水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第三十四回)

2011年10月08日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
    
第三十四回

 滑川(なめかわ)教授はその足で、すぐ宅急便会社へ行った。
「あのう…、これ一本ですか?」
 宅急便会社の窓口で、女性係員は、どこにでもあるマヨネーズ一本を見て、怪訝(けげん)な表情でそう云った。
「おお、そうだが、何か不足か?!」
 女性係員は教授に威圧され、激しく首を横に振った。
「そうだろう…。ならばいい。ああ、便箋か何かの紙を一枚、もらえんかのう」
「…? い、いいですよ」
 女性係員は便箋ではないものの白紙のA4用紙を一枚、教授へ手渡した。そして、細かい必要事項を馴れた事務口調でスラスラと云った。滑川教授は云われたとおり依頼書へ書き込むと、料金を支払った。さらに、白紙のA4用紙にも上山へのメッセージを走り書き、女性係員へ手渡した。
「これで、いいですか?」
 小箱にマヨネーズと用紙を収納し、女性係員は了解を求めた。
「おお、結構結構!」
 滑川教授は白衣のポケットに両手を突っ込んで、満足そうにそう云った。
「じゃあ、指定日時までに配達します」
「ああ、頼みおく」
 料金を支払い、古めかしい言葉で教授はそう云うと、外へ出ようと引き戸を開けた。その瞬間、後ろから、「変な客…」と呟(つぶや)く声が教授の耳に飛び込んだ。
「んっ? 何か云ったかな?」
 滑川教授は振り向きざま、ギロッ! と女性を睨(にら)むと、そう云った。
「えっ? いえ、別に…」
 女性係員は取り繕った笑顔で、慌(あわ)てて弁解した。


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