幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第十五回
『ええ、そのとおりです。相手にもよりますが…。教授の心霊力が強ければ駄目なんですけどねえ』
「私の話し方ひとつだな」
『はい、まあ…。滑川(なめかわ)さんは偏屈ですから、機嫌を損ねないよう、ひとつ宜(よろ)しく頼みます』
「ああ…」
車は一路、滑川教授の研究所へと向かった。
研究所へ着くと、そのむさくるしさは以前とちっとも変わりがなかった。地下階段を下りようと上山が一、二歩下り始めると、すでに辺りは闇のベールに閉ざされていたから、階段を下りること自体が危うかった。足を滑らせれば大ごとになりかねない。
『ここは、僕の出番ですね。先に行きますから、あとに続いて下りて下さい』
「君はそれでいいだろうけど、暗くって足元が危ういことに変わりはないぜ」
『大丈夫ですよ…』
そう云うと、幽霊平林は両瞼(まぶた)を閉じ、何やら必死に念じ始めた。すると、どうだろう。彼の頭にポッ! っと青火が灯って燃えだしたのである。
「ああ、そういうことか…。しかし、上手い具合に灯ったもんだ。興奮しないと駄目なんじゃなかったっけ?」
『ええ、そうなんです。ですから、いろいろと妄想して興奮した訳ですよ。灯ってしまえば、こっちのもんです』
「ははは…、どっちのもんでもいいけどさあ。…じゃあ、下りてくれ」
『あっ! はい…』
上山に促(うなが)され、幽霊平林はスゥ~っと階段を降下し始めた。その頭に灯った青火の明るさを頼りに、上山もあとに続いて下りていった。
教授がいると思われる室内には、60Wの古い電球が一個、灯っていた。それは、この前来たときと変わりがないように上山には思えた。ただ、以前、訪ねたのは午前中で、今日はすでに夜になろうとした頃合いだから、その違いはあった。前回、訪ねたときの室内の記憶が上山の脳裡にウッスラと残っていたから比較出来た訳である。
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