幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第四十六回
『ありがとうございます。しかし、私は、さしずめ何をすればよいのでございましょう』
『その決めはない。ただ、俗世の大悪を滅せよとの霊界司様のお言葉であった』
『はは~っ!! 出来得る限り、この平林、努めさせて戴きますぅ~』
幽霊平林が云い終わった瞬間、光輪は、跡形もなく消え失せた。訳がどうであれ、ひとまず霊界司に認められ如意の筆(にょいのふで)まで頂戴したのだから、幽霊平林としては、気分の悪かろう筈(はず)がない。喜び勇んで住処(すみか)へと透過して入った。
その頃、上山は、かなり酩酊していた。というのも、お目出度い披露宴の席で、多くの人から酒を勧められたからで、いつもなら断るところを、立場上そういう訳にもいかず、勧められるままに飲んだ・・というのが原因だった。幽霊平林がスンナリ消えてくれて気が緩んだ、ということもある。自分は正義の味方で、ヒーローになったんだという高揚した気分である。
幽霊平林が如意の筆を胸に、気分を新たにして人間界へ現れたのは、その夜の八時前である。正確には、七時半過ぎだった。なにぶん、時間が分からない霊界だから、少し早めに現れることにしたのだ。もちろん、目的は滑川(なめかわ)教授に報告している上山のデータ集めに協力することなのだが、気分はどこかヒーローであり、正義の味方の幽霊平林だった。現れた場所は上山の家のすぐ近くで、辺りで時刻を確認してから家へ透過するつもりでいた。家に上山はいた。しかし、すっかり泥酔状態で、幽霊平林が現れるしばらく前に、披露宴の二次会からタクシーで帰着したのだった。当然、すっかり出来上がっていた。そこへ幽霊平林の登場である。深い酔いもあってか、上山の有りようは、いつものように尋常ではない。そんなことは知らない幽霊平林はスゥ~っと家の中へ透過した。すると、酔い潰(つぶ)れてテーブルにひれ伏す上山の姿が目の前へ現れた。一瞬、幽霊平林は上山へかける言葉を失った。しかし、いつまでも無言という訳にもいかない。観たところ、酒がかなり入っていることは分かる。
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