水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十一回)

2012年03月20日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第三章   水本爽涼 
                                                                      

   
第七十一回
『もしかすると、近いうちに僕と課長の評価が下がるかも知れませんよ』
「そうだな。君の身にも変化が起きているようだし…」
『僕自身は、それほどにも思えないんですが、課長が云うんだから、そうなんでしょう。不安じゃないんですが、なんか落ちつかない気分です』
 そう云うと、幽霊平林は元どおり、幽霊の決まりポーズに手を前へやり、格好を標準型に戻した。
 霊界から上山と幽霊平林に対し、今回の活動に対する評価の伝達がなされたのは、二人(一人と一霊)の予想に反して迅速だった。
『お蔭さまで僕は二段階昇華で生まれ変われることになりました。有難うございます』
「霊界番人さんからの報告があったんだなあ…。いや、それはいいんだが、私の方はどうなるんだ?」
『課長は僕が見えなかった以前の状態へ戻るだけです。安心して下さい』
「…って、君が亡くなった後(あと)だよな?」
『ええ、そうです。僕は残念ながら、もう課長とは、お目にかかれなくなるんですが…』
 幽霊平林の陰気な顔が一層、沈んで、陰気に蒼白く曇った。
「なんだか寂しいし、辛いなあ。そうなると、、本当に永の別れ、ってことだ」
『ええ、そうです。まあ、孰(いず)れにしろ、死んだ人間が生きてる人間と一緒にいる、ってのが、妙といえば妙なんですが…。これだけ長く魂魄(こんぱく)この世に留(とど)まると、すっかり未練も無くなりました。人の悪いところも随分と見ましたから、ははは…』
 幽霊平林は少し寂しそうな顔で陰気に笑った。
「君は消えるんだから、それでいいだろうが、私はこの世に残って現実を直視して生きていかなきゃならんのが辛いところだ。だいいち、正義の味方活動はいいが、結果、地球語というチンプンカンプンを憶えにゃならん」
『課長には悪いんですが、それは仕方ないことです。生きておられるんですから…』
「ははは…。なんだか死んだほうがお得、みたいな云い方じゃないか」

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