幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第四十三回
光の輪の声は途絶え、消え去ろうとした。
『あっ! 待って下さいまし、霊界番人様!』
『なんじゃ!』
幽霊平林の声に、光の輪は、ふたたび光を強めた。
『あのう…、こちらにおります亡くなった妻、和枝に会いたいのですが、それは叶いましょうか?』
『おお、そのようなことか。それは容易(たやす)きことなれど、御霊(みたま)で漂うそなたの妻を探すには、ちと、時を要するのじゃ。その理由は、云わずと知れた霊魂の多さよ』
『いえ、会えればそれでよろしゅうございます。時がかかろうとも、お待ち申し上げますので、よろしく』
『あい分かった。調べてみるとしよう。ただし、その御霊が、そなたに会いたくないと、と申せば、この話はなかったことにするぞよ』
『はい、結構でございます。なにぶん、よろしゅう!』
『おお…。それにしても、骨の折れる奴だわい』
『あの、なにか?』
『なにもない! もうよい!!』
霊界番人の声は怒ったように途絶え、光輪も俄かに消え失せた。幽霊平林はスゥ~っと住処(すみか)の内へ移動して、マヨネーズをなにげなく一口、ペロリと舐(な)めた。住処の外の周りでは御霊が飛び交うものの、それはただの走馬燈のようにしか幽霊平林には映らなかった。そして、自分と上山の謎は? と、ふと考えれば、この疑問に関しては少しも進捗(しんちょく)がないように思えた。自分としては止まれるようになったからいいが、まだ上山の姿は白っぽく薄れて見えている。一方の上山はどうなのだろう…。そうだ! 課長にも、このマヨネーズを口にしてもらわないと…と幽霊平林は刹那、思えた。ひょっとすれば、課長の目から自分の姿が消え、正常に戻るかも知れないのだ。それは上山との別れを意味するが、ともかく試してもらおう…と幽霊平林は思うのだった。