水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-71- 台風

2017年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 台風も実は進路を考えている…と、考える阿保(あぼ)という馬鹿げた知りあいの男がいる。阿保の考えによれば、台風には隠れた思考能力があり、密(ひそ)かに弱そうな地域を狙(ねら)って絶好の機会を窺(うかが)っている・・というのだ。こりゃ、ダメだな…と台風が判断したときは、進路を急に変えたり、よしっ! チャンスだっ! …と見れば、俄(にわ)かに北上したりするそうである。ただ、台風にも弱点は当然あり、進路を高気圧に阻(はば)まれたときは、かなり焦(あせ)るのだという。なにせ、そういつまでもジィ~~っとその位置に停滞できない・・というのが台風の生まれ持った宿命だからという理由らしい。当然、進路を求めて台風は迷走することになる。そうなれば、またこれも当然のように体力は弱ってくる。
「迷走した台風は、急速に勢力を落とし、温帯低気圧になりました…」
 そんなニュースが流れているとき、当の台風は、『ダメだったか…』と負けを認めた棋士のように投げ場を求めているのだそうだ。「本当かい?」と笑いながら訊(たず)ねると、「ええ、もちろん!」と阿保は即答した。
 あまり小馬鹿にするのもなんだから、「ああ、そうなんだ…」と一応、素直に聞いてはおいたが、台風には隠れた何かがある? ということのようだ。

                              


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 隠れたユーモア短編集-70... | トップ | 隠れたユーモア短編集-72... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事