話には、どうしても尾鰭(おひれ)がつく。少し大きく話したいのが人の性分(しょうぶん)なのか、自分の話を他人に注目させて聞かせたい・・という願望なのか、その辺りのところは微妙だが、とにかく人は話す内容を飾り立てる傾向が強い。
小学校の父兄参観が終わり、二人の母親、沙代と美登里が語らいながら帰り道を歩いていた。
「多田さんの奥様、最近、なんかよそよそしいわね」
沙代が美登里に愚痴をこぼした。
「そらそうよ。旦那さん、会社で出世なさったそうよ。だから…」
少し得意げに、美登里が沙代に返した。
「あらぁ~~、そうなの。誰からの情報?」
「蕪野(かぶの)さんの奥様」
「あの情報屋の蕪野さんの情報なら間違いないわね。道理で、よそよそしいはずだわ」
「なんでも、部長から執行役員だって…」
また得意げに美登里が話す。
「執行役員ってなに?」
「平たく言えば取締役なんじゃないの」
「ふ~~ん、取締役か。偉いんだ…。うちなんか、ようやく課長補佐よ」
「私んちだって課長だから、大したことないわよ」
いつの間にか二人はお互いを慰め合っていた。
「偉いのよねぇ~!」「偉いのよねぇ~!」
沙代と美登里は憤懣(ふんまん)やる方ない言い方で、声を大きくした。
その二日後、沙代と奈美江がスーパーの帰りなのか、買物袋を提(さ)げて歩いていた。
「多田さんの奥様、最近、なんかよそよそしいと思わない」
奈美江が沙代に愚痴をこぼした。
「旦那さん、会社で出世なさったそうよ。だから…」
少し得意げに、沙代が奈美江に返した。
「あらぁ~~、そうなの。誰からの情報?」
「美登里さん」
「ふ~~ん。道理で、よそよそしいはずだわ」
「なんでも、部長から執行役員だって…」
また得意げに沙代が話す。
「執行役員って?」
「平たく言えば社長の下なんじゃないの」
「ふ~~ん、社長の下か。副社長よね。偉いんだ…。うちなんか、ようやく課長代理よ」
「私んちだって課長補佐だから、大したことないわよ」
いつの間にか二人はお互いを慰め合っていた。
「偉いのよねぇ~!」「偉いのよねぇ~!」
沙代と奈美江は憤懣やる方ない言い方で、声を大きくした。尾鰭(おひれ)がつき、多田はどんどん出世していった。
完