幽霊パッション 水本爽涼
第三十四回
「相手による、とは、どういうことなの?」
『相手の心霊力が強いと、立ち入る隙(すき)がないのです。それに返って、そんな相手に仕掛けると、こちらが危ういんです』
「危ういとは?」
『ええ、ですから、危ういんです。どう云えばいいのか…、つまり、ふたたび現れることが出来ないほどのダメージを受けるということです』
「ほう…、そうなのか。霊界も、いろいろ複雑なんだねえ」
『はい、かなり複雑なんですよ』
「ふ~ん…」
二人、いや、本当は一人と一霊なのだが、この場合は、あえて二人と云える両者が黙り、しばらくその沈黙は続いた。上山は残って冷えた銚子の燗冷め酒を猪口へ注いで飲み干した。
幽霊平林も上山が黙ってしまえば暖簾に腕押しで、存在価値がなくなる。元々、幽霊なのだから存在は無なのだが、上山の前では人として一応、存在するものだから話していた訳で、存在価値もあったのである。
『それじゃ、そういうことで…。教授とのコンタクトが首尾よくいきましたら、また現れることにしましょう』
「あの…、ひとつ訊(き)きたかったんだが、そんなにいつでも現れるのは可能なのかい?」
『はい! それはもう…。人間の世界の感覚で霊界を捉えてもらっては困ります。それはもう、まったくの別世界なのですから…』
「それは、いつか云ってたよね」
『ええ、三次元ではない空間にいる訳です。コチラから見れば、消えてるってことになります。これも、いつか云いましたよね?』
上山は、それ以上、追及できなかった。
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