幽霊パッション 水本爽涼
第二十二回
上山は当然、両足で歩くから肩などが小刻みに揺れるが、そこへいくと幽霊平林は滑(なめ)らかだ。体形を動じることなく、そのまま前方へスゥ~っなのである。恰(あたか)も、空港の通路上のベルトコンベアへ乗って移動する塩梅(あんばい)である。上山は、ようやく重い口を開いた。
「先ほどの続きだが、どうも君と私の接点を見出す手がかりとか方法がなあ…」
『浮かばなかったと…』
「ああ、まあなあ…」
上山は素直に云った。
『僕もなんですよ。どうしても課長と僕だけが繋(つな)がる接点を探る手立てが…』
二人はテンションを下げて課へと戻った。上山が課のドアを開け中へ入ると、幽霊平林の姿は消えていた。はは~ん、やはり、ここは現れないんだ…と、上山は、ほんの少し気分が和(やわ)らいだ。
「課長、お茶、入れておきました…。この前は、どうも…」
課長席へ近づいてきた亜沙美が、遠慮ぎみにそう云って一礼した。
「んっ? いやあ。ありがとう…」
そうとだけひと言、上山は告げた。亜沙美はまた一礼して、自席へと戻っていった。係長の出水雅樹(でみずまさき)は二人の会話を訝(いぶか)しげに聞いていたが、聞かなかったように机の書類に目を落とした。岬と亜沙美の席は少し離れていて、すぐ近くで話し合える距離ではない。課員達は各自の事務仕事を熟(こな)していた。上山が課長席へ座ったとき、机上の業務連絡用インターフォンが鳴った。社長室からだった。上山は慌(あわ)ててボタンを押した。
「ああ、私だ…。ちょっと来てくれんか、上山君」
「は、はい! すぐ、参ります!」
インターフォンを切ると同時に、もう上山は立っていた。
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