蛸焼(たこやき)は、今の日本は嘆(なげ)かわしい…と、愚痴(ぐち)を吐(は)いた。というのも、家の外の側溝を掃除した数日後に、またポイ捨てゴミを発見したからだった。こんな隠れたワルは国外追放にして、外国の難民にでもなりゃいいんだっ! と、一時は過激に思ったこともあったが、今となってはもう、半(なか)ば諦(あきら)めの境地(きょうち)で、愚痴を漏らすほど気分は痩(や)せ細っていた。
「蛸焼さん、どうされました? 最近、元気がないじゃないですか…」
職場の後輩である烏賊墨(いかすみ)が日焼けした黒っぽい顔で窺(うかが)うように言った。
「いや、なに…。この国も悪くなったなと思ってさ…」
「どういうことです?」
若い烏賊墨には、 蛸焼の言う意味がさっぱり分からなかった。
「いや、なんでもないさ…」
蛸焼は暈(ぼか)すように反転した。すると、いい焼け具合に固まった熱い鉄板下の丸い半分が表出し、ドロリとした半熟(はんじゅく)の部分が逆に鉄板下へと沈んだ・・ということではなく、単に誤魔化した。
「そうですか? …」
烏賊墨はそれ以上は突っ込まず、入れられたパスタに塗(まみ)れた・・ということではなく、話題を変えた。
「そうそう! 悪くなったといえば、デフレとか言ってる最近の景気。そう思いません?」
「デフレじゃないよ、決して。それも言うなら、国力の減衰だ。これが経済を語る上では正解だっ! 実に嘆かわしいっ! 国の考え方、方針が間違ってるんだよ、烏賊墨。今じゃ、世界第2位の経済大国だった日本は10位以下だぜっ!」
蛸焼はまた愚痴っぽくなってきた自分に気づいき、舟盛りされたあと、ソースや海苔(のり)で味つけされて・・ということではなく、少し自重した。
「そうなんでしょね…」
烏賊墨は同調して皿の上へ盛りつけられた・・ということはなく、聞く人となった。
世の中は嘆かわしく、無性に食いたくなる・・ということではなく、そう不条理が多いということだ。
完