ゆとりの時間がないと、必然的に慌(あわ)ただしくなる。ゆとりの時間は考えておいたのだが、俄(にわ)かな用事やハプニングでゆとりがなくなり、慌ただしい事態となった・・などという話も聞く。孰(いず)れにしろ、ゆとりがなくなれば、バタバタと慌ただしい動きになることに変わりはない。今日の十一話は、そんな慌ただしいお話だ。^^
とある繁華街の交差点である。禿岡(はげおか)は、この日も出勤のため、車で会社へ向かっていた。
『んっ!? 今日はどうしたんだっ! 偉(えら)く混んでるじゃないかっ!』
いつも、ゆとりの時間に考え、早めに家を出る禿岡だったから、そんなに心を乱してはいなかったが、それでも少し不安げに呟(つぶや)いた。その後、十分、十五分と時は過ぎていったが、少しも渋滞は解消しそうになく、前方の車列は動きを見せない。禿岡が腕を見ると、いつの間にか、ゆとりの時間は疾(と)うに消えていた。禿岡は少しイラつき始めた。
『チェッ! どうしてくれるんだっ!!』
これでは、朝のプレゼン[説明会]には間に合わない。だが、怒ったところで、どうなるものでもない。ジィ~~っと運転席で固まっていても、怒りは益々、大きくなるばかりだ。禿岡は少しバタつこう! と、シートベルトを外(はず)し、用もないのに助手席に置いた鞄(かばん)の中を弄(いじく)り始めた。とはいえ、それも長くは続けられるものではない。禿岡は鞄のチャックを締めると、しばらくジィ~~っと目を閉ざしていたが、それもそう長くは続けられず、次に頭を左右に振り、肩を上げ下げし始めた。それとて、長く続けられるものではない。加えて、車列は動かず、少しも変化見せなかった。禿岡は、よしっ! 慌ただしくしないでおこう! と決意し、腕組みした。その時、急に前の車列が動き始めたのである。禿岡は、慌ただしいなっ! …と思いながらシートベルトを締め、車を慌ただしく発進させた。
このように、慌ただしく思わなければ、慌ただしいことも慌ただしくなくなる・・という、馬鹿げた四方山話(よもやまばなし)でした。^^
完