水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第六十六回)

2011年07月14日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第六十六回

『はい、それは分かってます。少し慎みます』
 幽霊平林の闊達(かったつ)な口調が、少し大人しく変化した。
「上山さん、今日のところはこの辺で終りとしましょう。お電話を差し上げますから、一週間後にまたお越し下さい」
「はい、私と平林君のこと、何ぶん、よろしくお願いいたします。おい! 君からも頼んでおけよ!」
『課長が云ったとおりです。ひとつ、よろしく…』
「ひとつ、よろしく…と申しております」
「はっ? ああ、はい。私なりに考えてみましょう」
 上山は一礼して研究室を出た。当然、幽霊平林もその横にスゥ~っと付き従った。
『課長と僕以外には、話が通じる人はいないと思ってましたから、よかったですよ、ほんとに…』
「そうだな。まあ、佃(つくだ)教授には君の姿は見えんし、声も聞こえてないんだからな」
『それはいいんですよ。とりあえず、味方を一人、得た気分です』
「ああ…。それはいい、教授の口から私達のことが漏れんかが心配だ。うっかり釘を刺しておくのを忘れたからな」
『教授も、そんな口軽じゃないでしょう。そんなことを口外すりゃ、たちまち変人扱いされますから。本人も、佃はおかしくなったぞ、と叩かれるって云ってられたじゃないですか』
「ああ、そうだったな。まあ、大丈夫だとは思うが…」
『それじゃ、僕はこれで…。お呼びの節は、例の仕草でお願いします』
「ああ…」
 研究所の外へ出ると、スゥ~ッ幽霊平林は消えた。辺りは、もう昼過ぎだった。上山は俄かに空腹を覚えた。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 連載小説 幽霊パッション ... | トップ | 連載小説 幽霊パッション ... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事