水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第三十六回)

2011年10月10日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
    
第三十六回

『おお、これは…。僕が手に出来た、ということ自体、成功ですよね』
 幽霊平林は陰気にニヤリと笑った。
「君な…、そう喜ぶもんじゃない。問題は、これを食後に一日三回…、君の場合は食後の部分を除外してだが、…とにかく口にして、果して止まれるか、だろうが?」
『ええ、そうでした。すみません』
「別に謝るこっちゃないがな。一週間から十日、これを口にして、様子を報告してくれ、と滑川(なめかわ)教授の伝言メモが入っていた」
 幽霊平林は素直に上山の言葉を受け入れて聞いた。
「君は、すぐ謝るな。別に謝るこっちゃないさ。ただ私は、教授に頼まれたことを云ってるだけだ。ほら、これにそう書いてあるだろ」
 上山は滑川教授がメッセージで走り書いた紙を幽霊平林に見せた。
『ああ…確かに。で、僕は、どうすりゃいいんですか?』
「そうだな。いちいち君を呼び出して訊(たず)ねる、というのも面倒くさい。よし! 十日の間は手首をグルリと回さなくても君の方から現れてくれ。そうだな…、会社へ来る前がいいだろう。七時半ということにしよう。それで、どうだ?」
『はい! 分かりました。じゃあ、そういうことで…。七時半に現れて、前の日に変ったことがあれば報告します。…あればって、なきゃ僕が止まれないままだから困るんですよね…』
「大丈夫、大丈夫。きっと上手くいくさ。自信を持っていこうじゃないか、平林君!」
「はい!」
 二人はそう云って、気を引き締めた。
「それじゃ、すぐ帰ってやってくれ。…帰ってというのも妙だな。戻って…、これもおかしい。まあ、とにかく、あっちへ行ってやってくれ。…やはり、あっちとこっちがいいなあ」
『はあ? なにを云ってられるんです?』


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