幽霊パッション 水本爽涼
第十三回
幽霊平林が家へ現れる…つまらんことを云ってしまったものだ、と上山は後悔した。しかし、今さらどうしようもない。奴は恐らくウズウズして現われるその時を待っているんだろう…と上山は、また思えた。だが、よく考えれば、奴はいったいどこで待っているんだ? という素朴な疑問が沸々と湧いてくる。人間には計り知れない霊界特有の構造があるのだろうか…などと上山には思えたりもした。家までは十分前後だから、まだ四、五十分はあった。上山はふたたび、『降霊』とタイトルされた手に持つ本を開けると、乱読し始めた。
本には、青森・下北半島・恐山のイタコと呼ばれる口寄せのこととか、様々な興味深い逸話が掲載されていた。ただ、上山が知りたかったのは、そうした内容ではなく、幽霊平林が現れて自分に見えるという超常現象に関して記述されたものなのである。この点で云えば、この本は的(まと)を得ていないように思え、上山はその本を棚へと戻した。次に目についたのは、『霊視体験』という、なんとも興味深い本だった。なにげなく上山が数ページ捲(めく)ると、なんとそこには上山と似通ったような話の体験談が載せられていた。もちろん、匿名(とくめい)での口述記事を掲載したものだが、編集者の質問に対して一問一答形式で語られたものだった。
問 Kさん、あなたの経験したことを短く云って下さいますか?
答 はい、私は死んだ友人を見たんです。それも、私にだけ見え
るというものです。他の人々には一切、見えません。ですか
ら、余計に怖いのです。
問 そうですか。その現象は今も続いているんでしょうか?
答 はい…。頻度(ひんど)は以前ほどではなくなりましたが。
問 その方は現れるだけなのですか?
答 いいえ、私と会話も交わしますよ、普通の人と同じように…。
問 その声は他の人にも聞こえるんですか?
答 いいえ、他人には何も聞こえません。聞こえれば、これはも
うパニックですよ。
問 そりゃ、そうですね…。失礼しました。
本は続いていく。こりゃ、切りがないと思った上山はその本を受付で借りて図書館を出た。