水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (17)もらい泣き

2023年08月31日 00時00分00秒 | #小説

 ぅぅぅ…と、関係ない人がもらい泣きで流す涙がある。他人から見れば、全(まった)く縁(えん)も所縁(ゆかり)もない人が突然、泣き出すものだから要領を得ず、取り乱してしまうことになる。^^
 とある葬儀の会葬場面である。棺(ひつぎ)が近親者や身寄りの人々によって霊柩車に納められ、今、まさに葬儀場を後(あと)にしようとしている。
『ぅぅぅ…』
 縁の深かった人々の小さく嗚咽(おえつ)する声が、時折り聞こえる。周囲を取り囲む一般会葬者達は、そう悲しくもないから、軽く合掌(がっしょう)して見送る程度だ。
「本日はご多忙にもかかわりませず、ご会葬・ご焼香を賜り、誠にありがとうございました。お蔭さまをもちまして、これより出棺の運びとなりました。生前中はひとかたならぬご厚情、ご厚誼(こうぎ)にあずかり、故人もさぞ、皆様に感謝していることと存じます…」
 葬儀社が流すBGMとアナウンスが哀れを増幅させる。と、そのときである。
「ぅぅぅっ…!! ワァ~!!!」
 遠く離れた会葬者の中から、突然、静寂を破り、ボロボロと涙を流して泣き出した人がいる。もらい泣きである。会葬者の視線は一斉にその声の方向へと向けられた。
 鼻水をハンカチでかみ、涙を拭(ふ)くものだから、傍目(はため)から見れば実に汚(きたな)い。^^ かといって、泣くなっ! とも言えず、周囲の会葬者は次第に迷惑顔になる。霊柩車の死んだ人の霊は、なにごと!? とばかりに、大声でもらい泣きした人を眺(なが)める。^^
「ぅぅぅ… どうも…」
 もらい泣きした人は、ようやく冷静さを取り戻す。しかし、霊柩車はとき遅く、すでに出棺していた。会葬者達は慌(あわ)てて、去っていく霊柩車の方向へと向きを変え、ふたたび合掌する。
 どうも、もらい泣きする涙は混乱を招くようです。^^

                   完


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