思うように物事が進まないとき、思惑(おもわく)を逆転すれば首尾よくいく場合がある。もちろん、すべて逆の思惑にすれば上手(うま)くいくのか? といえば、それは保証しかねるが、まあ、そういう場合だってある・・くらいに考えておいて頂ければいいだろう。
課長の立花(たちばな)は気分が萎(しぼ)んでいた。というのも、また、あの嫌(いや)な来年度予算のガイドライン作成の時期が到来しようとしていたからである。立花が予算要求書に纏(まと)めた案は、すべてがすべて修正され、今まで何一つとして思うように予算計上されなかったからである。それが繰り返し繰り返しとなれば、それは気分も褪(あ)せた花のように萎むというものである。
だが、何があったのか、その日の立花のテンションは妙に高かった。
「ああ、それね…。桜田君! 今年は同額でいいよっ!」
「ええ~~っ!! 毎年ならもっと削(けず)られるじゃないですかっ、課長!」
課長補佐の桜田は訝(いぶか)しげに立花を見た。
「もう、いいんだよ、桜田君。削って他へ回したところで、その予算はまた復活するんだから…」
「そうでしたね…。ということは、諦(あきら)めの境地(きょうち)・・というやつですか?」
「いや、そうじゃないんだ桜田君。物事は思惑、一つでね。もう、正面攻撃はやめたんだ俺は。ははは…討ち死にが増すばかりだからな。逆転の発想・・というやつだよ、君。搦(から)め手、搦め手!」
「…搦め手? ですか?」
「そう、搦め手! ヒヒヒ…いつの日か、あんた方、困ることになりますよっ! ってヤツさっ。絡め手は、その日が来るまで、言われるとおりにやるという思惑さ」
「長いスパンってヤツですね」
「そう! 長いスパンさ。人生は長き道を往くが如し。焦(あせ)るべからず・・だ。言ってもダメなら?」
「引いてみなっ!」
「そう、それ…」
「分かりました。では、同額で諮(はか)ります」
「うん、そうしてくれ…」
立花の気分は咲き誇(ほこ)る花のように開いていた。
完