≪脚色≫
秋の風景
(第四話)遺伝 <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 居間 夜
着物姿の恭之介。開襟シャツにズボン姿の恭一。どってりと畳上の座布団に座り、将棋を指す二人。盤面に眼を釘づけにする二人。
○ メインタイトル
「秋の風景」
○ サブタイトル
「(第四話) 遺伝」
○ 居間 夜
唐突に、恭一の頭を見る恭之介。
恭之介「お前…年の割には白髪(しらが)もなく、禿(はげ)もせんな」
恭一 「えっ? ははは…。そのうち、父さんみたいになりますよ」
恭之介「そうかぁ?」
恭一 「ええ…間違いなく。遺伝的なものがありますから…」
恭之介「そうとは限らんだろう…」
恭一 「まあ…そうとは限りませんが。…王手!」
突然、手を動かし、駒を掴むと音も高らかに盤面へ打ち据える恭一。ギクッ! として、盤面へ眼を落とす恭之介。
恭之介「ウッ! …しかし、相変わらず付和雷同だな、お前の性分は…」
恭一 「そうかも知れません」
恭之介「やはり、付和雷同だ。そこは、『いいえ、違います』だろうが?」
恭一 「はあ…(恐縮して)」」
○ 台所 夜
台所テーブルの椅子に座りテレビを観る風呂上がりの正也。テレビのスイッチを切る正也。恭之介と恭一が将棋を指す様子を、美味
そうにジュースを飲みながら遠目で眺める正也。冷蔵庫からビール瓶を出し、ツマミ、コップ(2)とともに盆に乗せる未知子。盆を手に
居間へ向かう未知子。
正也M「今夜も将棋の大一番が展開する居間である」
○ 居間 夜
盆を手に、居間へ入る未知子。
未知子「お義父様、ビールとおツマミ、ここへ置いときます」
盆を長机に置く未知子。
恭之介「あっ、未知子さん。いつも、すまないですねえ」
恭一 「俺のコップは?」
未知子「あなたの分も、あります!」
恭之介「そんなこと訊くか? 普通…。忰(せがれ)とはとても思えん。儂(わし)なら当然、持ってきて下さったと思う。これが双方の信頼
関係だ。お前、儂の遺伝子を持ってる筈なんだがなあ…」
渋い表情の恭一。聞いていない態で、微笑みながら台所へ向かう未知子。
○ 台所 夜
台所へ入る未知子。
未知子「正也、もう寝なさいよ…」
洗濯機を見ようと、そそくさと通り過ぎる道子。
正也 「うん…」
正也M「母さんがバタバタしているのは家事であり、遺伝によるものではないだろう」
○ 居間 夜
禿げ頭を手の平で、こねくり回す恭之介。
恭之介「いや~、今日は参った、惨敗だ。頭がいいのも儂の遺伝か?(顔を赤らめ、笑顔で小笑いして)」
恭一 「はい、そのようです…(小笑いして)」
○ 台所 夜
恭之介と恭一の笑顔で話し合う姿(無音)。それを見る正也。コップを手に椅子から立つ正也。炊事場でコップを洗う正也。台所を去
る正也。
○ 居間 前廊下 夜
前廊下を歩く正也。首筋を同じ仕草で撫でる恭之介と恭一。ニタリと笑いながら部屋へ向かう正也。
正也M「これは遺伝によるものに違いないと思った」
電灯の光を受け、輝く恭之介の頭。
正也M「光沢を放つじいちゃんの頭。こんな頭に父さんがなるのが大いに楽しみだ」
○ エンド・ロール
談笑する恭之介と恭一。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 秋の風景☆第四話」をお読み下さい。