幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第百十回
『…って、最終段階ってことですよね?』
「そうだが」
『いちばん、おいしいとこですね?』
幽霊平林は陰気にニタリと笑みを浮かべた。
「君はまた、そういうことを云う。私にとっては何の見返りもないことだぞ。おいしい訳がなかろう」
『すみません…。つい、冗談が出ました』
幽霊が人間に謝っている光景など、恐らく前代未聞に違いなかった。
「いや、謝らんでもいいが…。まあ、ともかく、今云った武器売り手上層の動きを探ってくれ。で、そうなるメカニズムを入手したら、私に報告してくれ。今回は、こちらから呼び出さんから、つきとめ次第、君の方からこちらへ現れてくれ。時と場所は選ばんから…」
『なんか、007みたいで格好いいですね』
「…、君は格好いいのに弱いからな。まっ! 冗談はともかく、そういうことだ」
『はい! 真夜中でもいいんですか?』
「ああ、二時頃までなら別に構わんが…。それ以降は、早朝ということで頼む」
『分かりました』
幽霊平林は素直に頷(うなず)いた。
「そろそろ、課へ戻るか…」
上山は腕時計をみながら、そう呟いた。
『あっ! もう、そんな時間ですか? それじゃ、そういうことで!』
スゥ~っと格好よく消える前に、幽霊平林は、わざとらしく、そう云った。
二人(一人と一霊)は別れたあと、それぞれの生活に戻った。上山はエレベーターで業務第二課の課長席へ戻り、幽霊平林は、霊界の住処(すみか)へ、ひとまず戻ったということである。
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