幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第五回
『そうですよ!』
「だろ?」
「えっ?」
「いやあ、こっちの話です」
思わず幽霊平林に語りかけた上山は、慌てて取り繕(つくろ)った。
「そうですか…。最近ですね、舞台寺(ぶだいじ)さんで人魂(ひとだま)を見たという話が入りましてね。その方々は、ここへ駆け込まれたんですがね。私らにゃ、どうにも出来ん話ですし…」
「ええ、そりゃまあ、そうですよね。事件じゃないんですから」
「はい、そういうことです。まあ、それだけの話ですよ。お寺さんは、ここを出られて道路の右側にございます。せいぜい百メートル足らずですから、すぐ分かりますよ」
巡査は問題点を隠すかのように、話を急に寺の位置へと変えた。
「…ありがとうございました。おい! いくぞっ」
「えっ?!」
「いや、なにも…。ははは…、私、独り言を云う癖があるんですよ」
怪訝(けげん)な顔で見つめる巡査に、上山はふたたび云い訳がましく取り繕った。
交番を出て、上山は云われた右側の道路沿いに歩いた。辺りはすっかり暗くなり、ところどころに敷設された街灯とポツリポツリある家窓から漏れる灯り以外、道路を照らすものは何もなかった。巡査が云っていた百メートル足らずをメドに上山は歩いた。当然、幽霊平林もスゥ~っと上山に付き従って流れた。
「おお! かなり大きな寺だな」
『そうですねえ…』
土塀に囲まれて寺が上山達の前に現れたのは、間もなくだった。その土塀づたいに歩くと、山門と思(おぼ)しき構造物が上山の視界に入った。
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