幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第十二回
『うっかりのないやつにして下さい。僕も、そう簡単に呼び出されちゃ困りますから…』
「そうならないようなやつだな…。そうだ! 手首をグルグル回すという奴にしよう」
『ちょっと待って下さいよ! 手首ですね? どちらを?』
「そうだな…。右はよく使うから、左にしようか」
『左ですね? 僕もリセットしてインプットし直さないといけませんから…』
「ほう、そうなんだ…」
『はい。一端、してしまえば、あとは全自動ですから』
「なんか、幽霊になった君は、機械みたいなんだなあ…」
『ははは…。機械じゃありませんが、似たところはありますよね』
二人は辺りに目立たない声で笑った。むろん上山は会話も笑いもデスクに向かって顔は伏せ、小声である。
「そんなこたぁ~どうでもいいさ。今日、仕事終わったら、滑川(なめかわ)さんの研究所へ昨日の土を持っていくよ」
「舞台寺(ぶだいじ)のですか? でも、滑川教授に分かりますか? あの人は心霊学ですよ?」
「まあ、科学で解明できないこともあるさ。ということは、心霊学で分かる場合もあり、ってことさ」
『なるほど…』
幽霊平林は、なんとなく辻褄(つま)が合うように思え頷(うなず)いた。それに毎晩、静止できずに安息がないというのも辛い。誰でもいいから、幽霊平林としては早く解決して欲しかった。「おいっ! 出水が私達を見てる! もう、消えてくれ!」
係長の出水が怪訝(けげん)な顔つきで課長席を見ている。ことに気づいた上山は、慌(あわ)てて机の引出しを開ける仕草をしながら、そう云った。小声で話しているとはいえ、至近距離にはならない程度の斜め前方に出水は座っていた。それが、何かの拍子で振り返り、ふと課長席の上山を見たのだろう。
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