幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第五十四回
霊界に戻った幽霊平林は、霊界番人と話をしていた。幽霊平林からは霊界番人を呼び出せない以上、上手い具合に霊界番人が現れてくれたことは、彼にとって千載一遇のチャンスといえた。
『あのう…、番人様は、この前、人間界の社会悪を滅せよ、とか仰せになり、この如意筆(にょいふで)お授けなさいましたが、その社会悪とは詳しく申せば、どのようなことなのでしょう?』
『おお…、そうよの。少し言葉足らずだったと案じてはおったのだが、やはり、そのことか。社会悪とは大悪である。一般人の、いわゆる普通に社会生活を営む者どもには関係がない』
『そう云われますと?』
『のさばった悪の退治よ。悪がのさばり、人の正義が潰(つい)えれば、世は暗黒の時代へと突き進むであろう。よって、何が何でも、そうした事態を、そなたがもう一人の男と叩き潰(つぶ)すのだ!』
『そう云って戴きますと、得心出来ます』
幽霊平林はプカリプカリと漂いながら、光の輪へ向って静かにそう云った。
『そうか…。では、な』
『お待ち下さいまし。それで具体的には、どういったことでしょう。例えば、どのような?』
『そうよのう…。我は霊界司様の番人に過ぎぬゆえにどうのこうの申せぬが、例えばじゃが、人の心が荒(すさ)むゆえの犯罪とかのう。ああ、そうそう。如意の筆を示し、言葉を念じればその物が、さらに黙して振れば地球上のものが消えるであろう…』
その言葉が終わるや、光輪はたちまちにして消え失せた。
『あっ! …』
幽霊平林にしてみれば、まだ訊(たず)ねたいことはあったのだ。それは、霊界番人との出会い方である。未だに一方的で、幽霊平林は、ただただ光輪が降り注ぐのを待たねばならなかったから、思うに任せられなかったのである。