予想外の好結果が得られたり、悪い結果を知らされたとき、意外な涙が急に出て、戸惑ってしまうことがある。人は感情に脆(もろ)い動物・・という証(あかし)だが、私なんかも、時折り起こる現象だから厄介(やっかい)に思える。^^
とある片田舎の映画館である。この映画館は今風の入れ替えシステムではなく、入れ替え無しのうらぶれた古い映画館だ。館長の窪川(くぼかわ)はこの映画館のオーナーで管理人を兼ねている。映写技師の波山(なみやま)も開館当初からの従業員として年恰好は窪川とそうは変わらなく、五十年来の幼馴染だ。
窪川「波山さん、そろそろいつものお茶タイムにしませんかっ!?」
映写室で機械の点検をしていた波山に窪川がドアを開けて、ひと声かけた。
波山「ああ、いいですなっ! おや、もうこんな時間か…」
波山は腕に目を落とし、呟(つぶや)くように言った。二人の間には暗黙の了解が成立していて、ほぼ十時にお茶タイムで休憩することになっていた。
十分後、淹(い)れられたブルーマウンテンの香りがする休憩室の応接椅子に二人は座っていた。クッキーを摘(つま)み、コーヒーカップ片手に、二人の話は弾(はず)む。
窪川「そうそう! いつも前方の二列目に座るお客でしょ?」
波山「そんなとこで泣くんかいっ! と思いながら画面を眺(なが)めとるんですがね…」
窪川「いや、私も涙脆い方なんですがな。あの場面は予想外で、ははは…流石(さすが)に泣けません」
波山「それもすごい泣き方なんでね。上から見とりますと、他の客が難儀してるようで…」
「出て下れ! とも言えませんからな…。分かりました。入場されたとき、私からそれとなく言っておきましょう…」
「お願いします。泣かれるのなら、最後列の座席でヤンワリと…」
「ははは…ヤンワリですか。そりゃ、いいっ!」
二人は大声で呵(わら)い合った。
予想外の涙は、目立たずヤンワリ出した方が迷惑にならないようです。^^
完
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