幽霊パッション 水本爽涼
第十一回
上手くしたもので、適当に本棚を物色していると、上山が探していた頃合いの本が視界に入った。━ 霊は存在する!━ という袴(はかま)が付いており、『降霊』という真(まこと)しやかなタイトルの市販本だった。学術の専門書ではないものの、まず一冊は…と思っていた矢先の上山にとっては、願ったりの本に思えた。さっそく手に取って上山が数ページめくった時である。背後にゾクッとする冷たい感触が上山を襲った。まさか…とは思ったが、上山はゆっくり後方を振り向いた。そこには、ニンマリとした笑顔の幽霊平林がフワリフワリと浮いていた。
「お、お前…」
上山は驚きの余り、声を失った。社外で幽霊平林を見たのは、これが初めてだったからである。
『課長~、何を読んでおられるんですぅ~』
幽霊平林は、上山が手にする本を覗(のぞ)き込んだ。上山は慌(あわ)てて本を閉じた。
「いや…ちょっとな」
幽霊平林の視線が本の袴に走った。
『ほう…。霊は存在する、か…。んっ、まあ確かに…。こうして僕がいるんですから』
「…前から、ちょいと興味があってな。偶然、あったから手にしたまでだ」
上山はカムフラージュするかのように、なにげなく手にした本を棚へと戻した。
『いいんですよ、課長。そんなに隠さなくたって』
「隠してなど、おりゃせんよ!」
上山は否定しようと声を荒げた。
『シィー! 大声を出さないで下さいよ。ここは図書館ですよ』
「ああ、そうだった。すまん…」
『別に謝るこっちゃないんですけどね』
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