幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第二十九回
次の朝、滑川(なめかわ)教授はマヨネーズ一本を片手に持ち、佃(つくだ)教授の研究所を訪れた。もちろん、研究所が四六時中、開いてないことは滑川教授もよく知っている。過去に何度も二人はお互いを訪問したりされたりする間柄だったから、九時を回れば、土日以外は門が開いていることを滑川教授は、よく知っていた。
「どうされたんです?! 教授!」
片手にマヨネーズを一本を握りしめ、何かに憑(つ)かれたような眼差(まなざ)しの滑川教授を見て、佃教授は唐突に訊(たず)ねていた。
「いえね、上山、知っとるでしょ? 教授も」
「えっ? ああ、はい…。二度ばかり尋(たず)ねて来られた方ですね? そうそう、先生がご紹介されたんじゃ?」
「はい、そうです。私が紹介した田丸工業の者です」
「その方が何か?」
「実はですな。上山が見えると云っておる幽霊の一件ですが、教授もご存知ですな?」
「ああ、あのことですか。はい…、そう云っておられたと記憶しておりますが…。それが?」
「その上山に幽霊が見える原因究明を頼まれましてな、骨を折ることになりました。それで、分析をしておったのですが…」
「はい…。私も頼まれまして、ゴーステンの配合率」を弄(いじく)って、少し体調を崩しました」
「それは、いけませんな。原因は、やはりゴーステンですかな?」
「いえ、それは、まだなんとも分からないんですが…。先生の方は?」
「それそれ…。ゴーステンという名も知らなかった私ですが、上山に一部始終を聞かされ、分析しておったのです」
「ゴーステンがよくありましたね?」
「いや、ゴーステンではなく、原料にされている舞台寺(ぶだいじ)とかの土骨粉です」
「ああ…、私が使わせてもらってる照明山(しょうみょうざん)舞台寺の土骨粉ですか?」