この核家族化のご時世に、山奥の一軒家に、なんと137人で暮らす中松家という大家族がいた。これはもう、完璧なギネスもので、世界各国から好奇心半分の観光客が押し寄せていた。竹田城跡の比ではなかった。こうなれば、家族生活どころの話ではなくなった。なんといっても、広い敷地に137人が暮らしているのだ。そうはいっても、山奥である。家の周囲の田畑を子供が生まれるたびに増築し、継ぎ足し継ぎ足しでなんとも不格好な家の構造になっていた。家の入口から一番、奥まで普通に歩いても10分以上かかるのだった。
「え~~こちらに見えますのが、世界的に評判になっております中松家でございます。敷地面積が実に…」
中年男の観光ガイドは隣で通訳する女性補助ガイドに小声で、「おい! なん㎡(ヘーベ)だった!」と呟(つぶや)くように早口で訊(たず)ねた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
若い新入補助ガイドは手持ちのマニュアルを慌(あわ)てて捲(めく)り始めた。
「もう、いい!! …え~~、ははは…広い家ですよね」
大半が外人だから分からないだろう…と誤魔化しを決め、中年男ガイドは笑って暈(ぼか)した。そのとき、家から軍勢のように一斉(いっせい)に子供や大人が飛び出してきた。中松家の一日が始まったのである。観光客は慌(あわ)てて左右に分かれ、軍勢の通路を開けた。中松家の人々は手を振りながらスターよろしく、登校やら出勤やらジョギングやら農作業やらに散らばっていった。空ではパタパタパタ…という喧(やかま)しい音を立てながら放送局のヘリが旋回している。
「見えるでしょうか! 皆さんが動かれ出ていかれます。え~~、こちら現場、中松家の上空から、白坂がお伝えいたしました!」
ヘリの中では手持ちのVTR機材を手に眼下の中松家を映すカメラマンとリボーターがマイクロホン片手に叫んでいた。
今日も中松家のスケジュールは、ぎっしりと多彩で、長老は政府主催の来賓として、皇室列席のもと、国際的な夕食会に招待されていた。
完