tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「経済成長」か「格差社会化阻止」か:政労使の対応

2016年01月30日 11時04分41秒 | 経済
「経済成長」か「格差社会化阻止」か:政労使の対応
 今春闘で目指す「より良い社会」とは、どんな形の「より良い状態」が望まれるのでしょうか。
 政府は(財界も)「デフレ脱出を確実にする」、「経済の好循環を目指す」と言っています。
 このブログでは繰り返し述べていますが、日本経済はすでにデフレは完全に脱出しています。もともと日本経済がデフレになったのは、プラザ合意の円高のせいです。日本の賃金も物価も、世界一高くなったので、それが国際水準に鞘寄せする過程がデフレでした。

 しかし、今の$1=¥120円あたりの水準で、「円高のせいで日本の物価は高い」という人は多分いないでしょう。デフレの原因は消えたのです。
 真面目に働き、世界トップクラスの技術開発力を持ち、生活を楽しむことも知っている日本人が作る日本経済社会では、再び円高にならない限りデフレの心配はありません。

 あえて心配すれば、日本人が過度に貯蓄に走り、消費不足になることでしょう。それでも真正デフレ(物価が傾向的に下がり続けること)にはならないでしょう。もう、デフレ脱出は終わっているのです。

 もう一つの政府の言う、経済の好循環ですが、これは経済学的に言えば、「貯蓄=投資」と「消費」とがバランスよく成長する均衡成長(balanced growth)に近づくことでしょう。
 この点については今の日本経済の状態には、当面、投資の遅れがあるとと思います。

 政府は、企業の資本蓄積の増加に対して投資が遅れているのはまずいということで、企業にもっとどんどん投資をせよと要請しています。
 しかし今の企業の資本蓄積の増加は何から来たのでしょうか。その太宗は、2回にわたる20円幅の円安によるwind-fall profit(思わざる利益)でしょう。

 これをどう使うかは慎重に考えなければなりません、まさに「奇貨居くべし」で、いま企業は、その蓄積資本の活用について、中・長期の計画の検討中でしょう。偶々金ができたからと無駄遣いすることは禁物です。
 この資本蓄積をベースにして、堅実な技術開発、設備の高度化に繋げていく能力は日本企業には十分備わっていると思います。
 その実現には、あえて些かの時間をかけ慎重に計画するべきでしょう。

 現政権は選挙もあり、何はともあれ「はやくはやく」と民間労使を急かせますが、昔から「急いては事を仕損じる」という諺もあります。
 多少時間はかかるかもしれませんが、日本企業の大勢は、誤りない方向に進んでいくとtnlaboは見ています。

 その意味では、経団連が、最後のところで「年収ベースで昨年以上の賃金上昇を」と言っているのは、「本当の本気」ではないように思います。
経団連も、非正規労働者の正規登用や中小企業も含む多様な労働環境の改善を政策課題に掲げていますように、格差社会化には懸念を持っています。賃金を上げられるところはどんな形でもいいから上げて、上げられないところとの格差が拡大することは健全な消費拡大にもプラスではないのではないかという気持も持ちながら、政府の顔を立てているように思えてなりません。

 次回は労働組合サイドについてみていきたいと思います。

より良い経済社会と春闘の役割

2016年01月28日 10時53分47秒 | 経済
より良い経済社会と春闘の役割
 新春早々に連合の交歓会があり政労使の代表者が出席、一昨日、昨日は経団連の「労使フォーラム」が開催されて、労使の代表が意見を述べあいました。
 マスコミはいよいよ「2016春闘始まる」として、労使代表の意見を紹介しています。

 春闘は何の為に行われるのでしょうか。戦後の賃金闘争の発足時は、イデオロギー対立と「食える賃金」といった絶対困窮に近い労働者の生活改善の要求だったでしょう。 
 戦後10年昭和30年代に入り「もはや戦後ではない」といわれた時期に春闘方式は発足、高度成長の中で、昨年を上回る賃上げといった経済闘争に進み、経済成長、賃上げ、インフレの並行する時期はオイルショックのパニックまで続いたように思いもいます。

 第一次オイルショックで、経済はゼロ成長に落ちインフレだけ進む、という経験を通して、日本の労使は、賃金と経済の相互関連性に目覚め「ジャパンアズナンバーワン」と言われた労使に信頼関係で「より良い経済社会を創る」というレベルにまで進化したといえるのではないでしょうか。

 この進化は、プラザ合意以降の強いられた円高の中での「失われた20年」を通して維持され、日本経済・日本産業は、まさに労使の協力で、長期のデフレ不況に耐え、経済・社会の劣化をほぼ最小限に食い止めてきたように思います。

 2013年以降の日銀の政策変更で、円高から脱出した日本経済ですが、その後の復活の中で、健全な発展を取り戻すと期待された日本経済・社会は逆に劣化の度を進めているように思われます。

 具体的な現象面では、かつて一億総中流と言われた日本経済・社会が、経済回復後にも依然として「格差社会化」を進めていることです。

 象徴的な統計数字を上げれば、経済の復活とともに減少(復旧)すると予想された非正規労働者の比率が、逆に上がり続け、さらに、この豊かな日本社会で、生活困窮者の問題が顕在化、昨年、厚生省が「生活困窮者の支援制度」を始めるといった状態です。

 かつて春闘が、労使の主張は90パーセント同じ、などと言われたように、如何に労使の信頼と協力でより良い日本経済・社会を作るかというレベルまで進化してきていたことを考えると、この「経済回復の中での」現状に些か不満を感じる方も少なくないのではないかと思われます。

 今年の春闘はこんな状況の中で始まっています。労使交渉に政府が介入、いわば三つ巴の異形の春闘ですが、本当により良い社会の建設に貢献する結果になるのでしょうか?

 賃上げさえすれば経済が良くなるだろうと昨年を上回る賃金上昇を喧伝しているのは政府(政府の賃金交渉介入は国際的に見ても異常)、
 それに対して、現状の経済・経営の実態を客観的に見て、昨年より要求基準を切り下げる労働組合、
 政府の要請を受け、傘下の主要大企業に、形はともかく金額だけは昨年より多く出してほしいという経団連、
2016年春闘は端的に言ってこんな構図です。

 「昨年より高い賃上げ」というのはかつて労働組合の主張でした。何か噛み合わない労使の主張、間に割り込んだ政府の思い込み「賃上げ=経済好循環」は当を得ているのでしょうか。
そのあたりをもう少し見て行きたいと思います。

裏目に出た年金資産の株式運用

2016年01月26日 10時29分01秒 | 経済
裏目に出た年金資産の株式運用
 世界的な経済の変調で株式市況は低迷状態です。その中でも日本経済は比較的健全なので、一昨日のように、反発を見せることもありますが、東京市場でも相場をリードしているのは国際投機資本なのでしょう。日本株も一蓮托生です。

 こうなるとマスコミなどが問題にするのは安倍内閣が目玉の一つにしていた年金の株式運用の拡大で狙った年金財政改善の結果が大きなマイナスになるという問題です。
 週刊誌などでは、運用損失が十数兆円とか、30兆円などといった数字が踊ります。

 安倍さんも内心は心穏やかではないでしょうが、浜田洪一教授(安倍さんに金融緩和を進言したといわれる)も、「株式運用のリスクも説明すべきだった」と発言されたといいう新聞報道もありました。

 tnlaboはもともと株式投資などの「キャピタルゲイン」で年金原資を作るというのは不賛成で、日本経済を成長させる自信がるなら、日本の国債を買っておけば、長期的には必ずペイするはずだと考えています。

 もともとキャピタルゲインは単なる富の振り替えで、誰かが損した分がGPIFの儲けになるのですから、付加価値の創造、社会の豊かさの増進には関係ありません。投資が投機化している今の株式市場では、基本的にはご禁制の賭場と一緒です。

 こうなる可能性はある程度予見できたわけで、2014年の9月8日に「 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式運用枠増」を書かせていただきました。
 去年の夏ごろ全部売って手じまいしていれば良かったのでしょうが、それではその後のGPIFの仕事がなくなってしまいます。常設機関だと仕事ないと困るでしょう。結局は高値掴みになったようです。

 いつも述べていますように、tnlabo は、現状、日本経済には健全な成長を可能にする条件は揃っているとみており、よほどの政策の失敗がない限り、徐々に成長率も高まると考えています。だから株価も少し長期で見れば回復していくのでしょう。

 新聞に日本電産の守永社長が「今は設備投資のコストも企業買収のコストも安い。積極的投資の時期」と言っておられるとの記事があり、守永社長にとっては「自社株買い(自社に投資すること)が最も良い投資」なのでしょうという趣旨のコメントが付け加えてありました。

 安倍さんも、本当に日本経済が元気に発展すると自信を持っているのなら、年金資産は日本国債で運用するのが日本国民にとってはベストぐらいの気概を持ってほしいものです。

アメリカ経済は大丈夫か

2016年01月24日 11時15分46秒 | 経済
アメリカ経済は大丈夫か
 このところアメリカ経済は好調といわれ、世界で好調なのはアメリカだけなどといった意見も多く聞かれます。
 オバマ大統領も、先日デトロイトを訪問し、デトロイト(アメリカの自動車産業)は完全に復活したといったようです。

 リーマンショックで世界中に迷惑をかけたアメリカが、世界不況を避ける手段として『異次元金融緩和』を実施し、バーナンキさんの主張である金融危機は金融緩和で救えるという政策を実験し、その成功の証として、漸く金融の正常化に一歩踏み出したわけです。

 アメリカ経済が、この政策転換にも負けずに好調を維持できているのであれば、ご同慶の至りということですが、些か不安な状況や指標も指摘されています。

 好調な自動車販売についても、実はかつての住宅向けサブプライムローン並みの安易な貸し出しがあるといった見方もあるようです。
 原油安でガソリンをがぶ飲みの大型車が好調といった意見も聞かれます。

 住宅の新規着工件数も増えていますし、マネーサプライ(M2)も一貫して増えています。しかしその一方で、財政収支の悪化の可能性も報じられたりしますし、経常収支の赤字はは拡大傾向にあるように見えます。

 確かに、雇用や消費は強いといった状況ですが、かつてのグリーンスパン・マジックのミニ版のような要素があるとすれば、それはいつかは崩れるでしょう。

 今回の異次元金融緩和の巻き戻し、金融正常化の動きの中で、金利の引き上げについては、かなりゆっくりとしたものになろうという見通しが大勢ですが、ゆっくりでも、それが、アメリカ経済の健全な元気さと両立しつつ着実に実行できているのかどうか、確り見守っていかなければならないような気がしています。

消費税負担と税収

2016年01月22日 17時07分00秒 | 経済
消費税負担と税収
 1月19日の衆院予算委員会で、麻生財務相から、国民1人当たりの増税額について1万4000円から2万7000円に訂正する発言があったとの報道がありました。

 ちょっと計算してみますと、家計調査年報の最新は2014年で、総所帯の月平均消費支出は251,481円、これに1.10/1.08を掛けると256,138円で差額は4657円、12ヶ月ですから12倍して5万5884円、所帯人数2.41人で割ると1人当たり2万3188円となります。
 政府の当初の計算とはかなり違って、訂正後よりは少ない数字です。矢張り訂正前の数字には問題がありそうです。

 ところで、計算をやり替えて2万7000円に増えたというのは、今度は国民経済計算ベースにしたからということです。
 政府見通しによる平成28年度の民間最終消費支出は304.9兆円です。そのほか民間住宅15.6兆円にも消費税はかかるでしょうから課税対象の合計は320.5兆円です。再来年の経済見通しはないので一応これを使います

 これに上のように2パーセント増税分を掛けますと326.4兆円になりますから差額は5.9兆円、つまり2パーセント増税で5.9兆円税収増(国民には負担増)になります。政府の約束する軽減税率1兆円を差し引くと4.9兆円です

 一方、麻生さんの答弁のデータによれば、消費税を1パーセント増税すれば「軽減税率を見込んでも」税収は2.7兆円、2パーセントで5.4兆円増えるとなっています。
 上の計算とは、5000億円の差、つまり5000億円多く見積もっていることになります。

 前回の3パーセントの増税では税収は6兆円台の増加のようです。ベースが変わらなければ2パーセント増税では4兆円台でしょうか。統計の取り方や推計の方法はいろいろ可能ですが、何か楽観的過ぎるような気もします。

 最後に、国民1人当たりの負担増ですが、税収増を政府見積もりの5.4兆円とすれば、これを日本の人口1億2700万人で割ると国民1人当たり4万2519円になります。ここでの試算の4.9兆円でも3万8583円です。一方、政府のいう国民1人当たりの増税額(訂正後)2万7000円に人口の1.27億人を掛けても3.4兆円弱です。あとの2兆円ほどはだれが払うのでしょうか。
     ………………………………
 これはあくまでも限られた公表データから推計したものです。民間最終消費支出の太宗は家計が支出しているので、消費税のほとんどは家計が払っていると考えていますが、誤りがあればご叱正いただきたいと思います。

経団連「経労委報告」:賃上げで消費を

2016年01月20日 11時55分14秒 | 経営
経団連「経労委報告」:賃上げで消費を
 昨19日、経団連は2016年版の「経労委報告」を発表しました。
 もともと日経連時代から、この報告書は、その年の春闘賃上げについての経営側の基本方針が示されるものでしたが、今年もその役割を意識しつつ、年収ベースで昨年を上回る賃上げをと、アベノミクスの目指す、日本経済活性化の方向を後押しするものとなっている感じです。

 日銀の黒田総裁も連合の新年交歓会に出席、「物価と賃金が両方上がるような賃上げが望まれる」という趣旨のことを言われたようで、河津連合会長も微妙なニュアンスの発言でそれに応えられたようですが、今や、日本経済を救うのは賃上げというのが日本のリーダーの共通認識となっているようです。

 もちろん賃上げが素直に消費拡大につながるかというと、現実に平均消費性向の低下がみられますように、話は簡単ではありませんが、春闘の基本課題は、企業にどこまで賃上げができるかという問題です。

 経団連はその分野の専門団体ですし、語り掛けるのは、必ずしも賃上げに賛成ではない企業経営者ですから、発言は些か慎重になるのは当然でしょう。

 昨年は、いわゆる黒田バズーカ(日銀の追加金融緩和策)で、景気上向きムードの中でしたが、今年は国際情勢の不安定を映した年初来の株価暴落の中での発表です。やはりトーンは賃上げを支持しつつも、慎重さを増す企業にも配慮したものとなっているようです。

 今年は「賃金の一律引き上げ(ベースアップ)」についての表現は昨年より弱くなり、「ベアに限らす、様々な選択肢が考えられるといった表現で、企業の多様な選択に任せるといった感じになっています。

 多様な選択といえば、当然ボーナス、各種手当(特に少子化対応を意識した子育て対応に言及など)ということになるのでしょう。しかし昨年より環境はよくありません。ボーナス増などは難しい企業が多いでしょう。
 非正規従業員の正規化の問題は、当然固定的な総額人件費の増加につながるものですが、総額人件費管理の中で、ベアはともかくこれに力を入れよう(?)というのであれば、それは日本経済社会の安定化(消費性向にも多分好影響)のための素晴らし発想でしょう・・・。

 昨年から今年にかけての日本経済を取りまく国際情勢の変化の中で考えれば、日本経済の成長にベースを置くベースアップ、その時々の企業の収益の変動に連動するボーナスなどといった人件費決定の基本を踏まえた、誰にも理解しやすい方針であってほしいと思います。現に多くの企業はそうした対応でしょう。

 設備投資、研究開発投資の促進に触れているのは、経済団体としては当然と思われますが、その根底を支える人間への投資、教育訓練投資をもう少し前面に出さないと、最近続発する、従業員の教育や技能訓練などの不足による事故は無くならないような気がします。

2016春闘、労使の論議は噛み合うか

2016年01月18日 12時00分57秒 | 労働
2016春闘、労使の論議は噛み合うか
 新春早々に始まった国会では、アベノミクスの新3本の矢や、一億層活躍社会、GDP600兆円を目指すといった言葉も聞かれますが、東京株式市場は新年に入ってほとんど一方的な下げで日経平均は16,000円台にまで下がり、何か経済沈滞ムードが広がってきました。

 日銀の黒田総裁は日本経済は回復基調といっていて、実体経済は多分その通りなのでしょう。しかし黒田バズーカ第3弾で、株価上昇を期待する向きには残念な状態です。

 今年の春闘は、こんな状態の中で始まることになりそうです。
 連合や傘下の産別労組などは昨年より低めの要求基準を示しているところも少なくないようです。これは昨年までの大幅円安による為替差益や、前年の消費税上昇の影響などが消えることを前提にした極めて良識的な要求だと感じた所です。

 一方、1月中旬と言われていた経団連の「経営労働政策委員会報告」もそろそろでしょう。昨年12月の原案では2015年以上の賃金上昇を促すような内容と報道されていました。勿論個々の企業ではそれぞれの実態、支払能力によるということのようですが、非正規従業員の正規化や、非正規の賃上げにも言及など、前向きの感じを受けるものでした。

 ところで、要求をあまり無理のないなものにとどめた労働側と、安倍政権の要請を受けてなどと言われる経営側の積極的な意見は、何か春闘の中で、巧く噛み合わないように感じる方も多いのではないでしょうか。

 かつての高度成長期は、労働側が「昨年を上回る賃上げ」というのが一般的でしたが、何か労使の主張の逆転現象のような錯覚にとらわれます。
 もちろん交渉の現場では、賃上げ要求する組合側に、そこまでは無理といった論議になるのでしょうが、安倍政権、財界、個別企業といったそれぞれの段階が、飾られたキャッチフレーズに踊らされず、現実を踏まえた真剣な論議を期待するところです。

 おそらく、この年初からの株式市場の暴落状況は、実体経済とはかなり乖離してるものとはいえ、経営側にとっては、安易な賃上げは許されないのではないかという懸念を強めるのではないかと思われます。

 「経営労働政策委員会報告」の最終案で、そのあたりは見えてくることになるのでしょうが、春闘は、まさに日本中の労使が、日本経済からわが社の現状までについての理解を共通なものにするための絶好の論議の場として機能してきた歴史があります。
 この日本の労使関係の伝統が、十分に生かされるような、真剣で噛み合った論議が、2016春闘でも行われることを期待したいところです。

2016年度の日本経済政府見通し瞥見

2016年01月15日 15時59分07秒 | 経済
2016年度の日本経済政府見通し瞥見
 来年度の「政府経済見通し」については、まだ閣議了解段階で、決定段階で出る雇用者報酬などは出ていませんが、新3本矢を標榜する安倍政権は、今年度よりいくらか強気の見通しを出しています。

 GDPの成長率は、今年度の実績見込みの実質1.2パーセント(名目2.7%)から実質1.7パーセント(名目3.1%)と強気の数字になっています。

 関心の高い消費者物価上昇率は、今年度の0.4パーセントから1.2パーセントに高まるという見通しで、目標の2パーセントに近づけたい様子が分かります。
 ただし前提は円レートが本年度の122.0円よりかすかに円安の122.6円、原油輸入価格は1バレル44ドルということですから、現実には予想は難しいところでしょう。

 ところで、経済成長の強気見通しを支えているのは、民間最終消費支出の伸びが実質値で1.0パーセントから2.0パーセントへ、民間企業設備の伸びも同じく実質で2.8パーセントから4.5パーセントへ大きく増加という見通しにあるようです。
 民間住宅投資の伸びも実質で2.8パーセントから3.8パーセントに増えるという見通しで、これも後押し要因です。

 経済成長1.7パーセントの内外需の内訳は、内需1.8パーセント、外需マイナス0.1パーセントで、28年度の経済成長は内需中心ということになります。
 さらに内需の官民別の内訳は、民需寄与度が1.8パーセント、官需寄与度は0パーセントですから、経済成長は民間中心です。

 安倍総理が賃上げと設備投資を奨励していますが、その説得力と効果を織り込んだ経済見通しというところでしょうか。

 新年の株式相場もそうですが、どうも今年は、何事も海外の不安定な状況に不振り回される可能性が小さくないようで、比較的安定している日本経済(実体経済)も、ある程度の影響を受けることは避けられないでしょう。

 就業者の伸びは0.3パーセント、雇用者の伸びは0.4パーセントと、ともに今年度より0.1~0.2パーセント伸びが鈍るとしていますが、これが、雇用構造の改善(非正規の正規化)を見込んだものであれば大変結構だと思います。

 この程度の日本経済の前進は、日本経済の実力からすれば、当然とtnlaboは考えますが、国際情勢は予断を許しません。日本経済にプラスになるのは原油価格の下落ぐらいでしょう。
 地球上の各種紛争の鎮静化を望むや切です。

GDPの使い残しについて ―訂正とお詫び―

2016年01月15日 13時20分38秒 | 経済
GDPの使い残しについて ―訂正とお詫び―
 前から些か気になっていたところですが、このブログでは、日本の経常収支が万年黒字で、これは「GDPの使い残し」ですと書いてきました。

 日本の経常黒字が貿易収支の黒字が太宗であったときはその表現でもよかったと思います。しかし最近では、貿易収支は時には赤字で、第1次所得収支の黒字(海外からの利子・配当収入)が主たる黒字の要因です。これはGNP(国民総生産)には入りますが、GDP(国内総生産)には入りません。

 したがって、GDPの使い残しというのは適切でなく、かつて一般的だったGNP(居住者=日本国籍のものが生産した付加価値)の使い残しというのがより適切と思われます。

  今はGNPという用語は使われずGNI(国民総所得)と言われますので、正確には「GNIの使い残し」ということになります。

 以上のような次第ですので、何卒、これまでの表現を訂正させて頂き、お詫びを申し上げる次第です。
併せて、今後とも変わらぬお付き合いを宜しくお願い申し上げます。  (tnlabo)

マクロの労働分配率と経常黒字

2016年01月12日 11時13分24秒 | 経済
マクロの労働分配率と経常黒字
 付加価値と付加価値分析について書いてきましたが、今回はその応用、あるいは補論のようなものです。

 今朝のTVニュースで、昨年11月の経常収支の黒字が1兆1000億円余で17か月連続だったといっていました。年間、あるいは年度間では15兆円ぐらいになりそうです。

 ところで、前回までのところで、付加価値の定義や計算は国民経済計算(マクロ)で最も正しく表示され、企業レベルでは統計の定義がそれぞれに違うので、どうしても曖昧さが残ると書いてきました。
 
 確かに企業レベルでは付加価値の定義上は曖昧さが残りますが、企業として、時系列に比較分析をしたり、同業他社との比較をしていく場合は、数字の取り方が一貫していれば(その定義に従った解釈をする限り)分析は可能ということができましょう。

 例えば、財務省の「法人企業統計」に従って付加価値分析をすれば、企業としての分析は十分に可能です。
 それは、企業として、その分析の結果を踏まえて、将来の経営計画の中で、投資計画と整合する利益計画、従業員満足と整合する総額人件費計画、その両方が、計画付加価値と整合するかを判断して経営計画を立てれば、十分な合理性を持つからです。

 一方、国民経済の場合はどうでしょうか。GDPを600兆円にするという計画を立て、そのための望ましい教育研究機関への技術開発投資、国としての生産設備投資計画、賃上げを奨励し、最低賃金引き上げ政策で雇用者報酬の増加計画を策定しても、今日の日本では別次元の問題が発生しています。
 
 それは、賃金(雇用者報酬)の中で貯蓄が増え、消費が増えないという問題です。数字で言えば、 平均消費性向の低下問題です。

 企業レベルでは「物言う株主」が、利益が出ているのに内部留保ばかりで投資をしないのは怪しからん、もっと成長のための投資をしろ、と言ったりします。
 マクロレベルでは、賃上げしても貯蓄に回ってしまって、「労働分配率の割に消費が増えない」、それでは消費が伸びず経済成長しない、という問題が発生し、政府はもっと賃上げをしろと言います。

 企業や家計がこうした行動をとるのは、ともに将来不安の故でしょう。無理な投資して失敗したら元も子もない、とか、貯蓄を減らして消費したら、国は老後の面倒を見てくれるのか、といったところでしょう。

 現状の国際情勢、安倍政権の憲法改正で何を目指すかの疑問、格差社会化で貧困層の拡大、新年からの株式市場の動きなどを見ていれば、誰しも不安感を強めるのではないでしょうか。
 その結果が、GDP(正確には国民所得)の使い残し、つまり経常収支の黒字の連続ということでしょう。

付加価値分析の効用

2016年01月10日 09時52分36秒 | 経済
付加価値分析の効用
 付加価値というのは、一国経済やそれぞれの企業が1年間に生み出した経済価値で、その国の国民や、その企業の株主や従業員が、自分たちが生み出した付加価値を分け合ってその年の生活をするというものです。

 マクロ経済(国全体の経済)としてはこれがはっきりしていて、付加価値(GDP=国レベルの粗付加価)が経済成長や豊かさの基準として活用されます。
 しかし企業では、通常、売上高、利益が成長の指標で、最近では時価総額が企業価値と言われたりします。

 しかし企業の従業員は売上高や利益で生活するのではありません。まして時価総額が増えたからと言って賃金が上がる(上げられる)ものでもありません。
 賃金や利益という従業員や企業の生存・存続を支える原資は付加価値です。付加価値を人件費と利益で分け合って、従業員は家計をより豊かにし、企業は技術開発や投資をし、競争に勝って成長していくのです。

 しかも、大事なことは、この「付加価値を人件費と利益に分ける」という分け方が、企業の発展を左右する基本条件になるということなのです。
 これは、国民経済や企業経営における「分配と成長の関係」という形での実証分析や研究で、次第に明らかになっていることです。

 最近安倍総理も、新3本の矢に関連して、「成長と分配の好循環」の実現を目指すといっていますが、言葉は曖昧です。具体的には「分配を適切なものにすることによって、成長も積極的に進める」というという意味なのでしょう。明確な表現が必要です。

 企業でもこの問題は、長い論争の歴史を持ちます。いわゆる「労働分配率」論議です。分配が利益に偏るとストが起き、賃金(労働)に偏ると企業が成長しなくなる。真理は中間にあり。となるわけですが、さて中間のどの辺りか…。これが分配論争です。

 ということは、適切な分配が、「望ましい成長の前提」になるという関係が成り立つわけで、企業にとってはこの分析が最も大事になります。

 付加価値分析は、こういった点で、企業労使(経営者と従業員)が、成長(これによって賃金も上昇する)を目指しつつ 分配の在り方を検討する、という企業経営の核心の検討に役立つのが特徴です。

 繰り返しますが、売上高と利益、時価総額では、こうした分析はできません。付加価値分析の結果が、企業の成長の可能性を示し、その実現が売上高や利益、時価総額の向上につながっていくというのが順序でしょう。
 ということで、やはり 付加価値に注目しましょう。

新年早々株価暴落の行方

2016年01月08日 10時58分08秒 | 経済
新年早々株価暴落の行方
 実体経済をテーマにしているこのブログでは、株式市況に言及するようなことは憚るところですが、新年の動きがあまりにすごいので、ついつい書くことにしました。

 新年の東京市場は昨日まで4日連続の大幅下げで始まりました。世界の株価の動きを見ていて、多分今日も下げると思っていましたら、昼前からプラスに転じてきたようです。
 いずれにしても国際投機筋がリードしてることなのでしょうから、また週明けにどうなるかの予想もつきません。

 世界の最大の関心は、中国経済でしょう。射幸心の強い中国人の一般投資家中心の上海市場ですから、こんな時期に荒れるのが当然でしょう。危険を予想した中国政府がサーキットブレーカーを準備し、早速使ってみたら、逆効果が大きいと今度はやめてみたようです。政策が市場に振り回されています。中国当局も馴れないことで大変です。

 日本でもかつて昭和40年の戦後最大の不況と言われたとき、政府の肝いりで 対策をすればするほど株価が下がるといったことがありました。中国はどうなるでしょうか。

 テロ問題、イランとサウジの問題、さらには北朝鮮の水爆(?)問題も含めて不安材料ばかり目白押しで、ヨーロッパの市場も下げ一色、アメリカではそれに金融正常化と景気の問題が絡んでさらに不安が言われます。中国に続いてアメリカ経済が弱まれば、これは世界経済に影響すると心配の種は尽きません。

 ところで日本経済はどうでしょうか。円高進行の危惧もありますが、円が買われるということは日本経済が健全だとみられている証拠でもあります。世界最大級の貯蓄を持ち、余力を持ちながらあまり動いていない日本経済ですが、何とかプラス成長を維持していくことには、政府も国民も自信と期待を持っているのではないでしょうか。

 企業収益も特に落ち込む気配はありません。政策に大きな失敗などがなければ、実体経済については当面それほど心配することはなさそうです。短期利益極大を求める投機筋には色々心配も思惑もあるでしょうが、実体経済をきちんと整えていけば、いつかは株式市場はそれについてくるというのが中・長期的な結論でしょう。tnlabo は日本経済の先行きには信頼感を持っています。

 
 

付加価値の定義、マクロとミクロ

2016年01月07日 11時58分19秒 | 経済
付加価値の定義、マクロとミクロ
 3回ほど前に付加価値について書きましたが、その続きです。
 我々は皆、付加価値によって生きています。原始の採集経済でも、採集という労働によって人間生活に利用できる経済的価値が生まれます。

 人間同士。最初は物々交換だったでしょうが、貨幣が生まれて、こうした労働も貨幣価値に置き換えられ、付加価値の額は貨幣によって表されることになったわけです。
 こうして日本国内で年間に生産される価値もGDPとして測られるようになりました。

 経済学によれば、生産と分配と支出は三面等価で、生産した価値が分配されて消費されることになります。
 この中で生活者である我々に最も解り易いのは「分配国民所得」(マクロ)です。生産された価値は、生産に貢献した「生産の3要素(土地、労働、資本)」に分配されます。
  雇用者報酬=労働への分配、通常これば最大で日本では7割程度
  営業余剰=資本への分配で企業利益などの総合計
  財産所得=土地建物などの賃貸料収入
これが付加価値のすべてです。国民経済計算では極めて明快です。
 (注:国民所得は、GDPー原価償却と理解してください。GDP=粗付加価値、国民所得=純付加価値)

 ところが産業、企業レベル(ミクロ)の付加価値になりますと、統計によって、付加価値の定義がかなり違っていきます。
 財務省の「法人企業統計」、経産省の「工業統計表」、中小企業診断協会の「中小企業の財務指標」などなどで、定義はそれぞれです。

 統計の趣旨によって、定義が違うのでしょう。工業統計表では「付加価値は製造業で作られる」という趣旨でしょうか、サービス部門の付加価値は全部工業に入ってしまう定義になっています。
 企業統計では、金融費用はその企業の付加価値に入りますが、実はその金融費用は金融機関の収入になって、そこから金融機関従業員の人件費が払われるわけです。ですから、法人企業統計では金融業は別になっています。「中小企業の財務指標」では、付加価値と言わず「加工高」としています。

 アメリカでも経営が利益中心になって EVA(Economic Value Added、経済的付加価値)などという言葉が、全くの誤解のもとに使われていたりします。

 企業は利益で生きている(利益が出なければ潰れる)のですから利益の重要性はわかりますが、企業が利益を出し潰れないように頑張って「何をするのか」を考えれば、社会を豊かで快適なものにするという企業理念が明確になり、そのためには、企業が創造する価値「付加価値」が最も大切、という企業の存在意義に行き着くのではないでしょうか。

労働災害、不適切工事と雇用形態・教育投資

2016年01月06日 21時44分42秒 | 安全
労働災害、不適切工事と雇用形態・教育投資
 新年早々書きたくないような内容のことを書かねばならないというのはまことに残念です。出来るだけ短くします。
 タンクの洗浄で2人の方がなくなりました。報道の中で気になったのは亡くなったお二人とも「派遣社員」と書かれていたことです。タンクの爆発で有毒ガスを吸い込んだためではないかと書かれていましたが、爆発の原因は温度の上がり過ぎとのことです。

 笹子トンネルの事故もありました。千葉県でトンネルのモルタルの崩落もありました。橋梁の不完全溶接問題も報道されました。いずれも現場担当者・責任者の教育訓練の不徹底と感じていしまいます。

 危険と隣り合わせの作業は、十分に訓練を受けた作業員にしてほしいものですが、亡くなられた派遣社員の方々は、危険な洗浄作業のプロとして十分な知識と技能の訓練を受けておられたのでしょうか。
 本来派遣社員というのは業種が限られ、その道のプロといった方が、その腕を発揮して効率よく的確に作業をこなすという形だったはずです。

 長期のデフレ不況の中で、安易に派遣の範囲が広げられましたが、法律はともかく、企業としては、安全には十分な注意を払うというのが日本企業の伝統、基本的な姿勢だったように感じています。かつては、延べ何千時間、何万時間無事故といった記録を競っていたのが日本企業でした。

 安全には徹底した安全教育が必要で、それにコストをかけても、「安全第一」そして「安全はペイする」と考えていたのが日本企業でした。1964年設立された「中央労働災害防止協会」はその象徴でしょう。

 安全教育を受けた即戦力を派遣で使おうといいうデフレ不況の中での企業の発想から、各企業が自社の従業員に安全教育をしなければ安全は確保されないという考え方に転換が必要な時期に来ているようです

 政府が言っている「企業は利益が多いのだから投資を活発に」の中に安全教育投資が入っているのかどうか知りませんが、日本の作業現場の伝統である「安全第一」「安全教育投資」に、改めて企業に力点を置いてほしいような気がしています。

 

人類は進歩しているのか

2016年01月05日 11時24分16秒 | 国際政治
人類は進歩しているのか
 年賀状の中に、世界は混乱の様相ですが、日本は平穏であってほしいという趣旨のものがありました。 「世界が全体幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(宮沢賢治)の境地ならば、身近の平穏を実現し、世界の平穏を願うということでしょうか。

 しかし地球はますます狭くなり、混乱は世界のいたるところに波及していくのが今日の状況です。

 中国とアメリカは、覇権争いの様相を見せながら、経済的には一層深く結び付いています。
 トルコとロシアの問題では、ロシアの経済制裁発動はトルコが困ることを狙ったものでしょうが、ロシア自身も痛手を受けているようです。
 イランとサウジの断交では、イスラムのいわば兄弟国が共に困難や混乱に直面するでしょう。

 この狭くなった地球上で、人類は何ゆえにこうも争いを続けるのか。繰り返し触れていますが、加害者と被害者の関係、その意識の非対称性、「被害者意識>加害者意識」のせいでしょうか、人間の欲求のしからしめるところでしょうか。

 人間の欲求についての研究、A.マズローの「欲求5段階説」では、人間の欲求は、生理的欲求、安全欲求、といった原始的なものから、社会的欲求といった人間らしいのも、さらに、(他者からの)承認欲求、そして最も高次な自己実現欲求への進んでいくとしています。

 マズローは意識していなかったかもしれませんが、社会的欲求以降の欲求の進化のプロセスが、共存・共生の中で進むか、支配・被支配の中で進むかが、人類の将来を決めることになるような感覚さえ持つのが最近の状況です。

 COP21が端的に示しますように、人類は自然を征服しようとして大失敗をしました。自然から生まれた子である人類は自然と共生しなければなりません。
 そして人類は、自然と共生するのと同じように、人類同士も共存・共生することが当然のこととして要求されているのでしょう。

 1万年以上にわたる縄文時代、日本人は自然と共生し、支配被支配のない(奴隷制のない)社会を進化させていました。世界の各地にもこうした伝統文化は存在するでしょう。

 今人類の「本当の進歩」とは何か、世界中で考えることが、ますます大事のような気がしています。