリカなどの首唱によって、「儲かりさえすれば、どっちだっていいじゃないか」といった風潮が一般的になっています。しかし、どちらの「ゲイン」(利得/所得)が本来、人間全体の幸せに適ったものなのか、よくよく考えなければいけないのではないでしょうか。

日本人とバランス感覚

2008年04月19日 15時44分13秒 | 社会
日本人とバランス感覚
 バランスシートは、「借方」と「貸方」のバランスで成立しています。複式簿記の発明者、ルカ・パチョリは「これは神の摂理だ」と感じたとのことですが、日本人は、普段の生活の中でも、常にいろいろなバランスを頭の中で考えながら生活しているのではないでしょうか。

 あまりいろいろなバランスを考えると、意思決定も遅くなるし、発言にも遅れをとる、行動も慎重になったりしてしまって、後手に回って損をしてしまうなどといった経験を、国際会議や国際取引などで持たれた方も多いのではないかと思います。

 しかしバランスを考えるということは、常に全体のことを考えいるということですし、相手のことも自分と同じように考えるという意味で、大変大事で、また優しいことでもあるといえると思います。

 たとえば、最近日本の調査捕鯨が反対運動の対象になったりしていますが、多くの日本人にとって、何故、鯨と海豚が特別で、牛や豚はそうでないのか、解らないのではないのではないでしょうか。もちろん私にもわかりません。日本人にしてみれば、人間を含めて、総ての生き物は、生態系の中で何らかの形で他の動・植物を食べて(栄養にして)生きているのは同じです。だから食事の時には「いただきます」と言って、いただく命に感謝するのでしょう。これは昨年7月このブログでNPO「いたごち」と食育 のタイトルで書かせていただきました。

 日本では、養豚業者が、豚の供養塔を建てたりします。命を頂かざるを得ないという現実に対して「感謝」の気持ちをあらわすことで、何とかバランスさせようとしているということでしょう。日本人は無生物の針にさえ、「お疲れ様です」と「針供養」をします。

 こうしたバランス感覚は、今後の地球環境問題、戦争を止めようという世界平和の問題にとっても、また最近弱肉強食化しているとわれる世界経済のあり方についても、実は大変重要な感覚なのではないでしょうか。最近、こうした日本人のバランス感覚についての著述や論議が多くなっているような気がします。バランス感覚は、これからの世界に役立つ大切な文化なのかもしれません。

間接金融か直接金融か

2008年04月14日 10時51分11秒 | 経営
間接金融か直接金融か
 企業が資本を増強したい時、銀行からお金を借りるというのが間接金融方式、株を発行して資本市場から直接資本を調達するのが直接金融方式といわれます。
 戦後の日本の企業の発展の中で考えて見ますと、かつては間接金融方式が圧倒的で、銀行の役割はきわめて大きいものでした。主要都市の目抜き通りの四つ角では少なくとも3方が銀行だなどといわれました。

 しかし、1960年代頃から「証券よ今日は、銀行よさようなら」などといわれるようになり、株式投資が盛んになりました。といっても、日本人の貯蓄の内訳は、郵便貯金、銀行預金、確定利付債券、生命保険などが中心で、なかなか庶民が株式投資とは行きませんでしたし、その傾向は今でも続いています。

 一方、金融業界のほうは、金融先進国といわれるアメリカ、ヨーロッパの方式がだんだん盛んになってきています。それは、企業に対する直接投資中心の金融のあり方です。かつてIT技術の急進展の頃はベンチャーキャピタルが人気でしたし、今日のように、年金資金などが積み上がってくると、 いわゆる投資ファンド(private equity)が全盛のようです。

 こうした直接投資型の金融機関は、従来の銀行の方式はローリスク・ローリターンで面白くないと思うのでしょうか、ハイリスクでもハイリターンを指向しますから、出資者にもそのリスクを負ってもらいます。つまり銀行預金のような確定利付きではなく、投資信託方式で、利息も元本もリスクにさらされています。それでも、特に、今の日本の場合は、金利水準は「異様」な低さですから、家庭の主婦をはじめ、庶民も投信に興味を持っています。銀行は、定期預金が集まりませんから、関連証券会社の投信を売って、手数料をもらっています。

 ビジネスのリスクをきちんと自分の中で消化し、預金者には確定利付きという形でリスクを負わせなかった銀行が衰退し、資金の運用にはリスクがあって当然という考え方が一般的なりますと、業界の知識に疎い庶民は、説明の上手い投資業者の言うことを信用することになるのでしょう。しかし説明の上手さと投資の手腕は関係ないかもしれません。

 ささやかの貯蓄を運用する庶民にとっても難しい世の中になりましたが、ビジネスの世界でも、今流行の直接金融方式が、本当に、より優れた方法なのでしょうか。このあたりは十分に考えないと、「銀行よさようなら、証券よ今日は」のままで本当に良いのか、最近の世相を見ていると、日本でも、世界でも、問題が多いようです。


中国:インフレの進行と人民元上昇

2008年04月11日 14時28分56秒 | 経済
中国:インフレの進行と人民元上昇
 
 北京オリンピックと上海万博に向けて疾走する中国ですが、スムーズに行ってくれるでしょうか。政治的な面にはあえて触れませんが、国内における急激な格差の拡大が不満を生み、内陸地域の最低賃金の大幅上昇などの手が打たれたことは、このブログでもすでに触れました。こうした動きに触発された(?)賃金上昇のせいもあり、中国経済は年率6~8パーセントのインフレ基調になってきています。

 一方、今日の新聞では、人民元の対ドルレートが上昇し、1ドル6人民元台に突入というニュースが流れました。中国政府は、人民元の上昇にはかなり厳しく対応しているように感じられますが、折に触れての米・欧からの圧力、それに米欧に本拠を置く巨大化した各種のファンドも含め、国際金融取引のプレーヤーズの活動の中で、人民元がじりじりと上昇してしまうといった動きへの抵抗はなかなか難しいようです。

 マスコミの解説の中には、インフレ基調の中国の場合には、人民元を高くすることでインフレ抑制の効果もあるから、そうしたメリットを中国も考えているのではないか、などといったものもありますが、それは中国経済へのダブルパンチになるでしょう。

 折しも労働法の改正などで、中国の人件費コストは制度的にも上昇必至です。それが生産性上昇で吸収しきれずにインフレになっているのに加えて、人民元高にすれば、これは更なる中国のコストと物価の一律上昇になって、中国の国際競争力をいっそう弱めることになります。すでに、先進国からの中国進出企業が、ベトナムやタイに脱出を図るといった報道も多く聞かれます。

 アメリカが不況になっては困るというのが世界の論調ですが、中国経済がおかしくなっても世界は困るでしょう。基本は中国自身がどう考えているかですし、現状程度のコスト高ならば、中国には乗り切る力が十分あるのかもしれません。中国の政治力を考えれば、日本に対するプラザ合意のようなこと(1985年、G5で日本は円の大幅切り上げを迫られ、その後2年で円は2倍に切り上げられて、製造業の空洞化、ひいては”失われた10年”につながった)にはならないでしょうが、これから先、十分注意して見ていく必要がありそうです。

サブプライムローン関連損失97兆円

2008年04月09日 10時44分14秒 | 経済
サブプライムローン関連損失97兆円
 IMF(国際通貨基金)は(昨日(2008/4/8)、サブプライムローンに関わる損失が、関連する分野も含めると9450億ドル(97兆円?)に達する可能性があると発表しました。合わせてそれによる世界経済へのマイナス影響についての懸念を示しています。

 もともと金融というのは、実態経済の活動をより効率的にするために行われる活動であるはずのものが、お金でお金を儲ける手段になってしまって、実態経済にダメージを与えても、恬として恥じないといったことが常識になりつつあるような気がしてなりません。そのために金融工学を発展させ、会計基準や国際金融制度を変更(自由化の名目で)することを主導したのは、万年経常赤字を資本収支(金融)で補填することが必須のアメリカであることには十分の留意が必要です。

 1兆ドル近い損失は日本のバブル崩壊時に匹敵するといわれますが、今回は、推定約半分がアメリカ国内で、後の半分は証券化で外国に損失を移転しています。事を起こしたアメリカは半分の損失でまぬかれて、あと半分は外国負担ということになります。しかも関連証券の格付けが当初極めて高かったことなどを考えますと、今日の金融システムは、主人である実体経済をないがしろにして、とうとう主人に危害を加える下剋上を演じてしまっているということになります。

 お金でお金を儲ける「キャピタルゲイン」は、富を移転するだけで付加価値を生みません(金利、配当は付加価値生産を経由しますからキャピタルゲインではありません)。それが実態経済の付加価値生産活動(諸国のGDPの拡大)にマイナスの影響を与えることは、世界の損失ですから、何としてでも防がなければなりません。

 IMFに八つ当たりして申し訳ありませんが、 IMFには損失額の発表と先行きへの懸念だけではなく、世界経済の発展に最適な「あるべき金融システム」も早急に考えてほしいものです。

 

tnlabo’s blog 2007年度までのテーマ

2008年04月01日 16時58分07秒 | インポート
tnlabo’s blog 2007年度までのテーマ
2008年3月
アメリカ経済の過ち  付加価値の正確な理解を  円高か、ドル安か  バランスシート(貸借対照表)の原理  「労資」関係の復活?  政府の賃上げ要請  庭に来る小鳥たち  自己資本比率を見よう
2008年2月
<08労使交渉>選択:賃金引上げ、雇用改善  東京G7と世界経済  ジャパン・パッシング
労働分配率論議
2008年1月
<モノづくりと人づくり>その2:人材の活用  <モノづくりと人づくり>その1:モノづくり  アメリカ緊急経済対策の効果  付加価値率の数字  中国のインフレを読む  アメリカ経済への致命傷か  高付加価値経営と付加価値率 
2007年12月
2つの格差  経営計画の目標  地球温暖化防止の視点 
2007年11月
原油価格高騰と国内物価  パートの賃金水準  正社員の賃金  経済価値の基準 
2007年10月
不況に出来ないアメリカ  G7金融政策への視点  経営計画  不良債権の国際移転  経営と経済  日本工業倶楽部会館・炭鉱夫・織姫 
2007年9月
日本的経営  雇用ポートフォリオ  雇用の発生 
2007年8月
企業の目的  地価問題再び  株価急落  夏季休暇考  たまむし(玉虫) 
2007年7月
為替レートへの誤解 最低賃金への政府の介入 正社員不足 過労死・過労自殺 同一労働同一賃金 
2007年6月
ファンドの敗北  ブルドック対スティール  原油価格高騰とデフレ脱出  インターンシップの活用 
2007年5月
人材と人財  NPO「いたごち」と食育  ファンドの増配要求  アメリカ経済好調の秘密  個人情報と墓地  中国の最低賃金大幅引き上げ 
2007年4月
最低賃金論議  週休制の進展  ワークライフバランスに必要なもの  格差問題と諺  富士CALMの富士  2種類の物価 
2007年3月
就職氷河期から売り手市場へ  2007の春闘 
2006年2月
これからはじめます。何卒宜しく。  忘れられた付加価値  困った「資本原理主義」