世の中の流れには見えない一定のサイクルがある。それが何なのか? は場合によって違うものの、形を変えながら同じような繰り返しで流れているという。逆(さか)らわず、その流れの方向へ進めば人生は上手(うま)くいく訳だが、それが分からない。分かれば誰も苦労はしないのだが、見えないのだから仕方がない。この男、低橋(ひくはし)も、世のいい流れを求めて生きる一塊(いっかい)のサラリ-マンだった。分かりよく言えば、平サラリ-マンということである。
「低橋さんっ! 課長がお呼びですよっ!」
「課長がっ! 僕をっ! …珍しいことがあるもんだなっ! いつもは、『そこにいたのか…』くらいなのに?」
「いや、何か訊(き)くことがあるとか、なんとか…」
「そうなのっ!? 世間の流れに取り残されたような僕にっ!?」
「ははは…取り残されてはおられないでしょ!」
「だって今、君、笑ったじゃないかっ!」
「失礼っ! まあ、そういうことですので…」
「分かった…」
低橋は川の流れに微動だにしない岩のような重い腰を上げ、課長席へと向かった。課長席では課長の屋形(やかた)が長時間、舟に乗ったような顔で、今か今かと待っていた。
「遅(おそ)いじゃないかっ! 低橋君っ!!」
「いやぁ~、課長が僕を呼ぶなんて、何かの間違いじゃないか? と思いましてねっ!」
「いや、それがね…。ははは…まあ、いいじゃないかっ!」
「でっ!」
「出も入りもないが、どうなんだろうねっ?」
「何が、ですっ?」
「いや、次の議会の質問だよっ!」
「それを僕にっ!?」
「まあ、無茶な質問は飛ばないとは思うが…」
「ああ! その流れは大丈夫です。知り合いの波間(なみま)議員が、そう言っておられました」
「大丈夫って、どう大丈夫なんだっ!?」
「昨日(きのう)、僕が準備してお渡ししたコピ‐の内容でしたからっ!」
「あっ! そうなのっ! ははは…なら、いいんだよっ! ははは…」
議会の流れは大丈夫と見た屋形は、ははは…と舟の上で酔いしれたかのように二度も笑った。
ものは思いようで、流れを知ると、安心して笑えるのである。^^
「低橋さんっ! 課長がお呼びですよっ!」
「課長がっ! 僕をっ! …珍しいことがあるもんだなっ! いつもは、『そこにいたのか…』くらいなのに?」
「いや、何か訊(き)くことがあるとか、なんとか…」
「そうなのっ!? 世間の流れに取り残されたような僕にっ!?」
「ははは…取り残されてはおられないでしょ!」
「だって今、君、笑ったじゃないかっ!」
「失礼っ! まあ、そういうことですので…」
「分かった…」
低橋は川の流れに微動だにしない岩のような重い腰を上げ、課長席へと向かった。課長席では課長の屋形(やかた)が長時間、舟に乗ったような顔で、今か今かと待っていた。
「遅(おそ)いじゃないかっ! 低橋君っ!!」
「いやぁ~、課長が僕を呼ぶなんて、何かの間違いじゃないか? と思いましてねっ!」
「いや、それがね…。ははは…まあ、いいじゃないかっ!」
「でっ!」
「出も入りもないが、どうなんだろうねっ?」
「何が、ですっ?」
「いや、次の議会の質問だよっ!」
「それを僕にっ!?」
「まあ、無茶な質問は飛ばないとは思うが…」
「ああ! その流れは大丈夫です。知り合いの波間(なみま)議員が、そう言っておられました」
「大丈夫って、どう大丈夫なんだっ!?」
「昨日(きのう)、僕が準備してお渡ししたコピ‐の内容でしたからっ!」
「あっ! そうなのっ! ははは…なら、いいんだよっ! ははは…」
議会の流れは大丈夫と見た屋形は、ははは…と舟の上で酔いしれたかのように二度も笑った。
ものは思いようで、流れを知ると、安心して笑えるのである。^^
完