水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十二回)

2011年10月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第五十二回
 帰途、上山は今後の先々に期待が膨らむ半面、少なからぬ不安感にも襲われていた。幽霊平林が期待どおり消えてくれれば、何もなかった元の生活に戻れる期待感はある。
しかし、消えなかった場合、ずっとこれからも幽霊平林の姿を見続けることになるのだ。そればかりか、彼と人間社会の大悪を成敗するというその手助けをせねばならなくなるのだ。だから、この不安感も半ばあった。中位相処理されたマヨネーズは間違いなく数日後には彼の手元へ宅急便で届くだろう。問題は、それからなのだ。
 上山の予想どおり、中位相処理されたマヨネーズが届いたのは、それから三日後だった。宅急便の小箱内には、佃(つくだ)教授の走り書きが添えられていた。
━ 出来ましたので、お届けさせて戴きました。取り分けて他のマヨネーズと成分が変わったとか、そういうことは前回同様、一切ございませんので安心なさって下さいませ。何ぞありましたら私、佃まで一報下さいますように 霊動学研究所 佃公介 ━
 丁重な書面は佃教授の性格を物語る。上山は、さっそくそのマヨネーズを試してみることにした。処方箋はまったくない。しかし、幽霊平林は滑川(なめかわ)教授に云われたのと同じように、一日三回、朝昼晩と試してみることにした。そして、その日の夜、いよいよ口にする寸前に、滑川教授にもこのことを一応、伝えておこうと、上山は電話をした。
「君かっ! どうしたんだね、こんな時刻に?」
「実は教授、平林の効果が絶大なんで、私もやってみようということになったんですよ」
「おお、そうか…。連絡が途絶えとったから、気にはなっておったんだ…」
 滑川教授は幾分、声を大きくして、そう云った。
「それで、一応は教授にお話だけでもと思いまして…」
「そうか。それで、この時刻か…、なるほど。私は構わんのだが…。だがもう、そろそろ閉めようと思っておったところだからよかった…」
「いや、こちらこそよかったですよ、おられて。まあ、そんなことです…」


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