幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第九十八回
幽霊平林からの報告が上山に齎(もたら)せられたのは、その二日後だった。場所は深夜の上山が寝入った直後の寝室である。まさか、寝室に幽霊平林が現れるなどと、上山が考えてる訳はなかった。だから、想定外の驚きは、いつもの倍以上はあった。
『課長!! 起きて下さい!』
「… … な、なんだ今時分! 驚くじゃないかっ!」
上山は思わず半身を起こしていた。
『すみません! ちょっと、こちらの時間が分からなかったもので…』
幽霊平林は弁解に努めた。というのも、いつも人間界の時間を探る霊水池から引いた水路の水が止まったためである。いつやら幽霊平林が、霊界にいながら人間界の時間が分かるように、水路を住処(すみか)まで引いた、その水である。水瓶(みずがめ)へ流入した量で時の流れを知る、云わば水時計のアイデアだが、水が止まってしまえば意味がなかった。訳は、霊界で生じた一時的な環境異変なのだが、そんなことは霊界に死んでいるすべての霊が知る訳もなく、もちろん幽霊平林も知らなかった。その結果、深夜の出現となった訳だ。
「まあいい…。それで、ギリシャへは現れたんだろうな」
『はい、それはまあ…。現れるには現れたんですが…』
「なんだい、その奥歯に物の挟まったような云い方は」
『いや、念力の有効範囲が今一、分からなかったもんで…』
「そんなこたぁ~、どうでもいいんだ! とにかく、念じてくれたんだろ?」
『はい! それは、まあ…』
「はきつかん奴だ! で、結果は? 経済危機は回避できそうなのか?」
『はい! まあ…。明日の新聞をお読み下さい。カンフル注射のように当面の危機が収まる念力は送っておきましたから』
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