水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第三十四回)

2011年06月12日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第三十四回

「相手による、とは、どういうことなの?」
『相手の心霊力が強いと、立ち入る隙(すき)がないのです。それに返って、そんな相手に仕掛けると、こちらが危ういんです』
「危ういとは?」
『ええ、ですから、危ういんです。どう云えばいいのか…、つまり、ふたたび現れることが出来ないほどのダメージを受けるということです』
「ほう…、そうなのか。霊界も、いろいろ複雑なんだねえ」
『はい、かなり複雑なんですよ』
「ふ~ん…」
 二人、いや、本当は一人と一霊なのだが、この場合は、あえて二人と云える両者が黙り、しばらくその沈黙は続いた。上山は残って冷えた銚子の燗冷め酒を猪口へ注いで飲み干した。
 幽霊平林も上山が黙ってしまえば暖簾に腕押しで、存在価値がなくなる。元々、幽霊なのだから存在は無なのだが、上山の前では人として一応、存在するものだから話していた訳で、存在価値もあったのである。
『それじゃ、そういうことで…。教授とのコンタクトが首尾よくいきましたら、また現れることにしましょう』
「あの…、ひとつ訊(き)きたかったんだが、そんなにいつでも現れるのは可能なのかい?」
『はい! それはもう…。人間の世界の感覚で霊界を捉えてもらっては困ります。それはもう、まったくの別世界なのですから…』
「それは、いつか云ってたよね」
『ええ、三次元ではない空間にいる訳です。コチラから見れば、消えてるってことになります。これも、いつか云いましたよね?』
 上山は、それ以上、追及できなかった。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 連載小説 幽霊パッション ... | トップ | 連載小説 幽霊パッション ... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事