水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第二十八回)

2011年06月06日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第二十八回

「ああ…、風の噂(うわさ)に、とでも云っておくか」
「ならば、僕と亜沙美さんに係長が横恋慕していることは先刻、ご存知なんですね?」
「うん、知ってる。だから、なんとかせんといかんと、君を呼んだんだ」
 会社帰りに上山と岬は、キングダムでコーヒーを啜りながら、そんな話をしていた。
「出水君の嫌がらせ、ってのは、どの程度なんだ?」
「いやあ、課長が心配されるほど露骨なもんじゃないんですがね…」
 岬はコップの水を少し飲んだ。その時、幽霊平林が突如、岬が座る横の席へ現れた。上山は、来たか…と、失意した。
「課長、どうかされたんですか?」
 顔色を変え急に無口になった上山を見て、岬は思わず声をかけていた。横では幽霊平林が笑って物見顔で座っている。白装束だから余計に目立つのだが、そのコントラストは上山が感じるだけで、店内の誰一人として感じていないのだから、どうしようもない。もちろん、そんな男が店内にいれば、店員が摘(つま)み出すに違いないのだが、現に上山の前に幽霊平林はいた。
「いや、なに…。ちょっと昨日、寝てなかったもんで気分がな」
 そう云って上山はトイレへ向かった。幽霊平林も、その後方にピッタリついて動いた。岬は、そうなんだ…と、コーヒーを啜った。
 トイレへ入ると、人の気配がないのを幸いに、上山は、さっそく口を開いた。
「今、現れなくてもいいだろうが…」
 上山は露骨に不満を幽霊平林へ、ぶつけた。
『どうも、すいません。話が耳に入ってきましたもので…。つい自然と、姿が現れてしまいました』
「ふ~ん。そんなミスも君にはあるんだなあ…」
『いやあ、まだまだ不馴れなものでして…』
 不馴れか…と、上山は思わず笑えてきた。


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