水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (23)しまった!

2021年09月20日 00時00分00秒 | #小説

 皆さん、しまった! と思うときはないだろうか? 関西弁だと、しもたっ! となる。私の場合、過去にいろいろと、そうした事態があったから、最近は、よぉ~~く考えるようにして、そういうことが起こらないよう努めている。まあ、それでも、たまに起こった場合は、年の所為(せい)にしている。^^ さて、今日の二十三話のお話は、そのしまった! という一場面を描いた四方山話(よもやまばなし)だ。
 雨が上がった直後の、とある喫茶店である。雨除けにと入った二人連れの男が、今、レジを済ませて出ていったところだ。
「あら、いやだっ! お客さん、傘、忘れてったわっ!
 店のウェートレスが店を出た二人連れの男が忘れていった雨傘(あまがさ)に気づき、思わず口を開いた。近くが駅ということもあり、客の姿は疾(と)うに消えていた。
「また、来るだろっ! 預かっときゃいいさっ!」
 店主が、すぐに口を挟(はさ)んだ。
 一方、こちらは雨傘を忘れた二人連れの男だ。二人は、すでに地下鉄に揺られていた。
「しまった!」
「どうしたっ!?」
「傘、わすれっちまった!」
「どこへっ!」
「決まってるだろっ! 茶店だよっ、茶店っ!」
「あっ! そうかっ! そら、そうだよなっ! 雨除けで茶店へ入ったんだからなっ!」
「そうそう、濡れネズミで中へ入った訳じゃないからなっ!」
「ああ、そういうことだ…」
 そして二人はそのまま地下鉄に揺られ続け、次の駅で降りる寸前だった。今度は、もう一人の男が思わず口を開いた。
「しまった!」
「どうしたっ!?」
「傘、わすれっちまった!」
「どこへっ!」
「決まってるだろっ! 茶店だよっ、茶店っ!」
「決まってねぇ~だろうよっ! 他かもしれねぇ~じゃないかっ!」
「馬鹿を言うなっ! 金、払ったのは俺だったろっ!」
「あっ! そうかっ! そら、そうだよなっ! 財布から金出したんだからなっ! だが、待てよっ! そしたら、出たあとだぜっ!」
「しまった! 落としたかっ!」
「かもなっ!」
「ちょっと待てよっ! 払って…ズボン入れたよなっ! あっ! 入れようとしてショルダーへ入れたんだった。ははは…」
 もう一人の男はショルダー鞄(かばん)の中に財布を発見し、ホッ! と安堵(あんど)のため息を吐(つ)いた。
 このように、しまった! は、しまった! 訳ではないことも多い・・という、欠伸(あくび)が出るような四方山話でした。^^

                   完


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