水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第七十二回)

2011年11月15日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第七十二回
 上山が食事を終え、食堂から屋上へ上がってきたとき、幽霊平林は霊界の住処(すみか)で止まっていた。
「なんだ、…云っておいたのに、まだ来てない。いや、現れてないじゃないか…」
 上山は腕時計を見ながら愚痴っぽく呟(つぶや)いた。幽霊平林は忘れていた訳ではない。一端、霊界へ戻ったものの、そろそろ人間界へ現れねば…とは思っていたのだ。しかし、悪くしたもので、そのとき霊界番人が通りかかり、住処の出口で出会ってしまったのである。霊界を支配する霊界司の意を受けた霊界番人を無碍(むげ)に無視は出来ない。だから、対峙して応対する以外にない幽霊平林だった。彼は課長を待たせているんじゃないか…と気忙(きぜわ)だった。おなじく、人間界の屋上にいる上山も気が急(せ)いていた。昼休みも残り三十分弱になっている。
「なにしてんだ、あいつは!」
 ふたたび愚痴っぽく呟いてみた上山だが、残念なことに、彼から幽霊平林にコンタクトする方法がなかった。
 幽霊平林が遅れて屋上に現れたとき、上山の昼休みは残り十五分ばかりになっていた。
『すみません! 霊界番人様にバッタリ出会いまして、仕方なく…』
「霊界番人さんか…。そりゃ仕方ないんだろうな」
 霊界の事情を云われた日にゃ、上山は沈黙する他はない。さっぱりアチラのことは分からないからだ。
『そうなんですよ。僕らを支配するお方の遣(つか)いですからね』
「ああ、霊界司さんだったな…。で、効果の方はどうだった?」
 上山は幽霊平林の胸元に挟まれた如意の筆を指さして、そう云った。
『あっ! そうでした。いやあ~、なんと云いますかねぇ、効果は絶大で、某国の軍隊がハチャメチャでした、ははは…』
「んっ? 君は時々、訳の分からんことを云うな。某国の軍隊がハチャメチャ? そりゃ、どういうことだ?」
『どうも、すみません。僕は軽率で駄目ですね。課長が分かってらっしゃるものと思って話してました。実は、これを試そうと、某国の軍事パレードで、やったんですよ』
 幽霊平林は胸元の如意の筆を指さした。


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