幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第八十四回
「…霊界番人さんに、霊界司さんですか?」
佃(つくだ)教授はボールペンを手にすると、メモ用紙へ筆記し始めた。
「いやあ、これは平林から聞いたことで、私が直接、出会った存在ではないんですが…。まあ、彼が云うには、そういうことらしいんです」
「ははは…、そりゃそうでしょう。上山さんは、まだこの世の人なんですから…」
「ええ、まあ…。霊界と遣(や)り取りする存在なら死んでますよね、ははは…」
二人は顔を見合せると、大笑いした。
上山が佃教授の霊動学研究所を後にしたのは、それからしばらくしてで、すでに夕方近くになっていた。すっかり遅くなったと思ったとき、ふと朝から何も食べていないぞ…と、上山は思った。それと同時に、激しい空腹感が上山を苛(さいな)んだ。上山は堪(たま)らず、近くのファミレスへ走り込んでいた。もう何でもいいから口へ投げ込みたいような極端な衝動にかられるほどの空腹感があった。しかし、さすがにウエイトレスには適当に持ってきてよ、とは云えず、出されたメニュー書きを軽くめくり、目についたビーフシチューとライスをオーダーしていた。よく考えれば、カツカレーの方がよかったぞ…と、ウエイトレスが後ろ姿を見せて遠退いたとき、さもしく思えた。このタイミングで幽霊平林を呼ぶのも憚(はばか)られ、食べ終えてからにしようと改めて上山は思い直した。
ファミレスを出ると、すっかり外は暗くなっていた。今ならいいか…と、尋常の者ならゾッ! とするようなことを思い、上山は左手首をグルリと回した。すると、当然のように漆黒(しっこく)の闇へ幽霊平林がスゥ~っと格好よく現れた。ただ、上山には、すでに幽霊平林の姿が見えなくなっているから、どこに現れたのか迄は確認できなかった。
『課長、僕です…』
「おお! そうだろう…。どこだい?」
『課長の右横ですよ』
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