水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第四十五回)

2011年10月19日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第四十五回
『なんです、課長! 僕だって出たくて出た訳じゃないんですぅ~! 今、何かされたでしょ?』
「…んっ? ああ、マイクを離したときに、回したかも知れんな」
『それですよ、それ!』
 勝ち誇ったように、幽霊平林は上山のミスを強調した。結婚さえしていれば、こんなこともないのだろうが…と、上山には瞬間、思えた。
「まあとにかく、ここは拙(まず)い。場所を変えて現れてくれ! 私はもう行くからな。皆さんを待たせちゃな。トイレぐらいに思っておられるだろうから…」
『すみません! そうして下さい。…って、僕のせいじゃないんですけど!』
 幽霊平林は、また少し怒れたが、遠慮しようと霊界へ戻った。戻ると、同時に住処(すみか)を光輪が射して覆った。そしてたちまち、霊界番人の声がした。
『おお、待っておったぞよ。そなたの妻、和枝の御霊(みたま)は見つかったが、今日はそのような小さきことで現れたのではない。霊界を支配される霊界司様のお言葉を伝えるためじゃ。その方(ほう)、ただ今より俗界の悪を懲(こ)らしめよ! とのお達しじゃ。それは、そなたの身が御霊に変わるまでの務めとする、とのことぞ。よ~く、心するように…』
 光輪は、光をいっそう強くして、幽霊平林の住処へ降り注いだ。
『はは~~っ!!』
 幽霊平林は身の引き締まる思いがした。自分が俄かに正義の味方のヒーローになった錯覚も駆け巡った。もう、妻の和枝のことは、すっかり忘れ去っていた。
『この筆を、そなたに遣(つか)わす。汝(なんじ)が悪に立ち向かい、万が一、敗れたり不利になったりしたときに、ひと振りするがよかろう。さすれば、たちまちにして悪事は退散、あるいは滅するであろう』
 その言葉とともに、光り輝く一本の筆が空中を移動して幽霊平林の胸元の襟(えり)へ、スッ! と入った。


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