水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第二十六回)

2011年06月04日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第二十六回

「いえ、社長に云ったんじゃありません! 失礼しました」
 上山は田丸の前へ頭を深々と下げた。
「…んっ! まあ、いい…。平林君が、なにか云ったんだろ?」
「はい、そのとおりで…」
「よしっ! もう、忘れることにしよう。すべてを聞かなかったことにな、ははは…。死んだ社員のことなど、いつまでも気にしとられんわい!」
「はい、仰せの通りで…」
「うん! もういいぞ、上山君。戻ってよろしい」
「はいっ! ありがとうございます」
「なにも君が礼を云うことはないだろうが…」
「はあ、それはそうなのですが…」
 上山は立ち上がると、もう一度、深々と一礼し、社長室を出た。当然、幽霊平林は、そのままスゥ~っと上山に付く。先ほどと同じで、云わば上山に並行して進むといった具合である。
『なんか、面白くないですよ。僕、完全に無視されてますよね』
「平(ひら)さん、まあそう云うなって。…今の状況は、お前さんにとって歩(ぶ)が悪いんだから。孰(いず)れ、私がなんとかするさ」
『それって、期待していいんでしょうね』
「ああ、もちろんだ。そんなことより、お前さんと私の因縁の方が分からん…。そっちの方が大事じゃないか?」
『ああ、そうでした。すっかり忘れてました』
 そうこうするうちに、上山は課へ戻ってきた。むろん、ドアを開けて中へ入ると、幽霊平林は跡形もなく消え去っていた。


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