水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (17)範囲

2021年09月14日 00時00分00秒 | #小説

 台風が接近している、とある頃のとある日である。^^ とあるテレビ局のとあるアナウンサーが、しきりに台風関連のニュースを読んでいる。
『… 今夜半、台風は、とある半島を掠(かす)め、最悪のコースを辿(たど)った場合、上陸する可能性も出てきましたっ!』
 そのテレビを風呂上りに観ていたとある庶民が呟(つぶや)かなくてもいいのに呟いた。
「どっちなんだっ! 上陸するのか掠めるのかっ!」
『このまま台風関連のニュースを続けます。○○時からの時代劇△◎%$は来週に延期させていただきますっ!』
「ええ~~っ!! これから楽しんで観ようと思ってたのにっ! だいたい、範囲がなってないよっ! ここまで、台風が来るんかいっ!」
 とある庶民は憤(いきどお)った。よくよく考えれば、憤ったところで仕方がないのである。庶民は流していただく電波を素直に、ただ一人の僕(しもべ)として、^^ 有難く拝聴する他はないからだ。
『今週の放送予定は、来週、放送させていただきます…』
「チェッ! 来週かいっ! 今、流せっ! 今っ!」
 とある庶民は、ふたたび憤った。自分が考えていたその後の休日の過ごし方が狂ったこともある。このとある庶民にとって、想定の範囲を大きく逸脱していた訳だ。
 数十分、台風関連のニュースを読み、とあるアナウンサーは、静かに、さも何もなかったように頭を下げるとニュースを終えた。ニュースが途切れると、待ってましたっ! と言わんばかりにCM[コマーシャル]が流れ出した。
『美味(うま)いっ!! ただ美味いっ! #$$#" ! 』
 それを観ていたとある庶民の憤りは、次の瞬間、一挙に瓦解(がかい)した。
「ははは…ビールがあるじゃないかっ! 冷えたビールがっ!」
 とある庶民の両足は、冷蔵庫へと動き始めた。
 このように、範囲が突然、変化したり狂ったとしても、ちょっとした楽しみが加われば、範囲など別にどぉ~ってことなくなるのである。
 今日の十七話は、範囲という事象を見つめる四方山話(よもやまばなし)でした。^^

                   完


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