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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-2- 開票

2017年10月29日 00時00分00秒 | #小説

 天雲町(あまぐもまち)の町長選の真っ只中(ただなか)である。天雲町では突然、湧(わ)き起こったスキャンダラスな不倫騒動で女性町長の大神(おおかみ)が憤懣(ふんまん)遣(や)る方なく辞職し、元議長で無所属新人の岩戸(いわと)と元助役で無所属新人の田力(たじから)の二人による選挙へと突入したのだった。対決の構図は、すでに1年前から始まっていた。岩戸に肩入れしていたのは有りもしないスキャンダル記事掲載の雑誌を出した地方雑誌編集長の須佐野(すさの)である。実は、これには収賄の汚職の事実が隠れていた。岩戸による大神町長追い落とし工作だった。無実を訴える町長を擁護(ようご)して立ち上がったのが田力だった。二人の選挙戦は有権者2万数千の町全体を選挙一色に染め、熾烈(しれつ)を極(きわ)めた。
「清廉潔白な新しい町づくりこそがっ! 私の目ざすところでありましてっ! …」
 岩戸は悪役顔を笑顔に変え、訴えた。そして金に物を言わせ、次第に田力を追い詰めていった。なにせ、小さな町である。法に触れないギリギリの買収(ばいしゅう)工作は暗黙の内に着々と進んでいったのである。一方の田力陣営は無実を訴える元町長の大神の支援もあったが、なにせスキャンダラスな雑誌販売は、町民の心に暗い影を落としていた。それでも田力陣営は懸命に戦い、選挙戦は終結を迎えた。
 さて、選挙当日となり町民による投票が開始され、その日は暮れていった。投票率は、95.4%という天雲町、始まって以来の高得票率を記録した。開票作業は即日の午後9時から開始された。田力は善戦したが票が数十票足らず、敗色濃厚となっていた。
「大神さん、やるだけのことは、やらせていただいたのですが、どうもいけないようです…」
 田力は選対事務所で心なしか弱含(よわぶく)みな声で、隣(となり)の椅子に座る大神に呟(つぶや)いた。
「いえ、私の責任です…」
 大神も弱含みな声で返した。そのときだった。
「やっ! やりましたっ!!」
 田力陣営の選対本部長が息も絶え絶えに戻(もど)ってきた。
「…何を?」
 田力と大神は異口同音に訊(たず)ねた。
「ぎゃ! 逆転ですっ!! つっ! 月読(つきよみ)地区の票が漏(も)れ落ちていたようですっ!」
「ええ~~っ!!」
「選管本部が…」
 その頃、選管本部では開票作業が終わろうとしていた。最終開票結果は、僅(わず)か百数十票の差で田力の当選だった。鮮やかな逆転劇だった。
 物事(ものごと)は最後の最後までどうなるか分からない・・という、良くも悪くも戒(いまし)めとなる話である。

                              


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