tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

最低賃金論議の本質

2010年07月29日 17時59分31秒 | 経営
最低賃金論議の本質
 新聞に、今年の最低賃金についての審議会の論議が労使の対立でまとまらないと出ていました。最低賃金についてはこのブログでも取り上げた ことがあります。
 厚生労働省は、最低賃金をできるだけ引き上げていきたい意向のようで、現在600円台(1時間当たり)の水準の低い県の最低賃金も800円以上に引き上げたいと考えているようです。

 最低賃金の引き上げには2つの意味があるように思います。
・ 1つは、経済の成長発展に従って最低賃金も引き上げられるべきであること
・ 2つは、賃金格差の是正のために最低賃金を引き上げるべきであること
 多分この2つが主な理由でしょうが、この所、日本経済は停滞あるいは縮小で、平均賃金水準も下がり気味ですから、1番目のほうの引き上げ理由は無いことになります。

 ということで、現在、厚生労働省が主張している最低賃金の引き上げは、もっぱら賃金格差是正のためということになります。
 確かにこの所格差社会が言われ、もともと格差社会を嫌う日本人のメンタリティーからいえば、賃金格差是正には賛成という気持ちの人も多いと思います。

 しかし残念ながら、経済問題は気持ちや感情ではアプローチできません。きちんとした戦略や方法論が必要です。
 格差是正のために最低賃金を引き上げるのならば、下を引き上げた分だけ上を引き下げなければなりません。そうしないと単なる人件費の膨張になってしまいます。
 
 前回も書きましたように、ドルで見れば、この3年で日本の最低賃金は3割以上上がっています。円高で上がったのですから、製品やサービスの価格も同じように上がっているので、一見何とかなるように思われますが、そこに落とし穴があります。

 多分、円高で3割以上上がった日本の物価は、(円安にならない限り)何年かかけて、国際水準に向けて下がります。牛丼だけではありません、日本経済は当分デフレになるという事です。デフレの中では税収も増えませんが、賃金原資も増えません。改めて賃下げの時代です。

 日本経済の払える人件費総額(国民経済計算で言う雇用者報酬)には限度があります。基本的には企業内の賃金配分と同じで、格差是正のために最低賃金を引き上げるなら、その原資がいくらかかり、その分は正規社員の賃金からいくら、経営者の賃金からいくら、それぞれ削って捻出するのか、きちんと計算しないと厚労省の方針は「杜撰」のそしりを免れないでしょう。

 企業間格差そのものが拡大 する中で、現に中小企業では、背に腹は変えられず、そうした努力をやっています。


中国の所得倍増計画を読む: 4、為替レートと国際経済秩序

2010年07月26日 12時39分07秒 | 国際経済
 前々回指摘しました様に、日本の所得倍増計画でも、多少のホームメイドインフレの進行はありましたが、日本経済に、問題を発生させたのはホームメイドインフレよりも「外的要因」でした。
 具体的にいえば、ニクソンショックによる固定相場制の崩壊、オイルショックによるエネルギー問題の発生、そして最後に致命的な打撃を与えたのはプラザ合意による極端な円高 でした。

 中国は日本のプラザ合意後の「失われた10年、20年」という失敗に十分に学んでいると思います。そう明言する中国の方にも何人かお会いしました。人民元の大幅な切り上げをやって、それを持ちこたえるだけの力は今の中国にはない、とはっきり言う中国の方も居られます。

 すでに書いてきていますように自国通貨の切り上げは、「自国の国内コストの同率の上昇」を意味します。つまり国際為替市場に円レートを(円高を)任せるという事は、「国内コストの水準の決定を(コスト上昇を)国際為替市場に任せる」という事なのです。

 戦後の各国経済の歴史が示すように、経済成長を阻害する主要な要因は基本的には「 ホームメイドインフレだ」と書いてきました。それを避けるために、労使交渉があり、所得政策があり、その環境整備のために財政政策や金融政策が行われるのでしょう。

 こうしたホームメイドインフレ回避のための(経済の安定発展のための)政府や労使の努力は、為替レートの切り上げによって、全く意味を持たなくなります。

 日本はプラザ合意で円を2倍($1=¥240から¥120)に切り上げられ、その結果 「日本の労働者の賃金はドルベースで2倍になって、日本の賃金水準は世界一」 になりました。しかし同時に物価も2倍になったわけで、高くなった物価を国際水準まで下げるために、20年近くデフレ を経験したわけです。

 そして今回、さらに2007年以降、円は$1=¥120から80円台半ばへ、30パーセント以上の切り上げです。春闘賃上げ率はゼロでも、日本の労働者の賃金は、国際的にはパートや派遣も(最低賃金も)含めて、この3年で、3割以上も上がっているのです。

 多分、円建ての賃金はますます上がらなくなり、製品価格も下げざるを得ないでしょう。更なるデフレです。税収は伸びず、財政再建も進まず、それでも国民は消費税アップも仕方ないと諦め、我慢するのでしょう。日本はどこまで円高デフレを耐え忍ばなければならないのでしょうか。

 国際投機資本の思惑や、強国の圧力で為替レートが決まり、真面目な経済運営が影響を受けるのが今日の現実なのです。国際経済はこのままでいいのでしょうか。


中国の所得倍増計画を読む: 3、人民元切り上げ回避策

2010年07月23日 11時08分24秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 3、人民元切り上げ回避策
 報道されていますように、中国の所得倍増計画は、「賃金の年15パーセントの上昇、5年で賃金2倍に」というのが計画の大きな柱になっています。
 何故日本のように、経済成長が第一でなくて、賃金引き上げが、特別な目標として掲げられているのでしょうか。

 賃金コストのかなり大幅な上昇が前面に打ち出されているというところから、素直に感じてしまうのは、中国はある程度のインフレ経済を考えているのだろうという事で、何故、無理してまでインフレ経済化を世界に喧伝するのかという事から、考えられるのは当然「人民元切り上げ圧力への対抗策」です。

 今中国は、アメリカやEUから、「中国は国際競争力が強すぎる、人民元が過小評価されているためだ、だから、人民元は切り上げられるべきである」という圧力にさらされています。
 丁度、1980年代前半、日本が「ジャパンアズナンバーワン」といわれ、プラザ合意で円切り上げを押し付けられたのと同じ状態です。

 中国は日本の違い、「切り上げるなら自分の意思でやる、他国から言われてやるものではない」というスタンスのようですが、すでに日本のプラザ合意という経済運営上の大失敗の経験をまさに「他山の石」として十分学んでいる中国です、その知識は確り生きていると思われます。

 ということであれば、経済的に同じ方向の効果を持つ「人民元切り上げ」と「賃金水準の上昇によるホームメイドインフレの許容」の2つを天秤にかけ、明らかに「ホームメイドインフレを選択したほうがメリットが大きい」と判断しているのではないでしょうか。

 為替レートを切り上げれば、その後に待っているのはデフレ経済です。デフレ経済ほど経済の成長発展に打撃を与えるものはありません。「 デフレ3悪」で経済は動かなくなります。

 一方、インフレは、やり方によってはコントロールが可能です。最も恐ろしいインフレはホームメイドインフレ(賃金と物価のスパイラル)ですが、これは国民(労使)の良識でコントロール可能なことは、第2次オイルショック後の日本経済が実証 して見せています。

 もちろん中国でも賃上げによる生産コストの上昇は起こるでしょう。しかしインフレによるコストの上昇は、人民元切り上げ要求の圧力を弱めるはずです。
 インフレと人民元切り上げのトレードオフ、これからどうなるか・・・・・。中国の知恵と政治的力量が問われているというところでしょうか。


中国の所得倍増計画を読む: 2、経済のレベルアップ

2010年07月21日 10時00分05秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 2、経済のレベルアップ
 先ず、オーソドックスに考えて見ましょう。まだまだ高度経済成長が続く環境の中で、あえて、生産性以上の賃上げをすることを宣言するという事は、おそらく、賃金コストアップ以上のメリットが中国経済全体について考えられるからでしょう。

 中国が今、抱えている問題の中で、具体的に手を打たなければならないと言われる問題はいくつかありますが、例えば、所得格差の縮小、世界の工場から世界の市場への漸進的移行、量的拡大から質の向上、それらによる新たなる経済発展の可能性の開拓、目標の周知による国民の共通意識の醸成、結果的に巨大な中国経済社会の安定的発展、などなどでしょうか。
 
 そのためには、先ず、中国は経済成長の手を緩めずに、その成果をできるだけ広く均霑していかなければならないでしょう。

 日本の所得倍増計画の時期、日本はかなりのスピードでインフレの加速を見ました。しかし実質9パーセント前後の経済成長の中で、失業率は1パーセント台を続け、先進国経済に追いつけ追い越せという国民意識の高揚も相俟って、これは,日本経済の成長にとっての決定的な障害というほどのものにはなりませんでした。
 問題を起こしたのは、ニクソンショックによる固定相場制の崩壊、そしてオイルショックなど、その後の外的要因でした。

 当時は、低失業率に加え、公共事業の推進、米価審議会や生産費所得保障方式による米価決定などによって、全国各地、農村部への経済成長の成果の均霑も進んだように思います。これらは後に問題発生につながりますが、当時は成功した政策でしょう。

 近年、最低賃金の大幅引き上げなども試みた中国ですが、国民に安定した生活向上のビジョンは与えられなかったようです。
 今回は、5年で賃金倍増計画という労働者の所得向上を柱にして、未だ明確ではありませんが、何らかの格差是正政策も含め、中国経済社会の安定的発展への広汎な国民意識の醸成を狙っているように思えるところです。

 そしてもうひとつ、中国は、さらなる大きな対外政策目標を、賃金倍増計画で狙っているのではないでしょうか。


アメリカの金融規制法案

2010年07月17日 21時07分08秒 | 国際経済
アメリカの金融規制法案
 中国の所得倍増計画に挟まってしまいますが、アメリカで金融規制改革法案(ドッド・フランク法と名づけられるようです)がオバマ大統領の署名で成立する見込みという事になったので、取り上げます。
 金融規制は、このブログの最大の関心事項の1つですから。

 ボルカールールを下敷きにして、 ロンドンG20でも論議された金融規制の問題が、アメリカで法律という形で具体的に動き出したことは、アメリカが本気であれば、特筆に値するように思います。

 GDPを生み出し社会に貢献する企業の役に立つために生まれたはずの金融機関が、自分が キャピタルゲイン(あぶく銭)を稼ぐための機関に成り下がり、儲かれば山分け、損すれば公的資金で救済といった、誰が考えてもおかしなことが現実に起こってしまいました。こうした異常な状態の発生を未然に防止するために、ロンドンG20で論議された、問題点をアメリカが率先して具体化したことになります。
 
 自己勘定取引の規制、プライベートエクイティーやヘッジファンドに対する融資の制限、デリバティブの透明性の推進、レバレッジの制限や格付け会社への規制などなど、世界金融危機の発生を演出した、さまざまな手法に規制をかけるのが目的と見受けられます。

 当然反論は出てきます。キャピタルゲイン「命」と考え、理論を構築したり行動したりする経済学者や金融業者からは総すかんでしょう。
 すでにアメリカだけやってもダメだとか、金融機関が儲からなくなったら経済が立ち行かなくなるとか、時代の流れに逆行するとか、あらゆる反論が聞こえてきます。 

 法案提出の主役の1人ドッド委員長は「われわれの金融システムのある種の防護となる機会をつくったにすぎない」といったそうで、まさに法律は運用次第、国際金融問題は国際協力次第ということでしょうが、ドッド委員長の発言は、アメリカの良心を示しているように思われます。

 さてこれから資本主義経済が生んだ鬼子「マネー資本主義」はどうなっていくのでしょうか。実体経済中心の資本主義に回帰していければ理想的と思うのですが。


中国の所得倍増計画を読む: 1、計画は多目的?

2010年07月16日 10時11分32秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 1、計画は多目的?
 中国が2011年からの5年間の所得倍増計画を検討していると報道されています。日本向けの情報提供記事でも、昭和34年に池田内閣が打ち出した所得倍増計画を参考にしているなどとも書かれています。しかし本当に目指すところはもう少し奥深いような気がしています。

 先ず、日本の所得倍増計画は、国民所得の倍増計画でした。当時、労働組合(左翼系でなくても)などでは、「これは国民所得を2倍にする計画で、賃金を二倍にするとはいっていない。賃金を2倍にするにはわれわれ労働組合の努力が必要だ」といった論議がされていました。

 しかし、今回の中国の計画を見ると、賃金を年に15パーセントずつ引き上げ、5年で2倍にするというのが大きな柱になっているようです。

 「所得」の意味が違うのでしょうか、それとも、本来、賃金上昇が主目的で、国民所得自体は当然従来どおり10パーセント前後の高水準を維持すると前提しているのでしょうか。
 それにしても、(実質)経済成長を15パーセントにしようと考えているとは思われませんから、所得倍増は名目値の話で、中国版は「名目所得倍増計画」なのでしょう。
 だから日本の10年倍増計画を、中国では5年倍増としているのでしょう。

 中国の所得倍増計画は、このように、名目値での倍増ですから、当然インフレ分を含みます。実質成長率を10パーセントと置けば、賃金上昇は15パーセントですから、近似的には、インフレ率は年5パーセントという事になります。

 多分、中国は、今後多少のインフレを考えているのはないでしょうか。日本の高度成長期もそうでしたが、多少のインフレの方が実質経済成長も高くなる可能性があります。(おそらく、こうした経験が、「成長を取り戻すにはインフレターゲット」といった教条主義的主張になるのでしょう)

 ところで、この中国版「名目所得倍増計画」によって、中国は何を狙っているのでしょうか。おそらく、一石何鳥というような「多目的」なものを考えているように思われてなりません。
 
 単純に日本の高度成長期のような成長を目指しているのだろうといった論調が多いようですが、もう少し、戦略的に仔細に考えてみる必要があるような気がします。

 中国は、日本の成功も失敗もつぶさに研究しているようですし、シンガポールの成功からも十分学んでいるはずです。
 かつて日本は文字、文化、宗教、政治などなど中国から多くのことを学びました。今、新しい国際経済社会の中でも、中国から学ぶことが沢山あるような気がします。


参院選と日本経済、市場の反応

2010年07月12日 16時42分27秒 | 経済

 参院選の開票が終わって、民主党は意外に(予想通り)票が伸びず。衆院と参院のねじれ現象が生じることになりました。
 ちょっと余計なことをいえば、二大政党を目指した日本ですが、神と悪魔の二元論でなく、八百万の神を持つ日本は、どうも2大政党システムには馴染まないようですね。

 でも日本人は、もともとが生真面目ですから(政治家もそうでしょうから)ねじれても、それぞれに良識を発揮して、是は是、非は非で、それぞれの政策ごとに真剣な議論を戦わせて、国民の期待に応えるよう努力していただけるのだろうと思っています(そう言っている党首もいます)。

 ところで、本ブログの主要テーマである、経営・経済については、すでに、選挙の結果を見た内外の金融機関や証券会社などなどからいろいろなコメントが出され、ネット上などで見ることが出来ます。
 
 しかしそうしたものを見てみても、あまりに論評がばらばらで、どれが正しいのかどれが当たっているのか、いないのか、論評の筋そのものが解らないものも含めて、何の判断材料にもなりそうにありません。

 矢張りそれだけ今の日本の経済情勢は、為替市場や証券市場の動きもふくめて、大変わかりにくくなっているという事なのでしょうか。

 現実の市場の動きを見ても、 為替は円安に振れてみたりまた戻してみたり、株価のほうはまさに「気迷い症状」で、1日のうちに上げてみたり下げてみたりの繰り返し、まさに、行きつ戻りつといったところです。
 市場に参加している主要なプレーヤーですら、実際にはどう判断したら良いのか皆目解らないでいるという事が見え見えのような動きです。

 いつも国際マネーマーケットに振り回されている日本ですが、今のマネーマーケットは、日本の政治経済の先行き読めないで、立往生か右往左往かということでしょう。
 この際、日本の政権担当者は、「日本はきちんとできるのだよ」という事を確り見せてやったらどうでしょうか。


消費税論争の中で

2010年07月08日 14時56分14秒 | 経済
消費税論争の中で
 参議院選挙が間近に迫っています。焦点は消費税の税率アップという事になっているようですが、二大政党は、結局は同じ10パーセントへのアップをいっているようで、他の政党も、いずれも「いつかはあげなければならない」という点では似たようなもののようです。

 引き上げは必要ないといっているところもありますが、政権与党になっても同じことが言えるのか疑問ですし、第一、現実的に、どのようにして消費税増税なしで日本経済、日本財政を健全・正常にするのか、「具体策」のない論議のようです。

 国民自体も、大方は「いつかは」消費税増税やむなし、と考えているようですから、消費税が本格的な論争点には、多分本当は、なっていないのでしょう。

 消費税増税で一番変わるのは、政府が予算を立てやすくなるという事でしょう。結果的には、国債で借りる分を、消費税で取り立てて、借金を税金収入に置き換えるだけのことです。当世流行の言葉でいえば、「借金・税金スワップ」でしょうか。

 それが今日の日本の経済社会の活性化につながるのかというと、活性化の条件 は、国内需要が増えることですから、例えていえば、消費税を上げても消費需要は減らず、税収の増えた分は政府がどんどん使って、内需拡大が促進されるといいう場合だけです。
 消費税増税の分、家計が消費を切り詰めたり、政府が税収増で国債発行を減らしたりしては効果は激減、あるいはマイナスでしょう。

 副次効果として、日本の財政が健全化したということで、円の信頼が増し、円高が進むかもしれません。これは日本には最悪のシナリオ です。

 選挙の街頭演説が忙しい中で、じりじりと円高が進んでいます。「90円台の半ばぐらいが居心地がいい」との菅発言は、すでに国際投機資本には忘れられ(本人はどうでしょうか)、今日はアメリカの株高で88円台に戻しましたが、状況によっては$1=¥85の声も聞かれそうです。10パーセントの円高は、国際的に見れば、日本のあらゆる国内コストの一律10パーセント上昇を意味します。

 為替動向に留意しない国が、経済運営に成功することは至難な世の中になってきています。「日本の製品は品質もサービスも素晴らしい、しかしちょっと価格が高すぎて・・・」という状態が改善されない限り、日本経済の復活は難しいでしょう。
 ところで、ユーロ安の恩恵でしょうか、最近ドイツ車は元気ですね。


作られる金融危機

2010年07月03日 11時10分09秒 | 経済
作られる金融危機
 昨年3月「資本主義改造計画 」を、また昨年4月には「 資本主義改造の方向」を書きました。アジア経済危機からアメリカのサブプライム問題、その後遺症のリーマンショック、そして今回はギリシャ危機とユーロ問題、資本主義は、いよいよ悪質な病気にかかってしまったようです。

 この病気は、早く、根本的に治療しないと、資本主義自体を死に至らしめるもののように思われます。
 20世紀末、70年以上に亘る歴史的実験の結果、共産主義経済が崩壊し、世界中が資本主義・自由経済に塗り替えられたと、資本主義が共産主義に勝利宣言をしたばかりですが、今の状況では「矢張り資本主義も人間を幸せにするものではない」と否定される事になりかねません。その後には再び規制、統制、全体主義の悪夢が来るのでしょうか。

 何故こんな事になってしまったのでしょうか。
 多くの方が気付いておられるように、それは資本主義の生んだ鬼子 である「マネー資本主義」が実体経済を蹂躙しつつあるからです。

 地球市民の大部分は、実体経済の成長によって、その生活水準を向上させることが出来、そのゆえに、経済成長こそが経済運営の基本だと考えています。これは、真面目に働いて、着実に経済を成長させ、安定的に生活水準を向上させていくという世界です。

 これに対して、資本主義の鬼子であるマネー資本主義は、経済現象が安定的に推移していたのではビジネスチャンスはありません。物価でも、証券・債券の価値でも金利でも、乱高下してくれるのがチャンスです。

 そしてそうした国際投機資本が今、巨大に積みあがっています。しかもあらゆる手段で レバレッジを効かせる手法が用意され(極め付けはハダカ空売りか?)、相場の乱高下を積極的に演出するようになっています。

 それでも、何かきっかけがないといけないので、きっかけ作りにも積極的です。財政不如意の国があれば、「何とかしましょう」と甘い言葉をかけ、借金の深みに追い込むようなことを有名な投資銀行ですらやるわけです。
 これでは、多重債務者に甘い声をかけて、最後は身ぐるみ剥ぐ、悪徳金融業者と同じに思われても仕方ないでしょう。

 世の中には健全な経済生活をしている人ばかりではありません。サラ金の誘惑に負け、今日の楽しみを求める人もいます。国でもそうです、緊縮財政や増税は国民には不評です。ついつい赤字財政に頼り、金を借りてしまします。そういう国(たとえばPIIGSなど)は、国際金融資本の標的になる可能性が大きいというのが現状でしょう。

 個人でも国でも、稼ぎの中で健全な生活をするか、借金でもっと良い暮らしをするかは、基本的は、その人間、その国の政権担当者(国民が選んでいるのです)の心が強いか弱いかによって決まります。 さいわい日本は、国民がチョー真面目なために救われているようです。

 G20では、何もはっきり決まりませんでしたが、巨大な国際金融資本の「甘いささやき」と「冷酷な破綻への追い込み」の繰り返しによる世界経済の混乱を防止する方法、各国の徹底した経済運営の健全化(財政と経常収支)and/or金融規制についての、早期の国際合意がないと、次の金融危機が仕掛けられる可能性は大きいのではないでしょうか。