世の中には様々な人がいる。当然、それぞれ個人が持っている隠れたパーソナリティにより物事への取り組み方とか生きざまが変わる。
「はっはっはっ…妙な質問だっ! 予算委員会で予算と関係ない質問してるぜっ!」
テレビ中継を観ながら、主人の玉袋(たまぶくろ)は大黒様のように笑いながら言った。
「いいじゃないっ! 関連質問なんだからっ!」
すぐに反撃に出た妻の奈緒美は、キッチンから声だけ返した。すぐ飛び出してきて応戦したいのは山々だったが、調理中で手が離せないから仕方がない。
「そうだけどな…。予算の質問をして欲しいよっ! この質問、全然、関係ないぜっ!」
「…」
それもそうね…と思ったか思わなかったかは別として、奈緒美は返さなかった。実は、奈緒美は、苦労性な人ね…と思っていた。他(ほか)に考えることないのかしら? …とも、実は思った奈緒美だったが、そうも言えず、思うに留めた訳だ。加えて、調理中のロールキャベツが不手際(ふてぎわ)にも崩(くず)れかけた・・という事情もあった。
「あれっ? あの議員、ウツラウツラしてるぜっ」
「… 疲れてらっしゃるんでしょっ!!」
奈緒美は、細々(こまごま)と気づく苦労性な人ね…と、また思ったが、それも言えず、暈(ぼか)して返した。スポーツでいうところのオン・ラインという際(きわ)どいやつである。
「ははは…となりの議員、 服のボタンが解(ほ)つれて取れかけてるぞっ!」
「…」
奈緒美は怒れて、黙って聞いてなさいよっ! …と思ったが、もう返さなかった。
「あっ! 俺も解つれてるっ! やれやれ…繕(つくろ)うか!」
「…」
奈緒美はすでに聞く耳を持たなかった。苦労して好きにやってりゃいいわっ…くらいの気分だった。ロールキャベツは崩れ、半(なか)ばふだかっていた。奈緒美が苦労性で弄(いじ)り過ぎた結果だった。
完