幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第六十六回
「おお! やはり来てくれたか」
『ええ、何でしょう? なんか急に身体が吸い寄せられるように消えて…というか、あちらが消えた瞬間、こちらだったんですよ、実は』
「そうだったのか。あちらからこちらなあ…、分かりよい話だ。君の身体は私の左手首と連動しているのかも知れんな。いや、そうに違いない」
『えっ? だって、課長と僕のただの口約束で、ですよ。そりゃ、ないでしょ』
「いや、君には分からんだろうが、私と君が合図を決めた時点で、君の脳にプログラムされたに違いない」
『…そうでしょうか? まあ、とにかく、全自動なんですよ』
幽霊平林は怪訝(けげん)な面持ちで陰気に上山を見た。
「ああ…そうとしか考えられんよ。私がグルリと回して君がパッ! だからなあ」
『そういや、僕も急に引き寄せられたというか…。別に自分で意識してないのにですよ』
「そうだろ。…そんなこたぁ~この際、どうだっていいんだよ。それよか、社会悪だよ」
『はあ?』
「はあ、じゃない。社会悪だよ、社会悪。これこれ!」
上山は新聞の内乱勃発を報じる一面記事を指さし、そう云った。上山の指先を幽霊平林は追うように見つめながら、フワリフワリと下降して、その紙面を覗(のぞ)き込んだ。
『…なるほど、こりゃドでかい社会悪ですね』
「だろ? 犯人の目星がつかないドでかい社会悪さ」
『これがターゲットですか?』
「ああ、方法までは、まだ考えてないが、目標としては申しぶんないだろ?」
『はい、僕もそう思います…』
幽霊平林も上山に促(うなが)され、得心した。
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